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158 死神の使徒に会いに行こう

 俺はフェムに乗り、ヴィヴィはモーフィに乗って、クルスは走った。

 いつも通りだ。ちなみにシギショアラは俺の懐の中である。


 一時間ほど走って休憩にした。

 こまめに休憩をとるのが大切だ。特に最初の休憩は大切なのだ。

 クルスの靴の調子やモーフィの蹄、フェムの肉球の調子を見なければいけない。


「モーフィもフェムも、いつもより速いな」

「もっも!」

「わふぅ」


 獣たちの調子はいいらしい。何よりである。


「アルさん。あとどのくらいですか?」

「えっとだな」


 俺は魔法の鞄から、地図を取り出す。

 古代竜の大公の秘宝である貴重な魔道具だ。扱いは丁寧にしなくてはならない。


「やっぱり大きいですよね」

「そうだな。簡易版だけど、古代竜の秘宝だからな」


 縦は成人男性1人分。横は2人分あるのだ。広げるだけでも大変である。

 野外で見るには大きすぎる。

 覗き込みながらヴィヴィがいう。


「これって畳めないのかや? 折り畳んで、この周囲の部分だけ表にすれば……」

「畳めないんだよ」

「それは不便なのじゃ」


 ヴィヴィは残念そうだ。

 地図は布のような、紙のような、不思議な素材で作られている。

 特殊な魔法的な仕組みが使われており、折ることができない。

 丸めることはできるのだが、丸めようとすると、一瞬で棒状の筒になってしまうのだ。

 棒状態から広げるときも一瞬である。中間という状態を維持できない。

 収納するには便利だが、見ながら移動するには不便である。


「そもそも、人間が移動しながら使用することを想定していないんだろ」

「そうかもしれないですねー。おっきな古代竜(エンシェントドラゴン)なら、この簡易版で手のひらサイズですものね」

「古代竜たちにとっては、これで充分便利なのじゃろうな」


 真剣な表情で地図を見ていたクルスが言う。


「ぼくって世界地図の見方よくわからないんですけど」

「世界地図は珍しいからな」

「ここがムルグ村ですよね? 王都はどのあたりですか?」


 古代竜の地図には街や村が描かれていないのだ。わかりにくい。

 地図が製作されたのが、人間の街が作られる遥か昔だからだろう。


「えっとだな。ここが王都だな。で、この辺りが領主の館で、西の山脈がこの辺りだ」

「ふむふむ」

「リンドバルの森はどこじゃ?」

「ずっと離れて、こっちだな」

「結構遠いのじゃな。ということは魔王城はこのあたりかや?」

「そうそう」


 世界地図の見方をティミとルカに、しっかり教えてもらっておいてよかった。

 おかげで、どや顔で説明できる。

 クルスとヴィヴィが尊敬の目でこっちを見ている気がする。


「なるほどー、ということは……死王のいる場所って、ぼくの領土なのでは?」

「そうなの?」

「はい。ちょっと待ってくださいね」


 クルスが自分の魔法の鞄から地図を取り出した。

 この周囲の人間の地図だ。


「死王の位置はこのあたりってことですよね!」

「そうかも……」


 古代竜の地図と人間の地図では、縮尺が違う。そもそも図法が違うのだ。

 互いに対応する場所を見つけるのはかなり難しい。

 にもかかわらず、クルスは即断したのだ。


「クルス、よくわかったな」

「えへへ。クルス領の地図を読み込みましたからね!」


 クルスはどや顔だ。

 そう言えば、代官補佐を更迭した後、勉強のためにクルスは地図を読んでいた。

 その効果が出たのかもしれない。


「クルス。さすがだぞ」

「クルスも、なかなかやるのじゃな」

『意外だ』

「もっも!」

「りゃっりゃ!」

「えへへ」


 みんなに褒められて、クルスはとても嬉しそうだ。


「クルス。ところで、この辺りって何があるの?」

「何もないですよ。村もないし、道もないし……。一応領土のはしっこってだけですね」

「何もないなら、そのほうがいいな」

「はい!」


 クルスは元気に返事をする。

 戦闘になったとき、近くに村があると大変だ。それに道があったら、いつ人が通るかわからない。

 その点、村も道もないなら思う存分戦える。


「もっも!!」


 そのときモーフィが俺の袖を咥えて引っ張った。

 きっとそろそろ走りたいと伝えたいのだ。


「モーフィもフェムも、クルスも休めた?」

「もっも!」

『大丈夫だ』

「いつでも行けますよー」


 俺たちは、休憩を終えて走り始めた。


「りゃっりゃー」


 シギはいつものようにご機嫌だ。速く移動するというのが好きなのだろう。


 二度ほど休憩をはさんで、死王の場所近くまでやってきた。


「なんか建物があるのじゃ」

「怪しいですね」

「一応、魔道具の地図で確認しておこう」


 魔道具地図を見ると、一つだけ濃い灰色っぽい光が輝いていた。

 いくら普通の地図より大きいとはいえ、世界地図だ。近づいてしまうと細かいところはわからない。

 魔王が赤、聖王が青。死王が黒だ。全部混ざったので灰色になったのだろう。


「あの建物の中に居ると考えていいかもな」

「アルさん。どうしますか? 先制攻撃で、建物を破壊しますか?」


 クルスは発想が過激である。

 いや、魔人王との戦いで、城を開幕で破壊した俺の影響を受けたのかもしれない。


「いや、話し合いにきたのだし、お願いする立場だからな」

「なるほど。じゃあ、正面から行きましょうか」

「そうじゃな」


 正面から友好的にご挨拶することになった。

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