ワイバーンからの戦利品回収を終え、ヴィヴィの指輪改造が終わった後。
モーフィが帰ってきた。背にはアントン兄妹が乗っている。
「もっもう!」
「はあはあ」「ぜえぜえ」
モーフィは余裕だ。
だが、アントンとエミーの兄妹は汗だくだった。
「2人とも、お疲れ様。ゆっくり休んで」
「なにかあったのですか?」
アントンが周囲を見回しながら尋ねてくる。
一応、戦利品は回収したが、いらない肉などはそのままだ。
「うん。魔獣の襲撃があってね」
「ひっ」
ワイバーンの残骸を見てエミーが息をのんだ。
ワイバーンは下位とはいえ、仮にも竜なのだ。
魔獣の中でもとても強力で大きい部類だ。驚くのは仕方ない。
「ワイバーンは大きいし竜だから怖いイメージがあるけど、そうでもないんだぞ」
「Aランク魔獣がそうでもないとか……」
「いや、それよりも数が……」
アントンとエミーは驚いていた。
そういえば、ワイバーンはAランクだったか。空を飛んでいる分、討伐難度が高いのだ。
「たまにこの辺りには出るんだよ」
「……そうなんですか」
アントンは若干引いていた。
エミーがアントンの袖を引く。
「おにいちゃん、やっぱりこの任務無謀だったんじゃ」
「だが、Bランク冒険者としては薬草採取ぐらい……」
「ワイバーンがこんなに出るんだよ!」
兄妹はなにやら深刻そうに話し始めた。
そこにミレットがやってきた。
「まだ、夜中ですよ。早く寝てください」
「あ、でも……」
クルスがワイバーンの死体を見る。
ワイバーンの死体の処理をしてから寝るべきだと考えているのだろう。
「それはこっちでやっとくから、クルスたちは早く寝なさい」
「わかりました。お願いしますね」
「頼むわね」
「私も眠たいのだわ」
クルスたちが小屋の中へと入っていった。
ミレットはアントンたちにも言う。
「今日はこの小屋に泊まっていってくださいな。妹さんと同じ部屋に案内しますね」
「……小屋?」
「あ、はいお願いします」
アントンは怪訝な顔を浮かべて、屋敷のような小屋を見上げた。
エミーは素直に小屋の中へと入っていく。
「リザさんは先程意識を取り戻されて、また眠りました」
「ありがとうございます」
「本当になんとお礼を言っていいか」
アントン兄妹はミレットにも何度も深く頭を下げていた。
それを見送りながら、俺はワイバーンを焼いていく。
魔狼たちも2頭ほど様子を見に来た。
「りゃっ!」
「わふ」「わふぅ」
魔狼を見て、シギが大喜びで羽をバタバタさせている。
魔狼とも仲良くなれたようでよかった。
「こいつもゾンビだから食べたらだめだぞ」
「わふ」
魔狼たちは少し残念そうだった。
俺は一応、ゾンビワイバーンの肉をひとかけらつかんで、シギの鼻先にもっていく。
「りゃあ?」
「これもゾンビ肉だぞ。食べたらお腹壊す奴だからな」
「りゃ」
鼻先にもっていくと、シギは臭いを嗅いだ。だが食べようとしなかった。
学習してくれたのかもしれない。
「がうわふ」
「わふわふ」
フェムが魔狼たちに吠えると、魔狼たちも臭いを嗅ぎ始めた。
ゾンビ肉の臭いを覚えさせているのだろう。
「魔狼たちはこの前、ゾンビ肉食べちゃったもんな。学習させた方がいいな」
『違うのだ。あの時はなりかけだったのだ』
「似たようなもんだろ」
『全然違うのだぞ。臭いが全然違うのだぞ!』
フェムは少しむきになって否定する。
嗅覚がするどい魔狼としての矜持が、あるのかもしれない。
「学習用に、ひとかけら残しとく?」
『お願いするのだ』
ふと見ると、モーフィもゾンビ肉の臭いを一生懸命嗅いでいた。
もともとモーフィは肉を食べないのだから気にしなくていいと思う。
ワイバーンの死体を焼き終えると、ヴィヴィがあくびをした。
「もう眠いのじゃ」
「先に眠ってくれてよかったのに」
「ん? それもそうじゃな。さてわらわたちも寝るのじゃ」
「りゃあ」
ヴィヴィが俺の腕を引っ張る。フェムとモーフィもついてきた。
シギは嬉しいのか羽をバタバタさせていた。
俺の部屋の前につく。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなのじゃ」
ヴィヴィはそういいながら、俺の部屋へと入っていく。
俺の部屋で眠るつもりらしい。
俺のベッドは十分広い。フェムもモーフィも一緒に眠れるぐらいだ。
「まあ、広いからいいのだけど」
「なにがじゃ」
ヴィヴィは俺のベッドにぴょんと飛び込む。
「わふぅ」「もっもう」
フェムとモーフィも大喜びで飛び込んでいく。
「りゃ、りゃあ」
シギも俺の懐から出ると、ベッドに向かって飛んでいく。
シギは楽しそうに、モーフィやフェムに体をこすりつけていた。
フェムやモーフィも優しく舐めてあげたりしている。
「シギはかわいいのじゃ」
「りゃあ」
ヴィヴィにも撫でられ、シギはご満悦だ。
俺も疲れたのでベッドに入る。
シギが体を寄せてくるので撫でてやる。するとシギは口を大きく開ける。
「お腹すいてるのか?」
「りゃ!」
生まれてすぐは二時間おきに起きて鳴いていたものだ。
シギはいつも、夜に何度かお腹がすいたと鳴くのである。
「すぐご飯あげるからな」
「りゃぁ」
俺は魔法の鞄からシギのご飯を取り出した。俺の魔法の鞄には地竜の肉やユニコーンの肉を入れてある。
当初、台所に肉をまとめて置いておいた。だが、毎夜二時間おきに鳴くので鞄に入れておくことにしたのだ。
「ほら、いっぱい食べるんだぞ」
「りゃむりゃふ……りゃっりゃ」
シギは食べながら鳴く。
俺は餌をやりつつ、空いた手で優しくなでながら語り掛ける。
「今日は鳴かなかったな。偉かったぞ」
「りゃあ」
「けが人が運ばれてきて、大変なことだと思ったの?」
「りゃふりゃふ」
シギは食べながら羽をバタバタさせた。
周囲の状況を見て空腹を我慢するとは。なんと健気なのだろうか。
俺は少し感動して泣きそうになった。
「シギの成長早いなぁ」
「そうであろか? そんなに大きさは変わってないように思うのじゃ」
「大きさは確かにな。でも歩き回るようになったし」
「それはそうじゃな」
「今日はお腹減ってたのに我慢したし。言葉がわかっているような気もする」
俺と一緒にシギを撫でていたヴィヴィの手が止まった。
「シギはまだ赤ちゃんなのじゃぞ」
「でも、俺の言葉がわかってる感じの反応するし」
「親の欲目というやつじゃぞ」
「そうかなぁ」
『親馬鹿なのだな』
ヴィヴィはくすくす笑う。
フェムもヴィヴィと同意見なようだ。
「モーフィはどう思う?」
「もっもう」「りゃあ」
モーフィはシギに鼻を押し付けていた。
シギはシギで、モーフィの鼻の上を小さな手で撫でていた。
俺たちがモーフィを撫でているのを見て学習したのかもしれない。
「シギはかわいいなぁ」
「もっもう」「わふ」
「かわいいのじゃ」
シギが可愛いということに、みんなが同意してくれる。
ベッドの中でシギを可愛がっているうちに、いつの間にかに眠ってしまった。