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164 スライムな使徒

 スライムはぷよぷよした外見だが、強力な魔獣である。

 不定形なので、物理攻撃にとても強い。その上、魔法耐性もかなり高い。

 種族によっては強力な酸や毒を武器として使ってくるのだ。討伐は容易ではない。


 Cランク冒険者までなら、見たら即逃げるのが基本である。

 Bランクパーティーでも準備が足りていなければ引くのがセオリーだ。


 死神の使徒らしいスライムは跳びはねながら目の前に来た。


「ピギー」

 と一声元気に鳴いた。


 俺は丁寧に頭を下げる。

 たとえスライムであっても、死神の使徒なのだ。敬意を払うべきである。


「死神の使徒殿。お初にお目にかかります。我が名はアルフレッド・リント……」

「りゃ!」

「……アルフレッドラ・リントと申します。お見知りおきのほどを」


 シギショアラが抗議するのでラをつけておいた。

 死神の使徒は一声鳴いた。


「ぴぎぃ」

「……主上は、特別に拝謁を許可すると仰せだ」


 司祭が通訳してくれる。

 外見に似合わず、厳めしい言葉使いのスライムだ。

 それにしても、司祭は何を話しているのかわかるらしい。すごい。


「死神の使徒殿、念話は使えますか?」

「ぴぎぴぎぃー」

「……使えない、いや、使う必要がないのだと仰せだ」


 俺は司祭に向かって尋ねる。


「先ほど、念話でお話してませんでした?」

「あれは違う。我は主上の眷属。主上と眷属ならば念話に似たものを使えるのだ」


 魔神の使徒や聖神の使徒は眷属と念話を使えないのに不思議な気がする。

 いや、使おうとしなかっただけで使えるのだろうか。

 そう考えて、俺はモーフィを見た。


「もっ?」


 何を言っているのかさっぱりわからなかった。

 モーフィはクルスの眷属でもあるので、微妙に違うのかもしれない。

 俺はクルスを見た。


「クルスも使えるの? モーフィとかフェムとか一応クルスの眷属みたいなものだし」

「うーん。なに言ってるか、なんとなくわかるときもありますねー」

「そうなのか」

「はい!」


 もしかしたら練習すれば使えるのかもしれない。

 そういえば、巨大なモーフィに小さくなるように伝えたのはクルスだった。

 あのときのモーフィはまだ念話を使えなかったのに意思の疎通に成功していた。


「やはり、使徒と眷属同士意思の疎通ができるのかも……」


 そこまで考えて、思考を現状に集中させる。

 今は死神の使徒とコミュニケーションの方が大切だ。


「魔法で念話網を作らせていただきますね」

「ピギー」


 俺は司祭を含めた全員の間に念話網を魔法で作る。

 念話自体は大して難しくないので魔力消費は大したことはない。

 そうしておいてから改めて自己紹介する。


「魔神の使徒、子爵アルフレッド……ラ・リントです。こちらが……」

「聖神の使徒の伯爵クルス・コンラディンだよ!」

「わらわは何の使徒でもないヴィヴィ・リンドバルじゃ」


 司祭は「えっ?」などと声を上げていた。使徒だとは思わなかったのだろう。

 司祭は少し顔を青ざめさせ、ブルブルし始めた。

 ここまで怯えられると、正体を隠していたのが申し訳なくなる。


 死神の使徒もつられたように、ブルブルしている。


『かみのしとだ!』


 スライムは元気に言う。

 実際の年齢はわからないが、声の感じから幼い印象をうけた。


 それにしても、司祭の通訳してきた言葉づかいとはえらい違いだ。

 威厳を持たせるために、厳めしくして通訳していたのかもしれない。


 スライムはモーフィたちに向けて言う。


『もふもふだ!』

『魔天狼にして、魔狼の王フェムである』

『モーフィ』

「りゃああ」


 シギが俺の懐から顔を出して鳴いた。


「この子はシギショアラ。古代竜(エンシェントドラゴン)の大公です」

『どらごん!』

「りゃっりゃ!」


 死神の使徒はぶるぶるした。

 もしかしたら、はしゃいでいるのかもしれない。

 外見からは全くわからない。


『ちぇるのぼく!』

「主上の御名です」


 司祭が補足してくれた。スライムはチェルノボクという名らしい。

 俺は改めてチェルノボクに向かって頭を下げる。


「チェルノボク殿に、左ひざの呪いを解いていただきたくて参りました」

『ふしごろしのやなの?』


 さすがは死神の使徒である。一目で見抜いた。

 やはり、ただのスライムではないらしい。


「はい。先代の魔王を倒した時に……」

『ぴぎー』


 念話にもかかわらずピギーと鳴いた。

 フェムやモーフィもたまにやるので驚かない。


 チェルノボクは、ぴょんぴょん跳ねてきて、俺の左ひざに体を触れる。

 ひんやりした。


『ましになった?』

「正直よくわかりません」

『ぴぎ』


 チェルノボクはブルブルする。

 司祭が補足するように言う。


「主上が使徒になられたのはごく最近です。先代魔王を眷属にしたのは主上の先代の使徒になります」

「先代の眷属の呪いだから解呪しきれないってことでしょうか?」

『……そうなの』


 心なしかチェルノボクからすまないと思っていそうな気配を感じる。

 その時、司祭が俺やクルスを見て深々と頭を下げた。


「先ほどは失礼いたしました!」

「いえ、気にしないでください」

「存じ上げなかったとはいえ、魔神と聖神の使徒さまを試すような真似をしてしまいました」

「正体を明かさなかったのは我々ですから……」

「……厚かましいとは思うのですが、お願いがあります」


 深々と頭を下げていた司祭は、ついに土下座へと移行した。


「ちょ……そこまでしなくても」

「いえ! こうしなければ私の気持ちがすみません!」


 司祭は頭を上げる気配はない。

 クルスが頭を上げさせようとしたが、かたくなに土下座を続ける。


「先代の死神の使徒を討伐してくださいませぬでしょうか」

『おねがいー』


 司祭の横では、チェルノボクがブルブルしていた。

 先代の討伐はチェルノボクの意思でもあるのだろう。


「詳しくお話を聞かせてください」

 俺はチェルノボクと司祭に向けてそう言った。

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