俺はモーフィを連れて急いで外に行く。
全裸で出るわけにはいかないので、軽く体を拭いて下着だけ身に付けた。
モーフィを草むらへと連れて行く。
「もぅ」
「おっと。採取するぞ」
じょばばばばと、モーフィは勢いよくおしっこをする。
ルカに頼まれていた採取もしなければならない。
瓶を使って尿を取る。
「もぉ」
「ふむ」
俺は瓶に採取した、モーフィの尿を観察する。普通の尿だ。
臭いも嗅いでみる。臭いも普通に感じる。
「普通にみえるがなー」
味が特殊なのかも知れない。だがさすがに舐める気にはならない。
ルカに任せれば、王都に帰ったあと調べてくれるだろう。
ルカは学者さまでもあるのだ。専用の研究室に調査器具なども持っている。
「もぅもぅ」
おしっこを出し終えたモーフィが頭をこしこしとこすりつけてくる。
「もう一回温泉入りたいの?」
「もぅ」
モーフィは体を拭かずに外に出てきた。
いくら夏とはいえ風邪をひきかねない。
「じゃあ、もう一回あったまろうか」
「もぉもぉ」
嬉しそうにモーフィが鳴く。
「あれ? アルさん。きゃっ」
「すまん」
ミレットが、俺の下着姿を見て目をふさいだ。
いまさら下着程度で「きゃっ」もなにもないと思う。
「温泉入ってたら、モーフィがトイレに行きたがってな」
「なるほど、それでここまで来たんですね」
「もう!」
ミレットはモーフィを撫でる。
「わっ、ほんとだ。モーフィちゃん、びちゃびちゃじゃないですか」
「風邪ひかないように、もう一度温まってから出るよ」
「はい、ごゆっくりー」
笑顔のミレットに見送られて温泉へと戻る。
湯船の中では、ヴィヴィとクルスとフェムが待っていた。
お湯の中に入るモーフィをヴィヴィが出迎えて撫でてやっている。
「ちゃんと出たのじゃな?」
「もう」
「いっぱい出たの?」
「もぉ」
ヴィヴィの問いはともかく、クルスの問いは何の確認なのか。
「フェムもしたくなったら言えよ?」
「わふ?」
「湯船の中でされたら困るからな」
『心外なのだっ!』
フェムが、わふわふ言いながら、手を甘がみしてくる。
その様子を見たモーフィが、もぉもぉいいながらべろべろ顔を舐めてきた。
「ちょっ、君たちやめたまえ」
「わふわふっ」「もうもぅ」
騒がしい2頭をしばらく相手にしてやった。
お湯の中で騒いでいれば、当然のぼせる。
「のぼせてきたから俺は先に上がるぞ」
「わかったのじゃ」
「ぼくもすぐ出ますよー」
フェムとモーフィを連れてお湯から出る。すぐに2頭が全力でブルブルした。
フェムはタオルを噛んで床に敷くと、背中をごしごしこすりつけている。器用なものだ。
それを見てモーフィも真似る。モーフィの方はあまりうまくない。
「拭いてやるから、こっち来なさい」
「わふわふ」「もぉ」
風邪をひかないように、念入りに拭いてやった。
————————
夕食時、ヴィヴィが言う。
「種イモの芽が出るのが楽しみなのじゃ」
「芽が出るまで、3日ぐらいだっけ?」
「そうじゃな。3日見ておけば安心確実じゃな」
「その間、農業はおやすみだな」
ここのところ毎日開墾していたので農業しないと暇だ。
俺の今の本業は衛兵だ。衛兵をしとけばいいのだが、なんか寂しい。
「ミレット、その間、衛兵以外で仕事ある?」
「うーん。そうですね」
「牛肉とか売りに行こうか?」
「まだ大丈夫です」
村の仕事もなさそうだ。
農作物の収穫も、肉牛の出荷の時期でもないようだ。
「暇なら、この時間を利用して小屋を建てればいいのじゃ」
「それもそうだな」
衛兵小屋はルカとヴィヴィの戦闘で燃えた。
小屋の再建については、村長と後日話し合うと決めたっきりだ。
「村長と相談してみようかな」
「おっしゃん、出て行っちゃうの? さびしい」
ミレットの妹、コレットがそんなことを言う。
コレットの頭を撫でてやる。
「大丈夫だぞ。小屋に移っても、いつでも遊びに来ていいからな」
「コレット毎日遊びに行く!」
「おお、こいこい。むしろ住んでいいぞ」
「やったー」
「わたしも遊びに行きますね!」
「ミレットも、いつでも来ていいぞ」
「やった」
ミレットが嬉しそうにする。
フェムが鼻で突っついてきた。
『小屋は広いといいのだ』
「そうだな。病気や怪我をした魔狼たちも入れてやりたいしな」
『狼小屋を建ててもいいのだ』
「ふむ」
『冬は寒いのだぞ』
「それもそうだな」
馬小屋や牛小屋があるのだ。狼小屋があってもいい。
「モーフィの部屋も作るのじゃぞ?」
「そうだな」
『いっしょ』
モーフィが俺の手を舐めながら言う。
俺と同じ部屋に住みたいのだろうか。
「モーフィは自分の部屋いらないの?」
『いっしょにねる』
「そうか」
『フェムも同じ部屋でいいのだぞ?』
モーフィとフェムは俺の部屋に住む気らしい。
俺は2頭と同じ部屋で構わない。冬はあったかくて助かる。
「ぼくの部屋はですねー、そんなに広くなくていいですよー」
「え?」
「え? アルさん、どうしました?」
クルスが当然のように自分の部屋をもらえる気でいるのに驚いた。
「まあ、クルスもよく来るしな」
「わたしはクルスと同じ部屋でいいのだわ」
「あたしは、広さはどうでもいいけど、机が欲しいわね」
ユリーナとルカまでそんなことを言う。
「とりあえず、小屋は広めにしたほうがいいな」
俺はそう結論付けた。