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107 魔人の本拠地について話し合おう

 特にテンションが高くなったのはヴィヴィだった。

 モーフィとライも一緒に大はしゃぎだ。


「さすがは姉上なのじゃ」「もっもう」

「褒めるでない、褒めるでない」「がっがぅ」

「いや、姉上は本当にすごいのじゃ。教会も冒険者ギルドもつかめなかった情報なのじゃぞ!」「もぅ!」

「これよさぬか、照れるではないかや」「がぅ!」


 妹に褒められて、ヴァリミエは照れまくっている。

 モーフィはヴァリミエに体を摺り寄せている。ライはヴィヴィに頭を押し付けていた。


 ヴィヴィたち姉妹がはしゃいでいる間、俺は真面目に考えていた。


「しばらくムルグ村への襲撃が収まっていたと思ったら、魔人はヴァリミエ対策にかかりっきりになっていたのかもな」

「ありうるわね」


 ルカも真剣な表情だ。すこし悔しそうでもある。

 冒険者ギルドがつかめなかった情報をヴァリミエがつかんでいたことが悔しいのだろう。

 そんなルカをユリーナが慰める。


「ルカ、仕方ないのだわ」

「かもしれないけど……」


 魔法の指輪を身に着けたドラゴンを本拠地に連れ帰る。それは魔人の痛恨のミスと言っていい。

 ドラゴンは強力かつ、魔力も豊富で、注意しなければ魔法の指輪を見つけにくいのは確かではある。

 それでも、指輪を見逃すのは魔人らしくない。


 クルスもそう思ったのだろう。きょとんとした表情で尋ねてくる。


「でも、魔人ってすごい魔法使いなんですよね? 指輪に気づくんじゃないですか?」

「魔人はグレートドラゴンをかき集めてたんだろうな。数が必要で、大量に集めてたから一頭一頭の精査がおろそかになって指輪を見逃したのかもな」

「なるほどー」


 クルスは納得したようだった。

 だが、それを聞いていた、ユリーナが言う。


「罠の可能性はないのかしら?」

「それは……あるかもしれないのじゃ」


 ヴァリミエが少し不安そうにそういうと、

「そうなのじゃな……」「もぅ……」「がぅ……」

 ヴィヴィとモーフィ、ライも自信なさげに肩を落とす。


 そんなヴァリミエたちに向けて俺は言う。


「いや、その可能性は低いと思う」

「そうなのかや?」

「偽情報なら、ヴァリミエを狙う理由はないし」

「なるほどなのじゃ!」

「さすが姉上なのじゃ!」「もっもう!」「がうがう」

「りゃっりゃあ」


 ヴァリミエたちは途端に元気になった。

 シギショアラも嬉しそうに羽をバタバタさせていた。

 獣たちが集まるとにぎやかでいい。


「本拠地は早くつぶしに行った方がいいな」

「そうね」


 俺の提案にルカは同意してくれた。

 ユリーナもうなずきながら言う。


「なるべく早い方がいいわね。早速、明日にでもつぶすべきなのだわ」

「うんうん」


 クルスもうなずいていた。

 だが、ユリーナとクルスの意見に俺は賛同できなかった。


「いや、今からいこう」

「姉上は疲れているのじゃ。休ませてほしいのじゃ」

 ヴィヴィはそういうが、俺にも譲れない理由がある。


「魔人がこちらの情報をどれだけ掴んでいるかわからないんだ」

「ヴァリミエがあたしたちと接触したって魔人に気づかれたら逃げられるかもってこと?」

「その通りだ」

 ルカは俺の考えを的確に把握してくれる。


「でも……」

 ヴィヴィは少し不安そうに、ヴァリミエを見た。ヴィヴィが心配するのもわかる。

 ヴァリミエは昨夜、王都の宿屋を出てから、一晩ドラゴンゾンビの死体の近くで潜んでいたのだ。

 あのとても臭い場所に一晩である。その上、俺たちと戦ったのだ。疲れきっていて当然だ。


「ヴァリミエ。無理か? 無理なら明日でも……」

「わらわは大丈夫じゃ。ライも大丈夫じゃな?」

「がう!」


 ヴァリミエは意志の強い目をしている。ライも力強く返事した。


「本当に無理はしなくていいぞ。ヴァリミエから場所だけ聞いて俺たちだけ行くというのもありだぞ」

「気にするでないのじゃ!」

「……姉上」

 ヴァリミエは心配しているヴィヴィを抱き寄せると、頭を優しく撫でる。


「心配してくれてありがとうなのじゃ。わらわは大丈夫じゃぞ」

「……姉上」


 しばらく考えた後、ヴィヴィが力強く言う。

「わらわも行くのじゃ!」

「じゃが……」

「行くのじゃ!」


 ヴァリミエは難色をしめしたが、ヴィヴィの意思は固い。

 ヴィヴィはさんざん心配したのだ。この魔人騒動の結末を見届ける権利はあると思う。


「じゃあ、ヴィヴィも頼む」

「うむ」


 ヴィヴィは満足そうにうなずいた。

 それを見ていたクルスも言う。


「ぼくも行きます!」

「う、うーん」


 悩ましい。ムルグ村への攻撃の可能性は低い。

 だが、クルスには防備についていてほしい気もするのだ。


「な、なんですか。ダメなんですか?」

「ムルグ村の防衛もあるしなぁ」

「クルスは留守番しておきなさいな」


 ルカにそう言われて、クルスは涙目で抗議し始めた。


「ぼくも行きたい行きたい行きたい!」

「りゃっりゃっりゃっりゃあ!」


 まるで駄々っ子だ。シギまで一緒になって羽をバタバタさせている。

 教育に悪いのでやめてほしい。

 ヴィヴィが不敵に笑う。


「ふふ。そんなこともあろうと思ったのじゃ」

「ヴィヴィ何か用意してあるの?」

「今日、わらわがただ引きこもってると思っておったじゃろ」

「うん。思ってた」

「モーフィと一緒にムルグ村の周囲にさらに脅威感知魔法陣を設置しておいたのじゃ」

「ふむ? それは前からあるのとどう違うの?」

「感知範囲が広いのじゃ。感知してから敵の到着まで10分は猶予があるのじゃ」

「どの魔獣を想定しているの?」

「ワイバーンじゃぞ」


 ワイバーンは魔獣の中でも速い方だ。そのワイバーンの移動速度で10分というのは大したものである。


「それでも10分だと不安は残るな。駆け付けるまでの時間としては短すぎる」

「じゃあ、あたしが残るわ」

「ルカ、いいの?」

「今回は冒険者ギルドのコネクションが必要って感じでもないし」


 今回の本拠地の情報は冒険者ギルドからもたらされた情報ではない。

 だからルカがいなくても何とかなるのは確かだ。


「じゃあ、ルカ。頼む」

「任せておいて」

「ルカ、お願いね!」

 クルスは嬉しそうにお礼を言う。

 ルカを残して、俺たちは王都へと向かった。

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