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57 魔導士、昼から温泉に入る

 そのあと、俺が戦利品を倉庫にしまっていると、フェムの耳がピンとたった。

 すぐに魔狼たちが地竜の肉などを続々と倉庫横に運んでくる。

 魔狼たちは自分より大きな肉を運んでいた。子魔狼も一生懸命手伝おうとしている。


「手伝おうか?」

『魔狼たちは地竜を自分で倒したわけでもないのだ。このぐらい労働しなければ甘えすぎなのだ』

「そんなものか」


 魔狼王がそういうのならそうなのだろう。

 黙ってみていると、続々と地竜やワイバーンの肉が集まってくる。


『保存できる場所を貸して欲しいのだ』

「いいぞ。今日食べる分はどれだ?」

『これ』


 今日は地竜の肉を食べるらしい。

 倉庫にはまだまだ余裕があるので、残りを入れる。

 色々な魔法陣が描かれている倉庫なので、中に入れれば当分腐らない。


「わふわふっ」


 地竜の肉の周りで魔狼たちがうずうずしている。

 勝手に食べ始めるやつが1匹もいないのは偉い。


 そんなことを考えていると、魔狼たちが俺の周囲に集まり始めた。


「わふっ」


 魔狼たちは期待のこもった目で俺を見つめてくる。


「もしかして焼いてほしいの?」

「わふ! わふ!」


 一斉に尻尾を振る。

 前も肉を焼いてやった覚えがある。魔狼はやっぱり焼いた肉が好きなのだろうか。


「フェム、焼いてあげてもいい?」

『頼むのだ』


 フェムの許可が出たので、炎魔法で焼いてやった。

 焼いた肉をフェムが分配していく。こういう時に分配するのが王の役目らしい。


 その様子をじっとクルスが物陰から見ていた。


「クルスも食べたいの?」

「違いますよ」

「ちゃんと、人間らしいものを食べなさい」

「だから、違いますって」


 クルスは心外そうにほほを膨らます。


「こっち来てください」

「むむ?」

「もう?」


 クルスにぐいぐいと引っ張られる。なにかあったのだろうか。

 モーフィもついてきた。


「クルス、何かあった?」

「ユリーナたち、朝からお風呂入ったらしいんです」

「らしいな」


 ミレットが誘って、ルカとユリーナとコレットが温泉に入ったのだ。

 朝から温泉というのは少しうらやましい。


「ぼくたちも入りましょう!」

「おお、入ればいいと思うぞ。まだ時間は早いが今日は休みだしな」

「アルさんも一緒に入りましょう」

「え?」「もぅ?」


 クルスもみんなで温泉に入りたいのかもしれない。

 ルカたちが入浴済みなので俺を選んだのだろう。

 だが、男と女だ。色々問題がある。


「またルカに怒られるぞ?」

「大丈夫です。ユリーナがアルさん誘えばいいって言ってましたし」

「なんじゃと?」


 こっそりついてきていたヴィヴィが突然声を上げた。

 ちなみに俺は最初からヴィヴィの尾行に気付いていた。クルスも気付いていただろう。


 ヴィヴィは俺とクルスの間に割って入る。


「わらわも入るのじゃ」

「なんでだよ」

「じゃあ。ヴィヴィちゃんも入ろうね」


 クルスもヴィヴィも混浴する気満々だ。

 これだからお子様は困る。


「やっぱり混浴はな、色々問題がな」

「アルさん、さっきお願い聞いてくれるって言いました」

「言ったけど」


 休みの日にお使い頼んだから埋め合わせすると確かに俺は言った。


「お願いです。一緒に温泉入りましょう」

「……しかたないな」

「わーい」

「もぅ!」


 クルスとモーフィは嬉しそうだ。


「最近、モーフィはアルとばかり温泉に入っているのじゃ」


 そう言いながら、ヴィヴィはモーフィを撫でている。

 ヴィヴィもモーフィと一緒に温泉に入りたいのかもしれない。


 温泉につくと、なぜか入り口でフェムが待機していた。

 すまして座っているが、尻尾は激しく揺れている。


「フェム?」

「わふ」

