無事牛肉を売った後は、必需品の購入だ。
ミレットがトルフに尋ねる。
「この辺りで村で使う日用品などを扱っているお店ってありますか?」
「日用品と言えば、具体的にはどのようなものを?」
「はい。そうですね——」
ミレットはトルフに購入予定品と量を説明する。
トルフは真剣な表情で聞いていた。
「それでしたら私どもの方で準備することは可能です」
「それは……ありがたいです」
ミレットはトルフと価格交渉に入った。
そうなると、俺とヴィヴィ、ティミショアラは何もすることはない。
「いろんなものが売られているのじゃなぁ」
「都会だからな。それも大商会」
大商会というのは小売りも卸売りも輸送もやるのだ。
だから、暇になった俺たちは店頭へ移動して小売りされているものを見て回ったりした。
ティミショアラが残念そうに言う。
「……竜の被り物はないのだな」
「まあ、需要ないだろうし」
「竜がないのなら、狼とかでもいいのだが」
そんなことを話していると、店員がやってくる。
「ティミショアラ子爵閣下とお連れのみなさま。お茶とお菓子をご用意いたしましたのでぜひ……」
「お、それはありがたいぞ! アルラとヴィヴィも行くぞ」
ティミに引っ張られて、奥に行く。
テーブルにお菓子とお茶が用意されていた。さすが大商会。美味しそうなお菓子だ。
テーブルにはすでにトルフとミレットが着席している。
「ミレット。交渉は終わったの?」
「はい。とてもよい取引ができました」
ミレットは嬉しそうだ。トルフもにこやかに言う。
「皆様には今後とも仲良くしていただきたいですから」
「私としてもぜひ仲良くしていただきたいです」
「そういって頂けると、嬉しいですね」
トルフが純粋な善意で言っているとは思わない。
俺たちの背後には、勇者クルスに冒険者ギルド大幹部のルカ、聖女ユリーナがいるのだ。
それに古代竜の子爵であるティミショアラ。
商人としては仲良くしたいだろう。それはけして悪いことではない。
ティミは堂々と座ると、お菓子をぱくりと食べる。
生まれつきの貴族だけあって、遠慮などはしないらしい。
「む。これは美味しいな」
「そう言っていただけると、嬉しいです」
「シギショアラも食べるであろ?」
「りゃ!」
シギはティミの懐から出ると、羽をぱたつかせて机の上にふわりと降りる。
それを見ながら俺もお菓子を食べてお茶を飲む。とても美味しいお菓子だった。
シンプルなクッキーだが、一つ一つの素材が厳選されているのだろう。
「シギショアラ。美味しいか?」
「りゃっりゃ!」
「そうかそうか」
シギは嬉しそうにパクパク食べている。嬉しそうなシギを見て、ティミも嬉しそうである。
シギを見て、トルフは少し驚いたようだ。
ティミの懐に小さな竜が隠れているとは思わなかったのだろう。
「そちらの方は……?」
「うむ。この子は我が姪シギショアラであるぞ。」
「ティミショアラ様の姪御さまなのですね。今後ともよろしくお願いいたします」
「りゃ!」
シギは両手でクッキーをつかんで食べながら一声鳴く。
「シギショアラは、お菓子が美味しい、ありがとうと言っておるぞ」
「喜んでもらえて嬉しいです」
ティミは相変わらず、シギの言葉を適当に翻訳している気がする。
「シギショアラは大公だ。我はシギショアラの代理人にすぎぬのだ」
「なんと……」
「りゃ!!」
トルフは驚いて、改めてシギに頭を下げてよろしくお願いしていた。
シギは話を聞いているのかわからない。ただお菓子を食べているので、ご機嫌だ。
しばらく、もてなされている間に購入予定の品がそろったようだ。
魔法の鞄に詰め込み代金を払って、お礼を言ってトルフ商会を出た。
ちなみにシギは俺の懐に戻っている。ティミが少し寂しそうにしていた。
「無事仕事が終わって、安心しました」
「ミレット、お疲れさま」
「あとはお土産買って帰ればいいのじゃ」
モーフィとフェムにお土産を買っていくと約束したのだ。
忘れたら拗ねられる。
「フェムへのお土産は肉がいいかな」
「そうじゃな」
「群れの魔狼の分も買っていったほうがいいでしょうか?」
ミレットはきょろきょろしている。よさげなものが売られていないか探しているのだろう。
「いや、あまり理由のない餌をもらうのはよくないってフェムが言っていたし」
「そうなんですね。難しいです」
ヴィヴィが両手を組んで考える。
「牛肉を売って、牛肉を買うのもなんかおかしな気がするのじゃ。鶏肉の方がいいかのう?」
「そういえば、フェムってなんの肉がすきなんだ?」
「グレートドラゴンの肉とかだろう」
ティミの言う通りだ。確かグレートドラゴンの肉はうまいと言っていた気がする。
だが、グレートドラゴンの肉は倉庫にまだある。
「羊肉でも買っていくかー」
「そうですね!」
一頭丸まる買うわけではない。一塊だけ購入する。
「コレットにもお菓子を買って行ってあげよう」
「モーフィも甘いものが好きなのじゃ」
「そうなの?」
「うむ」
よくわからないが、ヴィヴィが言うならそうなのだろう。
おいしいクッキーの類を色々買っておく。
お土産も購入し、村へ帰ろうとクルスの屋敷に向かう。
「あ、アルさん」
屋敷の近くでクルスとユリーナに出会った。
クルスたちは数人の部下らしき人間と一緒に歩いていた。