ミレットの家での夕食の後、ルカが心配そうにこちらを見てくる。
「アル、大丈夫? 疲れてない?」
「少し疲れてるぞ。久々に魔法沢山使ったからな」
石や木材の加工に、レンガ並べなど魔法を沢山使った。
問題はレンガ並べだ。
モルタルを塗ってレンガを並べる。それをきわめて正確かつ素早くするのだ。
しかも、数が大量だ。ただでさえ難度と魔力消費の高い重力魔法でそれを行う。
当然ながらとても疲れる。
「今日は早めに寝たほうがいいんじゃない?」
ルカが心配そうに言ってくれる。
まだ余裕はある。冒険者のころなら休まず動いていたレベルの疲れだ。
限界まで魔力消費後、さらに鼻血を出しながら魔法をひねり出すことも珍しくなかった。
だが、今は平時なのだ。限界まで頑張る必要などない。
「そうだな。そうさせてもらうかな」
「わふ」「もぅ」
俺が寝室に向かうと、フェムとモーフィが付いて来た。
俺はベッドに入ると、すぐに眠りについた。
真夜中。誰かがベッドの中に入ってきた。
「む?」
またクルスかと思ったら、ミレットだった。
「ミレットか、どうした?」
「起こしちゃいましたか? ごめんなさい」
「それはいいが……」
「夜這いしにきました」
「えっ!」「わふぅ?」「もぅ!」
俺が驚く以上にフェムが驚いていた。モーフィはよくわかってなさそうだ。
嬉しそうにミレットに顔をこすりつけている。
真剣な表情でミレットが言う。
「アルさん、明日から新居に行っちゃうから」
「だからって」
「私をもらってくだ——」
「ももう」
モーフィはミレットに、じゃれついている。
「ちょっと、モーフィちゃん。いま大切な話を……」
「もう?」
モーフィはミレットが来てくれて嬉しいのだろう。
ミレットはめげずに夜這いの続きをしようとする。
「私、アルさんの……こと……」
「もぅももう」
ミレットはモーフィにべろべろ舐められている。
それでもミレットは真剣な顔を崩さない。
「まあ、ミレット落ち着きなさい「もぅ」
「でも「ももぅ」
「ミレットの気持ちは嬉しいが「もう」
あまりに無邪気にじゃれつくモーフィに、真面目な雰囲気が消し飛んだ。
ついミレットと二人、顔を見合わせて笑ってしまう。
「ふふふ」
「ははは」
「もう?」
モーフィは首をかしげていた。
「とりあえず、今日は寝ますね」
「そうしたらいい」
ミレットは自分の部屋に帰って寝るものだと思って、俺はそう返事する。
だが、ミレットは俺のベッドに入ってきた。
「アルさんが新居に行ったら寂しくなります」
「いつでも来てもいいぞ」
「本当ですか?」
「うむ。なんなら住んでもいいぞ」
一瞬、ミレットの顔が輝いた気がした。
俺は、とても疲れていたので、そのまま寝た。
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次の日の午前中、大工が来てくれた。
内装は村の大工に頼んでおいたのだ。
「これから内装してくるわ。組み立てるだけだから午前で終わるぞ」
「ありがとうございます」
必要な木材の加工は、ほぼ完了している。
昨日までに暇を見つけては魔法で手伝っていたのだ。
「家具作りも終わってるからな。あとは中に入れるだけだ」
「手伝えることはありますか?」
「ああ、例の重力魔法? ってのでちとたのむわ」
「了解です」
大工の指示通りに木材を浮かせて中に入れる。
組み立ても重力制御すると簡単だ。
「いやあ、ほんと魔法って便利だな」
「恐縮です」
「じゃがな、重力魔法をポンポン使える魔導士はそういないのじゃぞ」
「そうかい。それは貴重な人材だな。アルさん、うちの婿になるかい?」
そのとき、ミレットの声が響いた。
「だめ! だめです!」
「じょ、冗談だよ。怖いな……」
大工は顔を引きつらせている。
順調に内装工事は終わった。
「あとは、家具だな」
「家具の搬入も手伝いますよ」
「家具はでかいぞ?」
「魔法もありますし、魔法のかばんも使えますから」
「ほんとに便利だな」
魔法の鞄は外観よりはるかに内容量が大きいのだ。
そして重くならない。
てきぱきと、家具を配置する。昨日に比べたら楽な作業だ。
すべてが完了すると、村人たちから拍手が巻き起こった。
「新築万歳!」
「家が増えたぞ!」
住民数が増えたわけではないのだが、家が増えるだけでもうれしいようだ。
村人たちに中を見学してもらう。
ミレットが大喜びで案内していた。
狼小屋の方には魔狼たちが入っていった。
「わふ」「わふぅ」
嬉しそうな声が聞こえる。喜んでもらえたようでよかった。
王都からやってきたクルスたちと合流して、中をみんなで見て回ることになった。
クルスが、俺の腕をつかむ。
「まずはトイレから見ましょう!」
「なぜそこから」
「大事ですよ?」
結構広いトイレだ。モーフィが使うことを想定しているからだ。
「モーフィ。今度からここでトイレするんだぞ」
「もぅ!」
モーフィも気に入ったようだ。
「台所もみましょう!」
「そうだな」
ミレットに引っ張られて台所へとやってくる。
「ここの貯蔵庫は、魔法陣の効果で腐らないのじゃぞ」
「すごい」
「こっちは冷えるのじゃ。こっちは凍るのじゃぞ」
ヴィヴィがどや顔で説明していく。台所にはヴィヴィの魔法陣がたくさん刻まれている。
貯蔵庫だけではない。炎熱系魔法陣まで描かれている。
これほどの設備は貴族の城にもないだろう。
台所を感心しながら見ていたユリーナが言う。
「温泉は? ちゃんとひいているのかしら?」
「ぬかりありません」
「見てみたいわね」
ルカの言葉でみんなで風呂場に行く。
「広いのだわ」
「こっちは結構深いわね」
「モーフィちゃんが入りますからね」
「もう」
トイレにお風呂はモーフィ基準だ。だから広い。
ゆったり入れそうだ。とてもありがたい。
風呂の見学に飽きたのか、クルスが言う。
「アルさんの部屋を見せてください!」
「そうだな、見に行くか」
「はい!」「わふぅ」「ももぅ」
自分の部屋だという認識があるのだろう。
フェムとモーフィも元気に駆け出す。
「こう見ると俺の部屋も結構広いな」
「ベッドもでかいです」
これもやはりモーフィ基準だ。
「もぅもぅ」
モーフィは嬉しそうにベッドに乗った。ちゃんと全身が乗っている。
今まで、モーフィは後ろ足をベッドの外に出して床に立っていた。
だから嬉しいのだろう。
フェムも嬉しそうにベッドの上で寝っ転がって、背中をこすりつけている。
自分の臭いでもつけているのだろうか。
「わーい」
クルスもはしゃいでフェムとモーフィとじゃれていた。
ルカたちもそれぞれ自分の部屋を見て回る。
「うん、使いやすそうな机ね」
「これがクルスと私のベッドなのだわ」
みな満足したようだ。
ミレットがやってくる。
「新築祝いのパーティしますよー」
「おお。了解だ」
パーティには村人たちを招待するらしい。
その日は村人たちと新しい家で夜遅くまでわいわい騒いだ。