ムルグ村にみんなで帰る。
小屋に入ったところで、ミレットが獣たちを見て言う。
「夜ご飯作っている間に、お風呂入っちゃってください」
「わふ!」
「りゃっ」
「もっもー」
「ぴぎ」
穴を掘って遊んでいたフェムとシギショアラは泥だらけだ。
モーフィも農作業に従事していたのだ。当然泥だらけである。
このまま家の中を歩き回ったら、後の掃除が大変だ。
「よし、シギ、フェム、モーフィ。それにチェルノボクもお風呂に入るぞ!」
俺は獣たちを連れてお風呂へと向かう。
「りゃっりゃあ」
「シギショアラもお風呂が好きなのだなぁ」
「りゃあ」
「そうかそうかー。綺麗好きなのはいいことだぞー」
俺が脱衣所に入ると、当然のようにティミショアラがついてきた。
「ティミさん?」
「なんだ? シギショアラ、我が洗ってやるからなー」
「りゃ!」
「いやいや。ティミ、人族は普通は混浴しないんだぞ」
「我は竜であるぞ? フェムやモーフィたちと、アルラが風呂に入るのと同じであろう?」
そう言われたらそうかもしれない。
「だけど、ティミは今人型だし」
「だが、竜の姿だと大きすぎて入れないぞ?」
「そういうことじゃなくて」
「どういうことだ?」
ティミは首をかしげながら、どんどん服を脱いでいく。
恥じらいのかけらもない。
「さて、シギショアラ。入るぞー」
「りゃあー」
シギは俺の腕をつかむ。一緒に入ろうと言っているのだろう。
「仕方がないな」
シギに頼まれたら俺も入るしかない。
俺も服を脱いで、お風呂に入った。
「シギショアラー、叔母さんが洗ってやるぞー」
「りゃあ」
俺が一緒に風呂場に居たら、別に俺以外に洗われてもいいらしい。
シギはティミに洗われながら、ご機嫌に鳴いている。
「モーフィとフェム、チェルノボクもおいで」
「もっも」
「わふう」
「ぴぎっ」
俺はモーフィとフェムとチェルノボクをわしわし洗う。
今日は同時に洗ってやることにした。
石鹸で交互に洗ってやる。
「もっもー」「わふ」「ぴぎっ」
モーフィもフェムも気持ちよさげだ。
チェルノボクも機嫌がよさそうだ。
「モーフィもフェムも今日は頑張ってくれたなー」
そんなことを言いながら洗っていく。
『みんな、ありがと』
洗われながらチェルノボクも念話でお礼を言っていた。
すると、先に洗われ終ったシギがふわふわ飛んできた。
「りゃあ」
シギは俺の頭の上に乗る。そして、小さな手でわしわしし始めた。
「シギ、洗ってくれてるのか」
「りゃあ」
石鹸は使っていないが、洗ってくれているのだ。優しい子である。
「仕方がないな。我がアルラを洗ってやろう」
モーフィたちをあらう俺の背後から、ティミが洗ってくれる。
シギも一緒に手を動かしている。
「ありがとう」
「気にするな」
「りゃっりゃ」
背中を流してくれて、頭も洗ってくれた。
体を洗った後、みんなで湯船に入る。
「ふうう。人族の風呂はいいものだな」
「りゃあ」
「古代竜は風呂とか入らないのか?」
「体がでかいからな。海とか湖とかに入ることはあってもお風呂にはあまりな」
「人型になって入ればいいのに」
「一応、極地の宮殿にはお風呂はあるぞ。あまり使わぬが」
ティミは気持ちよさげに湯船の中で伸びをしている。
「古代竜は混浴とかあまり気にしないのな」
「それはそうだぞ。古代竜には性別がないからな」
「……ないの?」
「ないぞ。あえていえば、卵を産むのだし、全員雌と言ってもいいかもしれぬな」
新事実だ。あとでルカに教えてやろうと思う。
いや、ルカのことだからもう知っているに違いない。
その時、クルスが風呂場に入ってきた。
「あ、ティミちゃんも一緒だったんだねー」
「おう、クルス。いいお湯であるぞ」
クルスもティミも平然と会話している。
こいつらには混浴が恥ずかしいという概念がないのかもしれない。
クルスは何をするにしても素早い。体を洗うのもとても早いのだ。
洗い終えると、すぐに湯船にやってくる。
「いいお湯だねー」
「労働の後のお風呂はたまらぬな」
「古代竜でもそういう感覚ってあるんだ?」
「なかったが、覚えた」
「そうか」
クルスの周りにはモーフィとフェムが寄っていく。
「また、モーフィとフェム、お湯飲んでるだろ」
「わふ?」
「も?」
とぼけているが、絶対飲んでいる。
なにやら、獣たちにとってクルス周りのお湯は美味しいらしい。
一方、チェルノボクは俺の周りをふよふよ浮かんでいた。
「スライムって水に浮かぶのか?」
「ぴぎ?」
持ち上げた感じでは水より重い気がするのだ。謎である。
謎は置いといて、俺はクルスに向けて言う。
「クルスはあれだぞ。もう少し恥じらいというのをもってだな」
「えー」
「えーじゃありません」
「ぷう」
クルスは不満げに頬を膨らませた。
その周囲では獣たちが泳いでいる。
シギも機嫌よく湯船の中を泳いでいた。かなり泳ぎがうまい。
「シギショアラ。泳ぎの天才であるな」
そんなことをティミが言っている。
すると、浴場の扉が開かれた。コレットが入ってきた。
「あ、おっしゃんもいるー」
「コレット、自分で体洗えるか?」
「洗えるよー」
コレットが自分の体を洗い始めた。
幼児なので、まだ洗うのが下手だ。手伝ってやるべきだろう。
「コレット、頭を洗ってやろう」
「やったー」
「りゃっりゃー」
シギも一緒についてくる。俺はコレットの頭を洗ってやった。
シギもコレットの頭の上に乗り、一生懸命わしわししている。
「シギちゃんもありがとー」
「りゃあ!」
それからみんなで湯船に入って、温まった。