ティミショアラはあっさりと木を引き抜いていく。
最初からつかんで引き抜かず、指を地面に突っ込めばよかったのではと思わなくもない。
「りゃっりゃ!」
「そうかそうか」
シギショアラが機嫌よく鳴き、ティミも嬉しそうになる。
もしかしたら、古代竜の言葉で、ほめているのかもしれない。
俺は大きくなったフェムの背に乗って、ティミの引き抜いた木を並べていく。
あとでまとめて運びやすくするためだ。
フェムが言う。
『加工もしてしまえばいいのだ』
「そうできたら楽なんだけどな……。木の皮剥いて、利用できるように四角く加工したら運びやすいし」
『ふむ?』
「だが、木の皮とか切り落とした木のかけらとかも利用するからなー」
ティミが最初にバキバキにした木も魔法の鞄にいれてある。
一本程度なら何の問題もないが、全ての切れ端をかばんに入れていくのも面倒だ。
『かけらとかは、燃料にでもするのだな』
「そうそう」
『たしかにここで加工したら面倒なのだ』
快調に抜いていくティミに向けて俺は尋ねた。
「ティミ魔力消費はどうだ?」
「何の問題もないぞ」
「無理はするなよ」
「わかっておる。だが、人型に変身する方が魔力消費が多いぐらいだぞ」
よく考えたら、巨大な体を人の形と大きさに変化させるというのは大魔法だ。
それをティミは日常的に使っている。
やはり、古代竜は魔力量が尋常ではないようだ。
「それはすごい」
「ふふ。アルラに褒められると嬉しいぞ」
「りゃっりゃ!」
シギはティミの角の間に乗って、嬉しそうに鳴いている。
「シギ。ティミの魔法、しっかり見とけよー」
「りゃあ」
シギは元気に返事をする。
古代竜の魔法は俺には教えられない。
ティミの魔法を見て勉強してほしいものだ。
昼過ぎ、もう一つの川まで到達した。
「早いな」
「ふふふ」
「りゃありゃ」
ティミは自慢げだ。シギもご機嫌に鳴いている。
「さて、木を運ぶか」
「そうだな。我の背に乗せて運ぼう」
確かにティミの背に乗せるのが一番効率的に思える。
だが、ティミの背には羽がある。
「背中に乗せて、飛んだら、落ちないかな?」
「大丈夫だぞ。我は重力魔法で飛んでいるのだ。木にも魔法をかければよかろう」
ティミは簡単に言う。
「それはすごいな」
「アルラも、できるくせにー」
俺がほめると、ティミは照れていた。
一応、俺とフェムも木と一緒にティミの背に乗る。
落ちそうになった時、魔法で支えるためだ。
かなり大量に乗せられたので、二回も往復すれば大丈夫だろう。
「では行くぞ」
「頼む」
ティミはふわりと浮かび上がる。
全く揺れない。羽のはばたきも、ほとんどない。
ティミが言うには、羽で重力魔法を発動させて操作しているのだという。
ということは、ふわふわ飛んでるシギも重力魔法を使っているということなのだろう。
「古代竜はすごいな」
「ふふふ」
「りゃあ!」
ティミが嬉しそうに笑う。
シギもティミの真似をしているのか、ふわりと浮かぶ。
そして、こちらの方に飛んできた。シギはあまり揺れていない。
「りゃ!」
俺にしがみついて一声鳴いた。
「もう、動き出しても大丈夫か?」
「いいぞ、待たせた」
ティミはシギが飛んでいる間、空中で動かずに待っていてくれた。
教団の建物に空中から近づくと、やはり騒ぎになっている。
静かに降りると、木を積み上げた。
「大丈夫ですよー」
「皆さん落ち着いてください」
クルスと司祭が、信者たちをなだめていた。
ティミはまったく気にしていない。
「さて、もう一回だ」
「了解」
「りゃっりゃー」
「わふう」
