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183 新たな村と道

 税額が決まってから、教団の宝物庫を見学させてもらう。

 結構、高そうなものが沢山あった。


「なかなかな宝物ですね」

「ありがとうございます。大半は前魔王と魔人王からの供物です」


 前死王は前魔王と魔人王を、宝物と引き換えに眷属にした。

 その時に受け取ったものだろう。


「りゃっりゃ!」

「ピギピギ!」


 シギショアラも興味があるのか、パタパタ飛びながら見回っている。

 その後ろをチェルノボクがぴょんぴょん飛んでついて行く。


「シギ、触ったらダメだぞ」

「りゃあ」


 多分、シギはわかっていると思う。


 そんなことをしていると、ユリーナが司祭に尋ねた。


「この周囲には街道も村もないですけど、どうやって生活しているのですか?」

「信者の方々に買い出しに行ってもらっています」

「それは大変ですね」

「はい、大変です」


 そして、司祭はクルスに向き直る。


「伯爵閣下お願いがございます」

「なんですか?」

「道と村を作ろうと考えているのですが、許可をいただけませんか?」

「……詳しく聞かせてください」


 司祭は語りだす。

 死神教団は穏当な宗教団体ではあるのだが、邪教と思われることが多いらしい。

 それで、地域によっては弾圧されたりもするらしい。


 聞いていた、ユリーナがうんうんとうなずく。


「なるほど、そういうこともあるでしょうね」

「はい。なので、逃げて来た信者たちの村を作りたいのです」

「うーん。そうですね……」


 クルスは真面目な顔で考え込む。

 そして、俺の方を見た。


「アルさんはどう思いますか?」

「いいんじゃないのかな?」

「アルさんは、そう思いますかー」

「クルスはどう思うんだ?」

「いいと思うんですけど、こちらから出せる資金の面で多少不安が……」


 道も村も作るには金がかかる。

 果たしてクルス領の財政にそれだけの余裕があるのか懸念しているのだろう。

 クルスはよく考えている。


「伯爵閣下、その点はご安心ください」

「えっと、どういうことですか?」

「費用はここの宝物を使う予定です。労働力は信者の方々にも手伝ってもらって」

「ふむう」


 クルスは改めて考えこむ。


「ピギっ」


 そんなクルスの肩にチェルノボクがぴょんと飛び乗る。

 チェルノボクのジャンプ力は中々すごい。


『おねがい』

「チェルちゃんも村と道作りたいの?」

『うん。こまってるひとがたくさんいるの』

「なるほどなー。ユリーナはどう思う?」

「私は、いいと思うのだわ」

「そっかー」


 それから、クルスはしばらく考えた。


「わらわにも聞かないのかや!」

「もっも!!」


 そんなクルスにヴィヴィとモーフィが文句を言う。

 一方、フェムは宝物の臭いを嗅いでいた。

 シギはそんなフェムの背中に乗って羽をパタパタさせていた。


「えー、じゃあ、ヴィヴィとモーフィはどう思うの?」

「うーん。そうじゃなぁ! わらわはいいと思うのじゃぞ」


 ヴィヴィの意見は、みんなと異なる意見ではない。

 あえて言う必要もなかったのではなかろうか。

 だが、ヴィヴィはどや顔だった。


「そっかー」

『いい』

「そっかー」


 クルスはヴィヴィとモーフィに、気のない返事をする。

 そうしながら、モーフィの頭を撫でている。


「もっもう」

 モーフィは嬉しそうにクルスに甘えていた。

 それから、クルスは司祭の方を見る。


「許可は出しましょう」

「ありがとうございます」

「ですが、領主からの資金的援助の方は、あまり期待しないでください」

「それは承知しております」

「不甲斐なくて申し訳ないです」


 クルスは頭を下げる。司祭は少し慌てた。


「そんな、許可をいただけただけで、助かりますから」

「でも、できることがあれば手伝いますよー」

「ありがとうございます」

『ありがと』


 クルスは肩のチェルノボクを撫でる。

 撫でるというか、ふよふよ揉んでいる感じだ。


「そうですね。近いうちに税の徴収と村の建設を手伝わせるために役人を送ろうとおもいます」


 村の建設はともかく。道の敷設はどの道に接続するかなど、色々面倒なことも多い。

 そのような手続きは官僚の領分である。

 それに道自体は領主である伯爵の持ち物となるのだ。


「ありがとうございます」

『くるすありがと』


 チェルノボクはふるふるしていた。

 ヴィヴィが尋ねる。


「どんな村にするのかや? 農村かや?」

「そうですね。その予定です」

「ふむ。ならば色々と手伝えるかも知れぬのじゃ」


 どや顔でヴィヴィは胸を張る。

 司祭はわかっていなさそうだったので、俺が補足する。


「ヴィヴィは土壌改良の専門家なんですよ」

「そうだったのですか。それは大変助かります」

「うむ。任せるがよいのじゃ」


「俺も手伝いますよ。余ったゴーレムとかも貸し出せますし」

「それは心強いです」

『ある、びぃびぃありがと』


 チェルノボクにはヴィヴィの発音は難しかったようだ。

 少し舌足らずなかんじである。可愛らしい。


『フェムも手伝ってやるぞ。ネズミとか捕まえるのは得意なのだ』

「もっも!!」

「りゃあ」


 獣たちも張り切っている。


「よろしくお願いいたします」

「ぴぎい」


 もう一度司祭は深々と頭を下げた。

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