「肉食べなくていいのか?」

『もう食べたのだ』

「そうか」


 フェムは期待のこもった目で見つめてくる。

 フェムはユリーナとクルスの会話を聞いていたのかもしれない。

 それで俺たちが温泉に入ることを知ったのだろう。


「フェムも、入る?」

『入るのだ』


 フェムの尻尾の揺れが激しくなった。


 着替えるときが一番恥ずかしい。なので時間をずらしてもらった。

 モーフィたちを洗う俺が先に入って、あとからヴィヴィとクルスが入ることになった。


「もぅもぅ」

「わふわふ」


 フェムもモーフィも体を洗ってやると、すぐに湯船に入りに行く。

 モーフィもフェムも幸せそうだ。


 フェムはお湯の中にもぐったりしている。

 俺は自分の体を洗いながら、フェムに尋ねる。


「もしかして、フェム、お湯飲んでたりする?」

『うまいのだ』


 魔獣は魔力を食べるとルカが言っていた。魔鉱石の含まれた温泉は美味しいのだろう。

 人間基準では汚い感じがするが、狼はそんなこと気にしないのだ。

 モーフィまで口を開けてもぐったりし始めた。


「モーフィうまいのか?」

『うまい』

「そうか」


 美味しいならそれでいい。


 そこに、クルスとヴィヴィが入ってきた。大きなタオルで体を覆っている。

 この前、クルスは全裸だったことを考えれば、常識を身に着けたと言えるかもしれない。


「アルさーん背中流しますよー」

「いや、俺が流そう」

「えー!」


 休みの日にお使いを頼んだ埋め合わせだ。俺が背中を流した方がいい。


「恥ずかしいです」

「今更かよ!」

「わらわの背中を流すがよいのじゃ!」

「まあ、いいけど」


 ヴィヴィの背中を流してやった。


「うむ、いい感じなのじゃ」

「あー、いいなー」


 恥ずかしがっていたくせに、うらやましくなったようだ。


「クルスの背中も流してやるからな」

「えへへ」


 なぜかクルスは照れていた。

 ヴィヴィの背中を流した後、クルスの背中を流してやる。


「えへへ、ありがとうございます」


 クルスにも喜んでもらえた。

 そのあと、クルスに背中を流してもらってから湯船に入る。


「もぅ」

「モーフィは温泉が好きなのじゃな」

「ももう」

「文化的な牛なのじゃ」


 ヴィヴィは楽しそうにモーフィを撫でている。

 モーフィもヴィヴィの顔を舐めていた。


 フェムはクルスの周りを泳いでいる。しかも口が開いている。

 あれでは、口の中にお湯が入りまくりだ。


「フェムはかわいいねー」

「がふがふ」


 クルスはフェムを撫でる。フェムはお湯を飲んでいるように見える。


「フェム。クルスの周りのお湯が飲んでる?」

『たまたまなのだ』


 クルスの周りのお湯にはなにか特別な力があるのかもしれない。


 フェムを撫でていたクルスが寄ってくる。それに伴いフェムも近づいてきた。


「アルさんひざ見せてください」

「ああ、かまわないぞ」


 クルスに見えやすいよう、ヘリに座る。一応大事なところは見えないように気を付ける。


「うーん。まだ痛みますか?」

「まだ痛いぞ。だが我慢できないほどじゃない。まだ魔王の力ってのは感じる?」

「はい。全然変わってません」


 魔王の力とやらは時間とともに弱くなると思ったのだが。


 クルスが痛む左ひざを撫でてくれた。それだけで痛みが和らいだ。


「ありがとう。なんかクルスに撫でられると痛みが和らいだ気がした」

「ほんとですか?」

「うん」

「えへへ。じゃあもっと撫でますね」


 クルスがひざを優しくなでてくれる。


 そのとき、モーフィが歩いてきた。そして念話が飛んでくる。


『おしっこ』

「ちょ、ちょっとまて、すぐに外に連れて行ってやるから我慢しろ」

『がまんする』


 賢い牛である。

 俺は急いでモーフィを外へと連れて行った。

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