フェムもティミの背中に乗っている。
もう怖くはないのだろう。大した狼である。
再度上空に上がったとき、畑予定地の方が見えた。
モーフィが元気に木を引っこ抜いていた。
モーフィの抜いた木を、ヴィヴィ、ミレットとコレットがゴーレムを操って運んでいる。
「順調に木が集まってるな」
「そうだな。建物を建てた後、売りに出せるかもしれぬな」
「余るぐらい集まればいいな」
その後、特に問題もなく、無事に木を運び終える。
「木材に加工しなければならぬな」
「そうだな」
モーフィが抜いた分も、一緒に加工していく。
俺の作業を見て、ティミも真似を開始する。ちなみにティミはまだ大きいままだ。
とても巨大なのに、細かい作業を器用にこなしていく。
「意外と難しいな!」
「とてもうまく見えるが」
「そうか? ふふふ」
ティミは照れている。
シギはそんなティミの頭の上に乗って、じっとティミの様子を観察していた。
魔法を使うティミを見て勉強しているのかもしれない。
「シギ、がんばるんだぞ」
「りゃ?」
シギは首をかしげていた。
木材の加工を終えると、次は道づくりだ。
今は木を抜いた穴がぽっかり開いている状態だ。
これではとても歩きにくい。馬車が通るのにも支障がある。
「穴をふさぎに行こう」
「了解だ」
巨大なティミに乗って、飛んで移動した。
一本目の川の向こうに到着した後、穴をふさいでいく。
俺は魔法で、ティミは足でざっざと土をかけていく。
「ティミは道づくりに向いてるな」
「そうか?」
そう返事をしたティミはどこか照れている感じだ。
ティミは、ほめるとすぐ照れる。ほめられ慣れてないのかもしれない。
一通り穴をふさいだ後、ティミが言う。
「火炎のブレスで焼こうか?」
「あ、それもいいかも」
ティミが火炎ブレスを吐けば、道の上に落ちた草の根とか種などが全て燃える。
とりあえず、やってみることにした。
ティミの火炎ブレスは、とても強力なので緊張する。
延焼を防ぐのは俺の仕事だからだ。
魔法障壁と氷の壁を上手に展開していかなければならない。
それなりに時間をかけて、二本目の川まで到達する。
「結構、体動かしたな!」
「いい運動になった」
『ティミはともかく、アルは魔法使ってただけなのだ』
「魔法を使うのも、魔力だけじゃなく、体力使うんだよ」
「わふふ」
フェムが楽しそうに鳴く。
それからフェムとティミが小さくなった。
ティミはいつもの服ではない。俺やヴィヴィと同じつなぎの作業着だ。
「ティミも作業着にしたのか?」
「そうだぞ」
ティミはなぜかどや顔をしていた。
古代竜は人化するとき服も一緒に魔力で作っている。
だから、どんな衣装もある程度思うがままなのだ。
「この服の方が作業してるって感じがするからな!」
「確かに、それはわかる」
「りゃっりゃ」
「おお、シギショアラも着たいのか?」
「りゃあ」
「そうかそうか」
そしてティミショアラが言う。
「アルラ、シギショアラの作業着はどこにあるのだ?」
「ないけど」
「なんと……」
「りゃぁ……」
ティミとシギがしょんぼりしてしまった。
「あとでヴィヴィに頼んで何とかするか」
「そうじゃな!」
「りゃっりゃ!」
それから、ティミはフェムと一緒に川の水を飲み始めた。
「川の水とか直接飲んでお腹壊さないか?」
竜の姿の時も、川の水を飲んでいた。その時は何の心配もしなかった。
だが、人間の姿で、川の水を飲まれると心配になる。
「大丈夫だぞ」
「りゃっりゃ」
シギもティミと一緒に水を飲んでいた。
しばらく川辺で休んでいると、向こう岸に、人間の集団が見えた。