そのあと、俺が戦利品を倉庫にしまっていると、フェムの耳がピンとたった。
すぐに魔狼たちが地竜の肉などを続々と倉庫横に運んでくる。
魔狼たちは自分より大きな肉を運んでいた。子魔狼も一生懸命手伝おうとしている。
「手伝おうか?」
『魔狼たちは地竜を自分で倒したわけでもないのだ。このぐらい労働しなければ甘えすぎなのだ』
「そんなものか」
魔狼王がそういうのならそうなのだろう。
黙ってみていると、続々と地竜やワイバーンの肉が集まってくる。
『保存できる場所を貸して欲しいのだ』
「いいぞ。今日食べる分はどれだ?」
『これ』
今日は地竜の肉を食べるらしい。
倉庫にはまだまだ余裕があるので、残りを入れる。
色々な魔法陣が描かれている倉庫なので、中に入れれば当分腐らない。
「わふわふっ」
地竜の肉の周りで魔狼たちがうずうずしている。
勝手に食べ始めるやつが1匹もいないのは偉い。
そんなことを考えていると、魔狼たちが俺の周囲に集まり始めた。
「わふっ」
魔狼たちは期待のこもった目で俺を見つめてくる。
「もしかして焼いてほしいの?」
「わふ! わふ!」
一斉に尻尾を振る。
前も肉を焼いてやった覚えがある。魔狼はやっぱり焼いた肉が好きなのだろうか。
「フェム、焼いてあげてもいい?」
『頼むのだ』
フェムの許可が出たので、炎魔法で焼いてやった。
焼いた肉をフェムが分配していく。こういう時に分配するのが王の役目らしい。
その様子をじっとクルスが物陰から見ていた。
「クルスも食べたいの?」
「違いますよ」
「ちゃんと、人間らしいものを食べなさい」
「だから、違いますって」
クルスは心外そうにほほを膨らます。
「こっち来てください」
「むむ?」
「もう?」
クルスにぐいぐいと引っ張られる。なにかあったのだろうか。
モーフィもついてきた。
「クルス、何かあった?」
「ユリーナたち、朝からお風呂入ったらしいんです」
「らしいな」
ミレットが誘って、ルカとユリーナとコレットが温泉に入ったのだ。
朝から温泉というのは少しうらやましい。
「ぼくたちも入りましょう!」
「おお、入ればいいと思うぞ。まだ時間は早いが今日は休みだしな」
「アルさんも一緒に入りましょう」
「え?」「もぅ?」
クルスもみんなで温泉に入りたいのかもしれない。
ルカたちが入浴済みなので俺を選んだのだろう。
だが、男と女だ。色々問題がある。
「またルカに怒られるぞ?」
「大丈夫です。ユリーナがアルさん誘えばいいって言ってましたし」
「なんじゃと?」
こっそりついてきていたヴィヴィが突然声を上げた。
ちなみに俺は最初からヴィヴィの尾行に気付いていた。クルスも気付いていただろう。
ヴィヴィは俺とクルスの間に割って入る。
「わらわも入るのじゃ」
「なんでだよ」
「じゃあ。ヴィヴィちゃんも入ろうね」
クルスもヴィヴィも混浴する気満々だ。
これだからお子様は困る。
「やっぱり混浴はな、色々問題がな」
「アルさん、さっきお願い聞いてくれるって言いました」
「言ったけど」
休みの日にお使い頼んだから埋め合わせすると確かに俺は言った。
「お願いです。一緒に温泉入りましょう」
「……しかたないな」
「わーい」
「もぅ!」
クルスとモーフィは嬉しそうだ。
「最近、モーフィはアルとばかり温泉に入っているのじゃ」
そう言いながら、ヴィヴィはモーフィを撫でている。
ヴィヴィもモーフィと一緒に温泉に入りたいのかもしれない。
温泉につくと、なぜか入り口でフェムが待機していた。
すまして座っているが、尻尾は激しく揺れている。
「フェム?」
「わふ」
「肉食べなくていいのか?」
