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背徳 第13話Side.亜蘭

「…だから言ったでしょ?こうなることは、予想できたはずです」


「ゆりは…本当に君を…俺だと思って…」


「だからそうだって言ってます。…だいたい、それを望んだのはあなたでしょう?」



いや…違う。

俺は…時間がかかっても、白鳥を白鳥として愛すればいいと思っていた。


2度と姿を現さなければ、ゆりの俺への気持ちは、やがて消えてなくなるだろう。


ても…そこまでいくのにかなり苦しむはずだ。


そんな時…何もかもを知った上で、許してやれる白鳥なら、2人一緒に歩めると思ったんだ。


なのに白鳥は、俺になりすまして愛される道を選んだ。



それは…はじめから彼の計画だった気がしてならない。




ゆりへの気持ちを伝えて、思いのほか強い…ゆりからの気持ちを受け取って…幸せの頂点にいたけれど。


このままでいいはずがないって、思っていた。


だから辛い選択をしたんだ。

すべては…ゆりのためだった。



血の繋がっている俺たちが愛し合うということは、不幸な結果を生む可能性を孕んでいる。


本当なら喜ばしいニュースは、ゆりの心と体に、どれほどの痛みと傷を与えるだろう。


考えるだけで身震いがした。


だから、愛し合うことをやめなければならない。


気持ちを伝えるなら、いつまでも近くにいてはダメだと思った。

就職して海外事業部を希望したのは、そんな理由から。


何も言わずに別れたのは、俺をひどい奴だと恨んで…支えてくれる白鳥を自然に頼るようにと、考えたから。


普通の、幸せを掴んで欲しい。


身を切るような思いだった。

…俺にはできないことを、白鳥に託したんだ。



なのにあいつは、俺の姿を真似てゆりのそばにいる…

それが俺ではないと認識できないとしたら、今のゆりの精神状態は…


本当はこのまま2度と会わずに海外へ行くつもりだったが、その前にもう一度白鳥を訪ねてみよう…







そう思いながら、渡航するための準備に追われていた。



そんな矢先のこと…



…俺は、とんでもない事実を知ってしまった。






「…俺が、養子…?」


海外へ発つためにパスポートを取るのに、生まれて初めて戸籍謄本を取り寄せた。



何気なく確認したそれに、俺が養子である記載がはっきり記されている…



渡航するまでのわずかな日にちの中で、俺は母を訪ねた。


微笑む人を見て、この人が産みの母ではない事実に打ちひしがれる。



「父さんも、呼んでるから」


遅れてやって来た父は、やけに顔色が青白いと感じる。



昔から不仲だった両親に、どんな秘密が隠されているのか…


切り出したのは、母だった。




「亜蘭は…お父さんが愛した人の子供なのよ」




「…それは、俺とゆりが、腹違いの兄妹ってこと…?」




父親が産ませた愛人の子供、それが…この俺。



「いや…」


父が短く否定した。


「俺が愛した女が、別の男との間に作った子供が…お前だ」


「…は?」


理解できない。

父は愛した女に裏切られたということか。…その時母は?



「この人は…私と結婚した後も、付き合ってた女と続いてたのよ。私の父がそれを知って、別れさせたの」


祖父が工場を経営していたことは聞いたことがある。

子供の頃に亡くなったので、どんな業種かは知らないが。


それでも…と、母の話は続いた。


「…隠れて女と会ってた。それで父が女に、慰謝料の請求をするって乗り込んで、ヨーロッパ系のハーフの男をあてがった。ちょうど父の工場に働きに来てた人よ」


そしたらあっさり手を引いて、その男とくっついたと…笑いながら言う母。


父は、何も見ていないような目を庭に落としている。


「…それで終わったと思ったのよ。でもね、この人とその女は、まだ繋がってたの」


「俺の本当の両親は、今どこに…?」


たまらなくなって聞いてみると、意外な言葉が返ってきた。



「死んだ」



父が…まさに死んだような目で言った。



「交通事故でね。父親は即死、母親はあなたを庇って…瀕死の状態で助かったけど、その後死んだわ」


母が父に代わって説明する。

そんな言葉を聞いていた父の表情が、珍しく感情に揺れるのを見た。


「俺に連絡があったんだ。子供を頼むって。断れなかった…愛してた女が、死にそうなのに、俺を頼ったんだ。俺に…大事な物を託したんだ…」


両親の話に絶句した。


「なんで…母さんは、俺を?憎い女の…子供の俺を…?」


涙が溢れた…

まさかの自分の出生を知って…



母から、思いがけない言葉が返ってきた。


「だって…私が受け入れなければ、この人私と別れるって言うんだもの…私だって、愛してたのよ…!この人のことを、愛してたのよっ!」


父の頬にも涙が伝っていた。




ここにも、歪んだ愛の形があったと知る。




その後2人の間には、ゆり…百合亜が産まれた。


俺の名前と同じ漢字を付けたのは、どんな思いがあったからなのか。


2人は、それでも関係を深めることはできなかった。


父は母に背徳心を感じ続け、母もそんな父の心を洗い流してやることはできなかった。


俺がゆりのアパートに行った同じ日に、父が家を出たのは…そんな意味があったと知る。



でも、これでハッキリした。


ゆりへの気持ちは、許されない愛ではなかった。

…俺達に血の繋がりはない…!


何も縛られず、不安になることなんてなかった…!


ゆりに会いたい。

今すぐ会いたい…!





「…もう遅いですよ。何もかも」



それを阻むのが、かつて信頼した男だったなんて。



「ゆりは…あなたが帰ってこないことで精神を病んで、俺をあなただと思い込んでます」


「…君は、それでいいのか?」


「…覚悟の上です。逆に…」


フフ…っと笑う白鳥。

何を言い出すのか、ジッと耳を澄ませてしまう。


「美しいあなたになれて…幸せなんだ俺は。そのうえ、愛するゆりも手に入った…」


最高に幸せです…と言った声が、確かに自分に似ていて…身震いする。


何も言わずに携帯を切り、俺はゆりのアパートに向かった。






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