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59 小屋を建てる相談をしよう

 寝る時間になった。

 俺のベッドにフェムとモーフィが来てくれる。


「……ぐぬぬ」


 扉の陰からヴィヴィがこちらを見ていた。

 モーフィを取られて悔しいのかもしれない。


「ヴィヴィもモーフィと寝たいのか?」

「べっつにー? モーフィの好きにしたらいいのじゃ」

「もぅ?」


 モーフィがヴィヴィのところに歩いていく。

 そしてヴィヴィの袖を咥えた。


『いっしょ』

「しょうがないのじゃ。モーフィとわらわは仲良しじゃからな」


 ヴィヴィが嬉しそうに、によによ笑う。

 いそいそと、俺のベッドに入っていく。狭くなった。

 ヴィヴィのベッドにモーフィを連れて行けばいいと思う。


 モーフィは体の前半分をベッドの上に乗せる。

 後ろ足は床の上に立ったままだ。


「ベッドも広くしたほうがいいかもな」

「もぅ」

『フェムはこのぐらいでもいいのだ』


 枕元で横になっているフェムがそんなことを言う。

 俺がベッドに入ると、モーフィが顔を俺の腹の上に乗せてくる。


「どうした?」

『なでて』


 モーフィは素直だ。直截(ちょくせつ)的に要求してくる。

 俺はモーフィを撫でまくった。


「もぅもぅ」

「モーフィは人懐こいなぁ」

『すき』


 ぐいぐいと体を押し付けてくる。

 それからモーフィはヴィヴィの方に行く。


「もぅ」

「モーフィは仕方ない子じゃのう」

『すき』


 口ではそんなことを言っているが。ヴィヴィはすごくうれしそうだ。

 によによしながら、モーフィを撫でている。


 それを見ていたら、俺の顔にフェムが尻尾を当ててくる。

 ふぁさふぁさとなって、くすぐったい。フェムも撫でて欲しいのだろう。

 俺は、フェムもたくさん撫でてやった。



 次の日。目が覚めると、なぜかクルスまでいた。寝ながらモーフィを抱きしめている。

 一方、モーフィは俺の手の指を口でくわえていた。もにゅもにゅしている。

 そして、ヴィヴィはフェムの尻尾をくわえていた。


「……もにゅ」

「ふご」

「……わふ」


 ちなみにフェムの腹は俺の顔の上、おでこのあたりに乗っている。


「こいつら寝相悪すぎだろ……」


 モーフィの口から指を抜く。

 それからヴィヴィの口からフェムの尻尾を取り除いた。


「フェムもちゃんと温泉に入ってるとはいえ、お腹壊すぞ……」


 ちゃんと寝かせて彼らに布団をかけてから、俺はベッドから出た。



—————————

 朝食後、いつもどおりクルスたちは王都に戻っていった。

 俺はいつもの衛兵業務だ。


 しばらくして、ミレットと一緒に村長が来てくれる。


「村長、忙しい中、わざわざありがとうございます」

「小屋の再建についてご相談があるとか」

「実は、そうなんです」


 場所などの相談をする。

 当初の希望通り、村の外、倉庫横に建てていいことになった。


 村長は入会地に置いてある材木を指さす。


「木材はおかげさまで余っていますから。ある程度までなら自由に建ててくださって大丈夫ですよ」


 開墾で伐採した木材がかなり余っているのだ。


 ヴィヴィがドヤ顔で紙を取り出した。それを誇らしげに見せてくる。


「いつでも建築できるように、わらわが図面をかいておいたのじゃぞ」

「おお、準備が良いですね」


 笑顔で図面をみた村長が一瞬固まった。


「……」

「どうしたのじゃ?」

「……ちょっと、いや、小屋というよりも屋敷というか……。かなり大きいですね」

「そうかのう? そんなことはないと思うのじゃが」


 俺も図面を覗き込んだ。

 そこには城塞レベルの建物の間取りが書かれていた。


