俺は竜たちを魔法のかばんに放り込む。
今回はあまり解体していない。ルカが調査しやすいようにだ。
作業はあえてゆっくり行う。
モーフィに抱きついているヴィヴィが落ち着くの待つためだ。
作業が終わった後、ヴィヴィに尋ねる。
「ヴィヴィ。大丈夫か?」
「大丈夫なのじゃ」
気丈にもヴィヴィはそういって胸を張る。
だが下半身はびしょびしょだった。
「えっと、一旦村に戻ろうか」
「なぜじゃ! まだ解明されておらぬのじゃ!」
「ヴィヴィがそういうならいいけど……」
ヴィヴィが漏らしていないというていを固持するなら、俺は尊重したいと思う。
「フェム。周囲に強そうな魔獣の気配はある?」
『あるのだ』
「そうか。とりあえず狩りながら行くか」
「わふ」
俺たちは周囲を探索した。
その過程で竜種や熊、バジリスクにヒドラなど、多様な魔獣と遭遇して撃破した。
「やはり魔獣が多すぎるな」
「そうじゃな」
「フェム。もともとこの辺りの魔獣の生息数と比べてどう?」
『とても多いのだ。3倍ぐらいいるのだ』
3倍とはただ事ではない。
そして、遭遇する魔獣には、このあたりを生息域としていないものも多い。
走っていたフェムが突然止まる。
耳をピンと立て、鼻をひくひくさせている。
「どうした?」
『腐肉……いや、血と骨の臭いなのだ』
「ふむ。ちょっと向かってみて」
フェムが案内してくれた先には、大量の骨があった。
竜種の骨だ。地竜や、ワイバーンの骨もある。熊やバジリスクの骨もある。
血はついているが、肉は残っていない。
「一体これはなんじゃ?」
「調べてみよう」
骨には歯形が残っている。肉はこそぎ取るように食べられていた。
「ふむ。飢えた魔獣の食事後だな」
「地竜が捕食されるのかや?」
『歯形と臭いから考えて、食べたのも地竜なのだ』
臭いを嗅いでいたフェムが言う。
となると、飢えた地竜どうしで共食いをしたのだろう。
おそらく、ゴブリンや魔鼠などの魔獣はすでに食い尽くしたのだろう。
その過程で、ゴブリンたちは魔狼の群れの縄張りに逃げ出したのだ。
弱い魔獣がいなくなり、餌がなくなり徐々に強い者同士で戦ったのだろう。
「餌が足りなくて同種同士で共食いするなど、恐ろしいのじゃ」
『共食いではないかもなのだ。これは死体食いかもしれないのだ』
「ふむ?」
竜種は普通そんなことはしない。誇り高き竜種は、そこらに落ちてる死骸を食べたりしない。
『綺麗すぎるのだ。戦って死んだのなら骨が砕けてたりするものなのだ』
「なるほど」
フェムの指摘を受けてから改めて調べると、確かにきれいだ。
歯形はついているが、それは肉をこそぎ取るためについたといった感じだ。
戦闘の際についた歯形ではなさそうだ。
「ふむ。なんで死んだのじゃろうか?」
「調べてみないとわからないな。骨も持ち帰ろう」
俺は骨を魔法のかばんに入れていく。
「それにしてもよく入るかばんじゃな」
「高いやつだからな」
かばんには、まだかなりの余裕がある。
骨を調べていたフェムが言う。
『飢え死にだとおもうのだ』
「なんでそう思う?」
『血に含まれる魔力がうまくなさそうなのだ』
魔力を餌にできる魔獣ならではの感覚だ。
魔導士は魔法の痕跡はわかるが、魔力の味はわからない。
「うまくなさそうってのは、魔力濃度が低いってこと?」
『たぶんそうなのだ』
それを聞いていたヴィヴィがつぶやく。
「飢え死にするぐらいなら、移動すればいいのじゃ」
「仮に飢え死になら、そうできない理由があったんだろうな」
「理由ってなんじゃ?」
「ここに逃げてきたが、魔狼の縄張りがあって、それ以上進めない。そんな状況だったのかもしれない」
「地竜が逃げてきたというのかや?」
ヴィヴィが顔をしかめる。
地竜が逃げ出すということは、それ以上に強い何かから逃げ出したということ。
恐ろしい話だ。
「もしそうなら、魔狼の縄張りに突っ込んだ方がいいのじゃ」
ヴィヴィはそういうが、魔狼王に率いられた魔狼の群れは強い。
竜種であっても、相手にしたくない相手だ。
死肉であっても、餌があるなら戦いたくないに違いない。
「魔狼は強いからな。それでも、こっちに攻めてくるのも時間の問題だったかもしれない」
『そうなったら撃退してやったのだ』
フェムは力強くそう言う。
魔狼の群れなら善戦するだろう。だが犠牲者もたくさん出たに違いない。
「それにしても、地竜が逃げ出すって余程なのじゃ」
「そうだな。逃げ出した原因を見つける必要がある」
『わかったのだ。強そうな気配を探すのだ』
フェムの案内で、夕方まで周囲を探索する。
だが、地竜が逃げ出すほどの相手には出会えなかった。
「野宿するのじゃな?」
「いや、帰るぞ」
「なぜじゃ? 早く原因を突き止めねばならぬのであろ?」
「明るいときに見つけられなかったのに、暗くなった後に見つけられる可能性は低いからな」
フェムやモーフィは鼻が利くが、人間はどうしても目に頼らざるをえない。
それに、ヴィヴィの下半身は汚れたままだ。早く着替えたいだろう。
俺たちは一度ムルグ村に戻ることにした。