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第10話

位の大典が終わると同時に、


私は後宮の女たち、そして兄弟姉妹の全員を、郊外の離宮へと送った。


そこは外界から完全に隔絶された空間。



絹と錦に包まれ、食にも衣にも不自由はないが――


一生、そこから一歩も外に出ることは許されない。



もし命令に逆らい、旧臣や外部と通じようとする者がいれば、


即刻、首を刎ね、宮門に晒した。




これは忠告ではない。



これは、私が皇帝であるという現実を、


世界に刻みつけるための――「示威」である。




私は元号を「昭元」と改め、


古臭く腐りきった科挙制度を廃し、


代わって、新たな女官制度を整備した。




賀蘭帰。



あの忠実な獣を「征夷大将軍」に封じ、


一品親王に準ずる地位を与えた。



彼には、蝦夷の旧領と、奥州の新たに征服した地を任せた。




白鏡には「参議」の官位を授け、内閣に招き入れた。


私の政務を側で支える――それが彼の役目だ。




けれど。


女帝の即位など、そう簡単に受け入れられるはずがない。



朝廷の内外には、不満を抱き、


表では服従を装いながら、裏で牙を研ぐ者が後を絶たなかった。




だが、それを表立って口にする者は、一人もいなかった。


……誰が、言えるだろう?




その傍らには、あの征夷大将軍が、常に控えているのだから。




彼は女帝に忠誠を誓い、同時に、最も恐ろしい獣として人々を睨みつける。



一度その鋭い視線に射抜かれれば、誰もが全身の血が凍るという。


その姿はまさに、鋼の牙をもつ巨大な獒犬。



女帝の命を守るためなら――


いつでも喉元に喰らいつく準備ができている。




昭元元年、二月。


私は初めて、御前会議にて政務を執る「臨朝聴政」を行った。




その朝。


殿内では、贈賄・収賄・背任・謀叛……


山のような罪状を抱えた重臣たちの名が、次々と読み上げられた。




そして――


征夷大将軍は、血に飢えた剣を手に、


静まり返った大殿の中を、音もなく歩き始めた。




私が一人ずつ、名を告げるたびに。


彼はためらいなく、刀を振り下ろす。




そのたびに、重臣の首が宙を舞い、


朱塗りの柱と白い床に、血が飛び散った。


征夷大将軍は、まだ滴る血のついた首を高く掲げる。


まるで、狩りの成果を誇示するかのように。




私は、御座の上からそれを冷静に見下ろしながら、


時にこんな指摘もしていた。




「……愛卿、今のは斬り口が荒い。威儀に欠けます


 次は、もっと切れ味の良い刀を用意しなさい」




殿内には、鉄と血の匂いが満ちていた。


官僚たちは皆、顔色を失い、膝を震わせていた。




――けれど。



私と狼だけが。


その光景のなかで、冷静に、時に笑みすら浮かべながら、


次に討つべき虫の名前を話し合っていた。




時には、白鏡・参議が、命がけで諫言を呈することもあった。



だが。


彼の言葉は、この「狂った主従」には届かない。




一度、もし私が制止していなければ――


征夷大将軍は、そのまま白鏡までも刀にかけていたに違いない。




ふふ。


まるで、ふたりの狂人。




だが、そんな私たちのやり方こそが、


何よりも速く、朝廷を正す力となった。




怯えきった貴族たちは、口を閉ざし、


禁軍も、民も、整然と従い始めた。




平安京は、血と炎の洗礼を経て、見事に沈静化した。




そして――


「昭元女帝」の名は、雷霆の如き威光とともに、


あっという間に列島中へと響き渡っていったのだった。




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