「これはでかいな」

「そうでもないと思うのじゃが」

「この十分の一で充分広いぞ」


 ヴィヴィはでかい城で生まれ育ったのだろうか。

 基準がおかしい。さすがは魔王軍四天王である。


 俺が十分の一の規模に直した図面を見ていたミレットが言った。


「ヴィヴィちゃん、これには台所がないですよ」

「そ、それもそうじゃな。忘れていたのじゃ」

「この辺りに台所を用意してー。温泉のお湯はこの辺りにひくといいと思うの」

「なるほどなのじゃ」


 そんなことを言いながら、どんどん書き換えていく。

 俺が口出す暇もない。


 寝室をどうするかとかまで話し合っている。


「モーフィちゃんとフェムちゃんはアルさんと同じ部屋がいいんでしたね」

「なら、わらわの部屋はアルの隣がいいのじゃ。モーフィとわらわは仲良しじゃからな」


 それを聞いていたモーフィが俺に体をこすりつけながら言う。


『いっしょ』

「そうだな。ベッドも大きめにしとこう」

「もぅ」


 そんな様子を見ていたミレットが微笑んだ。


「じゃあ、アルさんのベッドはモーフィちゃんも一緒に入れるぐらい広くしときましょう」

「ミレット、ありがとう」


 一方、フェムは嬉しそうに、尻尾を振りながら周囲をぐるぐる回っている。


「外に犬小屋を作ってやるのじゃ。フェムはそこで暮らすといいのじゃ」

「がうっ!」

「ひぇ」


 ヴィヴィは意地悪を言って、フェムに吠えられた。


 結果として、俺の部屋にフェムとモーフィが暮らし、ほかの者には一部屋ずつ与えられることになった。

 結構大きい。やはり小屋というレベルではない。


 その図面を見ていた村長が困った顔をする。


「えっと、アルさん」

「問題がありましたか?」

「はい。少し大きすぎてですね……」

「場所が足りませんか?」

「いえ、木材が足りません」


 これから秋が来て、冬が来る。そうなれば木材は燃料となるのだ。

 いまから大きな家を建てる余裕はないかもしれない。


 ヴィヴィは不満げに頬を膨らませる。


「自由に建てていいって言ったのじゃ」

「それは……、申し訳ございません」

「いえ、気にしないでください」


 村長は申し訳なさそうに頭を下げている。

 建築予定の小屋は、常識的な小屋ではない。村長の想定と常識を上回ったのだろう。

 常識の範囲外の物を建てようとしている俺たちの方が悪い。


「王都で、木材を買い付ければいいのじゃ」

「それも一つの手だが」

「ほかに何があるのじゃ? そうか、森の木を伐採するのじゃな?」

『あまり伐採するのはよくないのだ』


 フェムが苦言を呈してくる。森を縄張りとする魔狼王としての発言だろう。

 無視はできない。

 だが俺は元から伐採するつもりもない。


「買わないし、伐採もしないぞ」

「む?」

「別に、木で作らなくてもいいだろ?」

「それはそうじゃが。かえって高くつくのじゃ」


 ヴィヴィもフェムも、みんな肝心なことを忘れている。


「ヴィヴィ、 俺がだれか忘れたのか」

「衛兵じゃろ」

「衛兵ですよね」


 ヴィヴィが、こいつはあほなのかといった目で見てくる。

 ミレットも不安そうに首をかしげていた。


「違くて。いや、そうだけども。俺は魔導士だぞ」

「そうじゃな。知っておるぞ?」

「魔法を使えば建築は簡単だ!」

「ふむ?」


 ヴィヴィも魔導士のくせにぴんと来ていないらしい。

 仕方のない奴である。


「しょうがないな。俺が手本を見せてやろう!」

「おー、頼むのじゃ」

「もぅ」「わふー」

「頑張ってください」


 俺は午後から魔法で家を建てることに決めた。

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