次の日。俺はいつものように衛兵の業務につく。
ヴィヴィは牛の世話をしに行った。
そして、村の入り口にはネズミやモグラの死骸が積み上げられていた。
「これって……」
「わふぅ」
魔狼たちがほめて欲しそうな顔でこちらを見ている。
「いつも、ありがとうな」
そういうと、魔狼たちはバッサバッサと尻尾を振る。
フェムは一番先頭で、ドヤ顔をしていた。
フェムとは大体一緒にいた。いつの間にネズミ捕りをしたのだろうか。
「フェムもネズミ捕ったの?」
『これなのだ』
山の中から、一番大きなネズミを取り出して見せる。
『今朝捕まえたのだ』
「そうか。偉いな」
「わふぅ」
フェムから順番に魔狼を撫でまくってやった。
俺に見せた後はみんなで食べはじめる。
見せるためにわざわざ食べずにおいたのだろう。
ありがたい話だ。
しばらくすると、ヴィヴィがやってきた。
牛の世話を済ませたのだろう。
「アル。忘れてはおらぬじゃろうな?」
「なにを?」
「むきーー。種イモじゃ!」
「あ、そういえばそうだった」
芽が出るまで暇だから小屋を再建するという話だった。
「もう芽が出ているのじゃ」
「植えても大丈夫?」
「もちろんじゃ」
午後から、俺とヴィヴィは植え付けをする。
ミレット、コレット、モーフィとフェムもやってくる。
「じゃあ。俺が魔法で地面に穴をあけていくから、ヴィヴィたちは種イモを入れていって」
「わかったのじゃ」
「おっしゃん、わかった」
ヴィヴィとコレットが元気に返事する。
「土をかぶせるのはミレットと、フェムとモーフィに頼む」
「了解です」
「わふ」「もう」
作業は順調に進んだ。日没までにすべての作業が終わる。
「お疲れなのじゃ。あとは間引きとか土寄せとかあるのじゃが、それはおいおいじゃな!」
「お疲れ様!」
「ももう!」「わふぅ!」
モーフィとフェムも嬉しそうだった。
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次の日。
また、魔狼たちはモグラたちを積み上げていた。
「いつもすまないな、……ん?」
「わふ?」
モグラとネズミの中に、異様なもの見つけた。
中型犬ほどのネズミだ。
「これでかくない?」
『フェムが捕まえたのだ』
どや顔だ。ほめて欲しそうに尻尾をバッサバッサ振っている。
まずはほめてやらねばなるまい。
フェムから順番に魔狼たちをほめてやった。
それから、フェムに尋ねる。
「あのさ、フェム。これただのネズミじゃないよな?」
「わふぅ?」
「これ魔獣のネズミ、魔鼠(まそ)じゃない?」
『魔鼠ごとき、フェムの敵ではないのだ』
フェムはふんすふんすと鼻息を荒げる。
「だろうな」
フェムは自慢げだが、問題はそこではない。
「この辺りで魔鼠ってよく見るの?」
『ものすごく珍しいのだぞ』
さらにどや顔になる。珍しくて強いネズミを仕留めたことが誇らしいのだろう。
「お手柄だぞ、フェム。これからも魔鼠を見たら素早く退治してくれ」
『任せるのだ』
「報告も頼むな」
『わかっているのだ』
「調べたいから魔鼠の遺骸もらっていいか?」
『仕方ないのだな』
フェムは嬉しそうだ。魔狼たちも誇らしげだ。
だが俺は嫌な予感がしていた。
ただでさえ、ネズミは伝染病などを媒介する。そして農作物を食い散らかす。
魔鼠ともなれば、ただのネズミの比ではない。
年を経た分、身体に持つ病の数は大量だ。
そして体が大きい分、農作物の食い散らかし方も激しい。
たった3匹の魔鼠で、畑を全滅させられた村もあるほどだ。
夕方、やってきたルカに相談する。
こういうとき、魔獣学者のルカは頼りになるのだ。
「魔鼠?」
「うむ。これなのだが」
魔法の鞄から魔鼠を取り出してルカに見せる。
「小さいけど魔鼠ね」
「小さいのか?」
「魔鼠の中では小物。この二倍ぐらいにはなるかしら」
「そうなのか」
恐ろしい話だ。
「いやな感じがするわね」
「うむ。フェムが倒してくれたから事なきを得たが、畑を全部やられたら被害がでかすぎる」
「しばらくは要注意よ」
「わかってる」
ねずみは1匹みかけたら30匹いると思えと言っていた冒険者がいた。
それは大げさにしても、注意するに越したことはない。
ねずみは簡単に増えるのだ。
「それはそれとして、ルカ。モーフィの尿なにかわかった?」
「ああ、魔力濃度が異常に高いわね」
「それ以外は?」
「それ以外は普通の尿ね」
「ふむ。じゃあ、地竜の襲撃とは関係ないのかな」
となると、先日、襲って来た地竜たちはいったい何だったのだろうか。
地竜たちはモーフィがおしっこしたとたん襲ってきた。
「例の地竜達って、怪我してなかった?」
「いや、見た感じしてなかったな」
「痩せてはいなかった?」
「どうだっただろうか……。そういわれたら痩せていたような……」
痩せているどうかは、正直しっかり見ていなかった。
「まあ、ドラゴンは痩せても目立たないから仕方ないけど」
ドラゴンは皮膚が分厚く、さらに硬い鱗に覆われている。だから痩せても目立たないのだ。
「一度調べてみるべきかな」
「魔狼たちの縄張りの外を?」
「そう。地竜がいたこと自体がおかしいし」
「あたしも同行したいけど……」
「無理するな。ルカが忙しいことは知っているから」
「アルこそ、無理はしないでね」
「ああ、了解した」
俺は近いうちに調査に行くことを決めた。