次の日の朝食の後、俺たちは死神教団の本部に向かうことになった。
同行するのは、クルス、チェルノボクの他に、ヴィヴィとモーフィ、ユリーナである。
当然、シギショアラも一緒だ。俺の懐に入っている。
「さて行くのじゃ!」
「も!」
ヴィヴィとモーフィが一番気合が入っていると思う。
ヴィヴィはつなぎの作業着に麦わら帽子という、農作業モードだ。
モーフィは背に一杯農具を乗せている。
「モーフィ。農具、魔法の鞄に入れるか?」
「もっ? も!」
モーフィは多分「いいの?」的な感じに鳴いている。
「いいぞ。余裕はすごくあるんだ」
「もう!」
俺はモーフィの背に山盛りになった農具を魔法の鞄に入れていった。
転移魔法陣のある倉庫の前まで行くと、ティミショアラとフェムが待っていた。
「あれ? ティミは極地に行かなくていいの?」
「いいぞ。今日は休みだからな。な! シギショアラ」
「りゃっりゃ!」
何が、「な!」なのかわからないが、休みらしい。
シギも嬉しそうに鳴いている。
「フェムも一緒に来てくれるのか?」
「わふ」
一緒に行くのは当然。フェムは、そう言っているような目をしている。
「ありがとうな。助かる」
「わふう」
フェムはぶんぶんと尻尾を振った。
転移魔法陣を通って、教団本部に到着すると、司祭が待っていた。
「みなさま、おはようございます」
「お待たせしました!」
「いえいえ、まったく待っておりません」
司祭とクルスがにこやかに挨拶を交わす。
昨日、司祭はクルスと話して、今日俺たちが来ると知っていたのだろう。
だから待っていたのだ。とても律儀だ。
「ぴぎっ!」
「主上もありがとうございます」
「ぴっぴぎ」
チェルノボクは司祭の肩の上に乗った。
それから建物の外へと移動する。
部屋から出る前に、チェルノボクはクルスの懐に入った。
チェルノボクは移動するときは基本、クルスの胸元らしい。
たしかに、急に司祭がスライムを連れ歩いたら教徒が不審に思うだろう。
その点クルスなら安心だ。だれも怪しまない。
建物の外に出た後、ヴィヴィが司祭に尋ねた。
「村はどのあたりに作るのじゃ?」
「はい建物を中心に、作って行こうと思っています」
「ほうほう」
真剣な顔で、ヴィヴィが周囲を見回している。
畑に適した場所などを探しているのだろう。
俺も司祭に尋ねてみた。
「村人の人数はどのくらいになる予定なのですか?」
「300名ほどです」
「……多いですね」
ムルグ村が建物60軒、人口200人ぐらいだ。それよりも多い。
その分、ムルグ村より畑も広くする必要がある。
そんなことを考えていると、さらに司祭が補足する。
「もう少し増えるかも知れません」
「なるほど」
死神教徒を弾圧する地域もある。
それが広がれば、逃げてくる教徒も増えるだろう。
「畑は村の中に作るのですか? それとも外に作るのですか?」
「それもまだ決めかねているのです」
「そうでしたか」
「あいにく、私も素人で……。申し訳がありません」
司祭は謝るが、普通みんな村づくりの素人なのだ。気にすることでもない。
クルスが真剣な顔で言う。
「ムルグ村の畑は村の外にありますよね?」
「そうだな」
「やはり、畑は村の外に作った方が便利なのですか?」
「村の外に作った方が、拡張性は高くなるよな」
「ほほう。これからも教徒がふえるかもなので、拡張性は大事かもですね」
ヴィヴィが地面の土などを調べながら言う。
「だが、動物に荒らされやすくなるのじゃ」
「ほむ」
「それに水利の問題も大切じゃ」
「水利?」
「水は人が生活するにも、畑を作るにもとても大事じゃからな。水利の観点から設計したほうがいいと思うのじゃ」
「なるほど」
考え込むクルスと司祭に向かって、ヴィヴィが言う。
「近くに川はあるのかや?」
「あ、それならば、あちらに……」
「井戸はどうじゃ?」
「いまある教団の建物で使っているものが一つ」
「ふむ。ならば掘れば使えるかもしれぬのじゃ」
そんなことをいいながら、みんなで近くの川へと向かう。
「ヴィヴィ、どう思う?」
「うむ。悪くない地形じゃ」
「それはよかった」
「じゃがのう……」
ヴィヴィは難しい顔をした。
「どうした?」
「土質がムルグ村より良くないのじゃ」
「やっぱり魔鉱石?」
「うむ……。旧魔王領も近いしのう。仕方ないのやもしれぬが……」
それを聞いてクルスが言う。
「牧畜も考えるべきかも?」
「そうじゃなぁ」
「ヴィヴィ、魔石精製魔法陣は?」
「それももちろん使うつもりじゃ。だがここまで魔鉱石密度が高いと、効果が出るまで、年単位の時間がかかるのじゃ」
それからは相談して、どこに何を作るか決めていった。
教団の村では牧畜と畑を両方やることに決まった。
相談が終わったころ、どこかに消えていたフェムが戻ってきた。
「わふぅ」
どや顔のフェムは、口にクマを咥えていた。
普通のクマではない。魔獣のクマである魔熊だ。
「なんと……」
司祭は驚いていた。
「魔熊多そう?」
『多いのだぞ。普通のクマも少しいるのだ』
フェムが言うには、魔獣も結構多いようだった。