『もう食べたのだ』
「そうか」
フェムは期待のこもった目で見つめてくる。
フェムはユリーナとクルスの会話を聞いていたのかもしれない。
それで俺たちが温泉に入ることを知ったのだろう。
「フェムも、入る?」
『入るのだ』
フェムの尻尾の揺れが激しくなった。
着替えるときが一番恥ずかしい。なので時間をずらしてもらった。
モーフィたちを洗う俺が先に入って、あとからヴィヴィとクルスが入ることになった。
「もぅもぅ」
「わふわふ」
フェムもモーフィも体を洗ってやると、すぐに湯船に入りに行く。
モーフィもフェムも幸せそうだ。
フェムはお湯の中にもぐったりしている。
俺は自分の体を洗いながら、フェムに尋ねる。
「もしかして、フェム、お湯飲んでたりする?」
『うまいのだ』
魔獣は魔力を食べるとルカが言っていた。魔鉱石の含まれた温泉は美味しいのだろう。
人間基準では汚い感じがするが、狼はそんなこと気にしないのだ。
モーフィまで口を開けてもぐったりし始めた。
「モーフィうまいのか?」
『うまい』
「そうか」
美味しいならそれでいい。
そこに、クルスとヴィヴィが入ってきた。大きなタオルで体を覆っている。
この前、クルスは全裸だったことを考えれば、常識を身に着けたと言えるかもしれない。
「アルさーん背中流しますよー」
「いや、俺が流そう」
「えー!」
休みの日にお使いを頼んだ埋め合わせだ。俺が背中を流した方がいい。
「恥ずかしいです」
「今更かよ!」
「わらわの背中を流すがよいのじゃ!」
「まあ、いいけど」
ヴィヴィの背中を流してやった。
「うむ、いい感じなのじゃ」
「あー、いいなー」
恥ずかしがっていたくせに、うらやましくなったようだ。
「クルスの背中も流してやるからな」
「えへへ」
なぜかクルスは照れていた。
ヴィヴィの背中を流した後、クルスの背中を流してやる。
「えへへ、ありがとうございます」
クルスにも喜んでもらえた。
そのあと、クルスに背中を流してもらってから湯船に入る。
「もぅ」
「モーフィは温泉が好きなのじゃな」
「ももう」
「文化的な牛なのじゃ」
ヴィヴィは楽しそうにモーフィを撫でている。
モーフィもヴィヴィの顔を舐めていた。
フェムはクルスの周りを泳いでいる。しかも口が開いている。
あれでは、口の中にお湯が入りまくりだ。
「フェムはかわいいねー」
「がふがふ」
クルスはフェムを撫でる。フェムはお湯を飲んでいるように見える。
「フェム。クルスの周りのお湯が飲んでる?」
『たまたまなのだ』
クルスの周りのお湯にはなにか特別な力があるのかもしれない。
フェムを撫でていたクルスが寄ってくる。それに伴いフェムも近づいてきた。
「アルさんひざ見せてください」
「ああ、かまわないぞ」
クルスに見えやすいよう、ヘリに座る。一応大事なところは見えないように気を付ける。
「うーん。まだ痛みますか?」
「まだ痛いぞ。だが我慢できないほどじゃない。まだ魔王の力ってのは感じる?」
「はい。全然変わってません」
魔王の力とやらは時間とともに弱くなると思ったのだが。
クルスが痛む左ひざを撫でてくれた。それだけで痛みが和らいだ。
「ありがとう。なんかクルスに撫でられると痛みが和らいだ気がした」
「ほんとですか?」
「うん」
「えへへ。じゃあもっと撫でますね」
クルスがひざを優しくなでてくれる。
そのとき、モーフィが歩いてきた。そして念話が飛んでくる。
『おしっこ』
「ちょ、ちょっとまて、すぐに外に連れて行ってやるから我慢しろ」
『がまんする』
賢い牛である。
俺は急いでモーフィを外へと連れて行った。