フェムとティミショアラの息が整ったのはほぼ同時だった。
「わふぅ」
「やりおるな」
フェムとティミは互いに見つめあっている。
全力で競争して、お互いを認め合ったようだ。
「りゃっりゃぁ」
シギショアラもティミの肩に乗ったまま、機嫌よく鳴いている。
シギは高速移動すると大体機嫌よくなるのだ。
「さてさて。アルラよ。川を渡ったところから、どんどん木を抜いて行けばいいのだな?」
「そうだぞ。ちょっと地図を見せてくれ」
「好きなだけ見るがよい」
ティミは手にしていた自作の地図を渡してくれる。
そこにはクルスが記した道予定図が書き込まれていた。
「ふむふむ。今、俺たちがいるのがここだな」
「そうだな。このまま進むと、すぐにまた川があるな」
これから道を敷設する場所は、川と川の間にある。
俺たちが今いる場所を流れている川は、それほど太くない。
だが、二本目の川はかなり太い。立派な川だ。橋を作るのが大変そうである。
「すぐって言うほど近くはないけどな。立派な川があるな」
「このぐらいの距離ならば、一日で全部木を引っこ抜けるだろう」
「無理はするなよ」
「わかっているぞ」
「りゃっりゃー」
ティミと会話していたら、シギがぱたぱたと飛んで俺のところに来た。
ティミはショックを受けたような顔になる。
「シ、シギショアラ……」
「りゃりゃあ?」
「我は、今から大きくなるのだぞ?」
「りゃ?」
「頭の上に乗っていいのだぞ」
「りゃあ?」
ティミは自分のところに来たら楽しいとアピールする。
だがシギは首をかしげていた。
「実際に大きくなったら、シギの気も変わるんじゃないか?」
「そ、そうか?」
「ドラゴンの姿はかっこいいからな」
「そうだな! かっこいいからな。アルラは頭がいいな」
そして、ティミはシギの頭を撫でながら語り掛ける。
「いまから叔母さんが大きくなるからなー。見ているのだぞ」
「りゃ」
ティミショアラは一気に巨大になった。
まるで一瞬で周囲の空気が膨張したような感覚を覚える。強烈な威圧感だ。
周囲から音が消え去った。
動物や鳥どころか虫までも息をひそめている。
フェムがティミを見上げてつぶやいた。
『何度見ても、威圧感がすごいのだ』
「そうだな」
俺はフェムを、さりげなく確認する。
尻尾も巻いてないし、震えてもいない。フェムも成長したのだろう。
「RyaaRyaa」
「りゃありゃあ」
ティミが鳴くとシギが嬉しそうに返事をする。
そして、俺の手からぱたぱたと飛び立った。
そのままティミの頭の上に着地する。
「シギショアラ。やはり、叔母さんのところに来てくれたか」
「りゃあ」
ティミはすごく嬉しそうだ。
シギも大きなティミが気に入ったようで、ティミの頭を小さな手でペシペシ叩いていた。
「アルラ。フェム。川を渡るぞ」
「頼む」
「わひゅ」
ティミの巨大な手でつかまれる。
さすがのフェムも驚いたようで変な声を出した。
ティミは巨体に似合わず、ふわりと浮かぶ。静かに飛んで向こう岸に着陸する。
「それでは、作業に入るぞ」
「どんどん抜いて行ってくれ。木材を並べるのは俺がやっておく」
「アルラ。頼んだぞ。シギショアラ、我の頭の上でよいのか?」
「りゃあ」
「そうか。場所を変えたかったらいつでも言うのだぞ」
そういって、ティミは木を引っこ抜き始めた。
モーフィは角を差し込んでてこの原理で引っこ抜いていた。
だが、ティミは力づくだ。
「ぬん!」
「りゃっりゃ!」
ティミは木を手でつかむと、無理やり引き抜いた。
それを見て、シギは大はしゃぎする。
巨大なティミは、当然手も巨大だ。まるで人間が草むしりしているかのようである。
木の根が大量の土ごと持ち上がる。
「ちょ、ちょっとまて」
「む? どうした。アルラよ」
「ティミがつかんだところ、バキバキになってないか?」
「む?」
ティミは、自分がつかんだ木を見る。
あまりにも強烈な握力で木がつぶれかけている。
「なんという、もろい木だ」
「いや、木自体は普通の木だぞ」
「むむう」
木は建築材にする予定だ。バキバキになっては困る。
「ア、アルラ、どうすればいい」
「そうだなー」
少し俺も考える。
「古代竜の魔法で、何かいいのないの?」
「そうだな。燃やす魔法は……」
「木材として使えないからやめたほうがいいな」
「そうであるな……」
ティミのブレスで燃やせば、一番早いだろう。
俺が魔法で補助すれば延焼も防げる。
だが、それだと木材として使えない。
『炭も需要あると思うのだ』
「もちろん。炭の需要はあるだろうが、あれはあれで、特別な条件で作られたものなんだぞ」
『そうなのだな。知らなかったのだ』
炭づくりはただ燃やせばいいというものではない。
きちんとした木炭にするには、色々と複雑な手順が必要になると聞いたことがある。
「そうだなー。地面を柔らかくする魔法とかない?」
「むう。地面を柔らかくする魔法……」
しばらく考えてティミが言う。
「振動系の魔法とか重力系の魔法を組み合わせれば何とかなるやも知れぬ」
「おお、それでいこう。その魔法を使ってから、根元の方から引っこ抜けば、行けるのでは?」
「そうだな。やってみよう」
ティミの魔法はすごかった。
右手で木の根元周辺の重力を軽くし、左手で地面を振動させるのだ。
その振動は、振れ幅は狭く、とても高速だった。
振動の及ぶ範囲は極めて限定的だ。
その効果で、揺れている場所と揺れていない場所が分離しやすくなるようだ。
「そろそろだな」
ティミはつぶやくと、木の根元に人差し指を突っ込んで、木をポンと引き抜いた。