夕食後、片付けをしてから俺はクルスに言う。
「そうだ、クルス。今日、アントンたち兄妹が来たぞ」
「アントンたち兄妹って言うと、薬草採取に来て、バジリスク五匹に襲われて死にかけた、あの?」
「そう、そのアントンたち」
「また、薬草採取クエですか」
「いや、どうやらクルス領の検地が適正に行われているか調べるために回っているみたいだったぞ」
「あ、あれですね! 伯爵領から冒険者ギルドに依頼を出したクエですね」
それを聞いていたルカが満足げにうなずいた。
「ちゃんとした冒険者に依頼を受けてもらったからね。安心していいわ」
「Bランク冒険者パーティーに依頼するってかなり奮発したな。複数のパーティーに依頼したんだろ?」
「それはそうよ。最初が肝心だし、多少の出費はね。こういうことは下手に下級冒険者に頼むわけにいかないし」
ルカの言うとおりだ。ランクが上がるにつれて人柄もまともになるのが冒険者だ。
Fランクには、ならず者もかなりの割合で混じっている。
そして不正を働くなどして、除名されたり処分されたりもする。
ならず者のままでは、冒険者を続けられないし、ランク昇格などできない。
その結果、ふるいにかけられていくので、上のランクほど信用できる。
「Bランクなら信用できますからね!」
クルスは笑顔でそう言った。
「Fランクに頼んだら、賄賂要求とかするならず者が、どこでまぎれるとも限らないし」
「冒険者のランクってそういう意味もあったのじゃな」
だいぶ元気を取り戻したヴィヴィがつぶやいた。
ミレットの美味しい夕ご飯を食べたおかげで回復したようだ。
「そうだ。アルさん。そろそろ、死神教団の人たち動き出すみたいです」
「おお、村づくりと道づくりだな」
「そうですそうです。今日の帰り、教団に寄ってきて聞いてきました」
クルスは領主の館で仕事をした後、わざわざ教団にもよったらしい。
気にかけているのだろう。
「それは偉い」
「えへへ」
ほめるとクルスは照れていた。
「アルさん、よかったら手伝ってください」
「構わないぞ」
「ピギ!」
チェルノボクが鳴く。
『ある、ありがとう』
それから念話が飛んできた。
「気にするな」
「りゃっ!」
ふるふるしているチェルノボクのうえには、シギショアラが乗っている。
夕食の最中は俺にべったりだったシギも、今では落ち着いたようだ。
ご飯を食べさせながら、ずっと撫でてやったので、寂しさが解消されたのだろう。
シギの様子を眺めていたティミが言う。
「我に手伝えることがあれば言うがよいぞ」
「ティミちゃんありがと」
「なぁに、チェルノボクは、シギショアラの友達だからな」
「りゃっりゃ」
「ぴぎっ」
チェルノボクの上に乗ったまま、シギが羽をパタパタさせた。
シギはチェルノボクのふよふよ加減が好きなようだ。
チェルノボクも、シギに上に乗られてびょんびょんされるのが気持ちいいらしい。
「畑を作るならわらわも呼ぶのじゃ」
「うん、作るよー」
「もっも!」
開墾に自信があるモーフィも力強く鳴く。
ヴィヴィもモーフィもムルグ村でイモ畑を開墾したときは大活躍したものだ。
「モーフィちゃんもお願いね」
「もっ!」
モーフィは、普通の牛数頭分の働きをする。
頭がよくて、力が強く、持久力もあるのだ。
俺が少し気になって、フェムを見ると、すました顔でお座りしていた。
あえて言うまでもあるまい? そう横顔で言っている気がした。
フェムはきっと手伝ってくれるだろう。害獣退治とか得意なのだ。
「森を作るわけでもないのじゃし……。わらわが手伝えること……」
ヴァリミエも何か考え始めた。
そして何かを思いついたようで笑顔になった。
「そうじゃ。ゴーレムを貸し出そう。道を作るにも村を作るにもいい労働力になるのは間違いないのじゃ!」
「ぴぎ!」
「ヴァリミエちゃん、ありがとうね」
俺は少し気になっていたことをクルスに尋ねる。
「そういえば、クルス。官僚を派遣してもらうって言ってたよな」
「そうですよー。領主代行に派遣するよう言っておいたので、いま向かっていると思います」
転移魔法陣を使わないので、官僚の移動には時間がかかるのだ。
「官僚が到着する前に、動いちゃっていいのか?」
「大丈夫です。ぼくが領主ですからね」
「それはそうだが」
代官たちに迷惑が掛からないか心配になる。
「それに領主の館に行った際に代官代行と相談しているんですよ」
「村をどう作るか?」
「どう作るかというよりは、なにしたら困るかですね。あとは関連法規について教えてもらったりとか」
俺が思ったよりクルスはちゃんとしていたようだ。
成長している。感動すら覚える。
「それに、官僚の仕事のメインは手続きとか書類作りですから」
「どのように、なにを作るかは、クルスの仕事の範疇ってことか」
「ぼくと、チェルちゃんと司祭さんの仕事の範疇ですね」
そういって、クルスはシギを乗せたままのチェルノボクを肩に乗せる。
「ぴぎ!」
「りゃっりゃ!」
シギもチェルノボクも嬉しそうだ。
クルスの話を黙って聞いてたユリーナが、
「クルス。立派になって……」
感動していた。若干涙目になっている。
数か月前に種イモ詐欺にあったとは思えない。しっかりしたと思う。
「役職が人を育てるというやつじゃな?」
ヴィヴィがうんうんとうなずいていた。
「わらわも四天王になって、成長したものじゃ。著しく」
「そうなのか」
「そうじゃぞ」
ヴィヴィはともかく、クルスが成長しているのは事実だろう。
頼もしいことである。