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184 畑の魔法陣

 税の査定と村と道を作る相談をしてから俺たちはムルグ村へと帰った。

 時刻は正午をだいぶすぎていた。


 倉庫をでたところで、謎の竜の被り物をかぶったものが立っていた。

 しかも二人いる。大きいのと小さいのだ。


「…………」

「……」

「りゃっりゃ!」


 竜仮面は二人とも無言である。

 謎の竜人に気づいて、シギショアラは俺の懐から顔を出して嬉しそうに鳴く。


「ティミ……なにやってるの? もう一人は、コレットだな」

「さすが、アルラ。よくわかったな」

「おっしゃんさすが」

「そりゃ、ねえ」


 そんなことしそうなのはティミショアラ以外にはクルスぐらいだ。

 クルスは俺と一緒に教団に行っていたので、必然的にティミとなる。

 それにコレットの方は小さいのですぐわかる。


「朝から王都に行って、シギショアラが喜びそうな被り物を買ってきたのだ」

「へー、よくできてるね」


 クルスは近寄って被り物に手を触れて、感心していた。


「そうだろうそうだろう」

「りゃあ」


 シギは喜んでティミの肩に乗る。そして被り物を撫でている。


「よく、そんな珍しいもの手に入ったな」

「うむ。トルフに頼んだらすぐ手に入れてくれたぞ」


 ティミは早速コネを使ったらしい。

 迷惑になってないだろうか。少し心配になる。


「いくらぐらいしたのじゃ?」

「えっと、確か……」


 ティミが値段を教えてくれる。

 結構な値段だ。ミスリルの盾ぐらいなら買えそうである。


「そんなにするのじゃな……」

「でも、ものすごく手が込んでいるし……妥当じゃないかな」

「そんなものかや?」


 コレットが竜の被り物をかぶったまま、モーフィの上に乗る。


「もっもー」

「わーい」

「ぴぎ!」


 チェルノボクも嬉しそうに、モーフィの上に乗っている。

 それを見ながらティミが言う。


「二つ買ったからお得だったのだ」

「へ、へー。そうなんだすごい」


 買わないのが一番お得だと思うが、そういうことは言わないでおく。


「お得ですね! いいなー」


 クルスはうらやましがっていた。



 しばらく遊んだ後、クルスは領主の館へと向かった。

 代官代行に死神教団からの税の徴収と道と村の整備を命じるためである。


 クルスを見送った後、ヴィヴィが言う。


「さて。わらわも働くとするのじゃ」

「働くって何するんだ?」

「畑に魔法陣を描くのじゃ。収穫後に描くといってあったはずじゃ!」


 そういえば、そんなことも言っていた。

 魔鉱石を魔石に変換して抽出する魔法陣のことだ。

 畑に作物が植えられている状態では描けないという話だった。


「そういえば、そうだったな」

「うむ。アルも手伝うのじゃ」

「わかった」


 一応村長に報告してから畑に魔法陣を描いていく。

 俺もヴィヴィの魔法陣を何度も見ているので、描けるのだ。


「やっぱりすごいですね」

「おっしゃんすごーい」


 弟子であるミレットとコレットも見学して感心していた。

 この魔法陣のすごさがわかるとは、ミレットとコレットも成長したものである。

 とても複雑で難解な魔法陣なのだ。


「そなたたちも魔法陣の勉強するかや?」

「ヴィヴィちゃん、これは難しすぎるかも」

「うん。むずかしいと思う」

「たしかに、この魔法陣はそなたたちにはまだ早いのじゃ。だが、簡単な魔法陣なら使えるかもしれぬ」


 ヴィヴィがそういうと、ミレットの目が輝く。

 きっとコレットの目も輝いているのだろうが、竜の被り物のせいで表情がわからない。



「教えて欲しいです」

「してんのー! おしえて!」

「うむうむ」


 満足そうにヴィヴィは頷いた。


「もっも」


 モーフィもミレットの横で、鼻息を荒くしている。


「モーフィも習いたいのかや?」

「もう!」

「仕方ないのじゃ。モーフィにも教えてやるのじゃ」

「もっも!」


 果たしてモーフィは魔法陣を使えるのだろうか。

 牛が描く魔法陣。見てみたい。


「りゃあ」


 シギが小さな声で鳴いた。

 俺の肩の上からシギは魔法陣をじっと見ていた。


「シギも魔法陣に興味あるの?」

「りゃっりゃ」


 どこか、興味ありそうな鳴き声だと思った。

 そのうち教えてやろうと思う。


 夕方になり、やっと村中の畑に魔法陣を描きあげた。

 俺とヴィヴィの二人がかりでも結構時間がかかるのだ。

 ちなみに暑くなったのか、コレットは途中で被り物を脱いでいる。


 描き終えたのを見計らい、フェムがやってくる。


『そろそろ吠えるのだ』

「頼む」

「わふ」


 魔獣と獣を追い払うため、毎日フェムは吠えている。

 フェムの周囲に、モーフィとシギが集まる。チェルノボクまで寄ってくる。


「がぁ……」


 フェムが口を開けて、息を吸いかける。その横ではモーフィたちも息を吸う。

 チェルノボクは息を吸っているのかよくわからない。ふよふよんしている。


「待つのじゃ」

「が、わふん?」

「も?」「りゃ?」「ぴ」


 そんなフェムたちの前にヴィヴィが立つ。

 フェムたちはきょとんとしている。


「さあ、吠えていいのじゃ」

「わふ……」


 フェムの前に立ちふさがったまま、ヴィヴィがそんなことを言う。

 困惑したフェムはこちらを見てくる。


「ヴィヴィ、一体どうした?」

「うむ。最近魔獣と戦うとき、咆哮を食らうことが多いのじゃ」

「そうだね」


 普通の魔獣は魔力を込めた咆哮など撃ってこない。

 咆哮に魔力を込められるのは、ドラゴンや魔狼王など特別強い魔獣だけである。

 だが、なぜか俺たちの戦う魔獣が超強い。必然的に咆哮を撃ってくることが多くなる。


「慣れておこうと思ったのじゃ」

「えぇ……」


 慣れるのはいいが、これまでの経験上、絶対漏らす。


「さあ、かまわぬ。吠えるのじゃ!」

「わふ」


 いいの? とフェムが目で聞いてくる。

 仕方ないのでうなずいて返す。


「がぁぁぁぁぁおおう」


 いつもより控えめにフェムが吠えた。

 ヴィヴィは一瞬びくりとする。


「まだじゃ! そんなもんではなかろう!」

「があああう」

「まだまだ!」


 そんなことを繰り返していった。


「がああああああああああああ」

「りゃああああ」

「もおおおおおお」

「ぴぎいいいいいいいい」


 ついにフェムが渾身の咆哮をぶつける。

 そして、ヴィヴィは立ったまま気を失った。

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