ユリーナに恋人のふりをしてほしいと頼まれた次の日の朝。
俺が食堂へ向かうと、いつもの全員がそろっていた。
ミレットにガシっと腕をつかまれる。
「ミレットおはよう。どうしたの?」
「どうしたもこうしたもありません! ユリーナさんから聞きました」
「あーあれか」
「あれかじゃありません! ユリーナさんとはそういう関係じゃないと思っていたのに……」
なぜかミレットは涙目だった。
「おっしゃん! どういうことなの!」
コレットがそういいながら、お腹にパンチしてくる。
ペシペシ腰の入っていないパンチである。まったく痛くない。
「どういうことって……。ユリーナ説明したんだろ?」
「説明したのだわ」
「まあ、つまりそういうことだよ。」
そういうと、クルスまでショックを受けた顔になる。
だが、ルカはにやにやしていた。
「アルさんが、ユリーナと恋人だったなんて……」
「む? 恋人ではないぞ?」
「え? でもユリーナが恋人になったってさっき……」
「恋人のふりをするって話だろ?」
俺の言葉でクルスは首をかしげる。
ミレットはほっとしたような表情になった。
「む?」
「そうなのですか?」
「おっしゃん! どういうことなの!」
コレットはまだ俺の腹にパシパシとパンチしている。
ルカは笑顔でうんうんとうなずいている。
「だと思ったわ」
「ユリーナ、なんて説明したんだ?」
「えっと、婚約させられそうになったからアルに恋人になってもらったって」
「その言い方だと誤解を招くだろ」
「ほむ?」
ユリーナはきょとんとしている。先が思いやられる。
クルスの天然ぶりに隠れているが、もしかしたらユリーナも大概なのかもしれない。
改めて俺は説明しなおしておいた。
「なるほどー。大変なんですねー」
「よかったです」
「そうだったんだね、おっしゃん!」
クルスたちは納得してくれたようだ。
「だから、もし代官代行の息子と会ったり、代官代行と会うことがあれば、口裏合わせを頼むぞ」
俺がそういうとみんなうなずいた。
「特にクルス頼むぞ」
一番、会う確率が高いのはクルスだ。
「任せておいてください!」
自信満々にクルスは胸を張った。
朝食の後、クルスが言う。
「アルさん! 教団にいって税の査定をするので手伝ってください!」
「別にいいけど、俺でいいのか?」
「はい」「ぴぎ!」
クルスとチェルノボクが同時に返事をする。
チェルノボクはクルスの肩にもう乗っている。仲が良いこと、この上ない。
それを見ていたユリーナが言う。
「一応、私も行くのだわ」
「ユリーナが来てくれるなら心強いよ!」
クルスはユリーナの手を取った。
「えへへ」
ユリーナは頬を赤らめている。仲が良いのは結構なことである。
門から離れることをミレットに報告してから、死神教団へと俺たちは向かう。
「もっもー」「わっふー」
転移魔法陣のある倉庫の前ではモーフィとフェムが待機していた。
モーフィもフェムもお座りしている。
「えっと、一緒に行きたいの?」
「もっも」
「モーフィは本当に仕方がないのじゃ。一緒に行くかや?」
「もう!」
なぜかヴィヴィがそんなことを言っている。
そもそも、ヴィヴィも一緒に来るつもりだとは知らなかった。
「別にいいぞ。王都じゃないし」
「もっもー」「わふぅ」
モーフィとフェムも連れて教団へと向かう。
それにヴィヴィとシギ、クルス、ユリーナ、もちろんチェルノボクも一緒だ。
かなりの大人数になってしまった。
転移魔法陣をくぐると、主上の部屋に出る。誰もいない。
だが、すぐに司祭がやってきた。
「はぁはぁっ。よくおいでくださいました」
息が切れている。走ってきたのだろう。
「転移魔法陣が使われたら、音が鳴る鈴を司祭の部屋に設置しておいたのじゃぞ」
ヴィヴィがどや顔をする。準備の良いことだ。
「おはようございます。税の査定に来ました!」
「ぴぎ!」
クルスが笑顔で言う。
チェルノボクはクルスの肩からぴょんと降りると、司祭に飛びついた。
「主上。お久しぶりでございます」
「ぴぎー」
チェルノボクは嬉しそうだ。
その後、ユリーナが自己紹介した後、税の査定に入る。
俺にはどういう基準で税額を決めるのかよくわからない。
だから見物しているだけである。
「お布施の額ってどのくらいですか?」
「えっとですね……」
「教団の門番の方々などの給与は?」
クルスが質問して司祭が帳簿を持ってきて答えていく。
その帳簿をユリーナが精査していた。
「りゃ」「ぴぎ」
暇になったのか、シギとチェルノボクが遊び始めた。
チェルノボクの上にシギがのって、プルンプルンさせている。
シギは楽しそうだが、チェルノボクはどうだろうか。
「チェル、大丈夫?」
『たのしい』
「それならいい」
「りゃっりゃ」
一方、モーフィとフェムは部屋の中をぐるぐる回って臭いを嗅ぎまくっている。
一通り臭いを嗅いだ後、司祭に許可をもらって、部屋を出て行った。
一時間ぐらいたって、モーフィとフェムが戻ってくる。
『見つけたのだ』
「もっもー」
フェムとモーフィはどや顔をしている。
司祭が不安そうに言う。
「何を見つけたのでしょう?」
「えっとモーフィたちには貴金属とかお金とかがある場所を調べてもらっていたんですよー」
クルスが笑顔で言う。抜け目のないことだ。
「そうだったのですか。別に隠しているわけではないので構いませんよ。帳簿にも書いてありますし」
そう言って司祭は、ユリーナが精査していた帳簿の一ページを指し示す。
確かに書いてあったようだ。
その後、フェムたちが見つけた宝物庫も調べてから、税額を決定した。
さほど高額にはならなかったようだ。
司祭はほっと胸をなでおろしていた。