位の大典が終わると同時に、
私は後宮の女たち、そして兄弟姉妹の全員を、郊外の離宮へと送った。
そこは外界から完全に隔絶された空間。
絹と錦に包まれ、食にも衣にも不自由はないが――
一生、そこから一歩も外に出ることは許されない。
もし命令に逆らい、旧臣や外部と通じようとする者がいれば、
即刻、首を刎ね、宮門に晒した。
これは忠告ではない。
これは、私が皇帝であるという現実を、
世界に刻みつけるための――「示威」である。
私は元号を「昭元」と改め、
古臭く腐りきった科挙制度を廃し、
代わって、新たな女官制度を整備した。
賀蘭帰。
あの忠実な獣を「征夷大将軍」に封じ、
一品親王に準ずる地位を与えた。
彼には、蝦夷の旧領と、奥州の新たに征服した地を任せた。
白鏡には「参議」の官位を授け、内閣に招き入れた。
私の政務を側で支える――それが彼の役目だ。
けれど。
女帝の即位など、そう簡単に受け入れられるはずがない。
朝廷の内外には、不満を抱き、
表では服従を装いながら、裏で牙を研ぐ者が後を絶たなかった。
だが、それを表立って口にする者は、一人もいなかった。
……誰が、言えるだろう?
その傍らには、あの征夷大将軍が、常に控えているのだから。
彼は女帝に忠誠を誓い、同時に、最も恐ろしい獣として人々を睨みつける。
一度その鋭い視線に射抜かれれば、誰もが全身の血が凍るという。
その姿はまさに、鋼の牙をもつ巨大な獒犬。
女帝の命を守るためなら――
いつでも喉元に喰らいつく準備ができている。
昭元元年、二月。
私は初めて、御前会議にて政務を執る「臨朝聴政」を行った。
その朝。
殿内では、贈賄・収賄・背任・謀叛……
山のような罪状を抱えた重臣たちの名が、次々と読み上げられた。
そして――
征夷大将軍は、血に飢えた剣を手に、
静まり返った大殿の中を、音もなく歩き始めた。
私が一人ずつ、名を告げるたびに。
彼はためらいなく、刀を振り下ろす。
そのたびに、重臣の首が宙を舞い、
朱塗りの柱と白い床に、血が飛び散った。
征夷大将軍は、まだ滴る血のついた首を高く掲げる。
まるで、狩りの成果を誇示するかのように。
私は、御座の上からそれを冷静に見下ろしながら、
時にこんな指摘もしていた。
「……愛卿、今のは斬り口が荒い。威儀に欠けます
次は、もっと切れ味の良い刀を用意しなさい」
殿内には、鉄と血の匂いが満ちていた。
官僚たちは皆、顔色を失い、膝を震わせていた。
――けれど。
私と狼だけが。
その光景のなかで、冷静に、時に笑みすら浮かべながら、
次に討つべき虫の名前を話し合っていた。
時には、白鏡・参議が、命がけで諫言を呈することもあった。
だが。
彼の言葉は、この「狂った主従」には届かない。
一度、もし私が制止していなければ――
征夷大将軍は、そのまま白鏡までも刀にかけていたに違いない。
ふふ。
まるで、ふたりの狂人。
だが、そんな私たちのやり方こそが、
何よりも速く、朝廷を正す力となった。
怯えきった貴族たちは、口を閉ざし、
禁軍も、民も、整然と従い始めた。
平安京は、血と炎の洗礼を経て、見事に沈静化した。
そして――
「昭元女帝」の名は、雷霆の如き威光とともに、
あっという間に列島中へと響き渡っていったのだった。