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202 臨時代官補佐

 ヴァリミエがどや顔をしたころ、クルスが材木を運ぶゴーレムに気が付いた。

 穴掘りをやめてこっちに来る。


「すごいですね! ヴァリミエちゃんが持ってきてくれたの?」

「うむ。乾燥前の木材と乾燥後の木材を交換してやろうと思ったのじゃ」

「それは助かるよ」


 それから、クルスは真面目な顔で、ヴァリミエに言う。


「ヴァリミエちゃん。お金払うよ?」

「その必要はないのじゃ」

「いいの?」

「いいぞ。運んできた材木はしばらく出荷の予定もない物じゃし」

「でも……」

「クルスよ。クルスは、わらわが困ったときに助けてくれるじゃろ?」

「うん。それは助けるよ」

「だから、わらわもクルスが困っていたら助けるのじゃぞ?」

「ありがとう」


 その後、司祭がやってきた。技術者たちを案内し終えたのだろう。

 そして、材木の話を聞いて、ヴァリミエに何度もお礼を言っている。


「気にするでないのじゃ」


 何度もお礼を言われて、ヴァリミエはとても照れていた。


「もっもー」

「がうが」


 モーフィも、なぜかヴァリミエに頭をこすりつけていた。

 ライも一緒に、頭をこすりつけている。


「ライもモーフィも仕方ないのじゃ」


 ヴァリミエは機嫌よく撫でている。


 クルスがこっちに来たことで、シギショアラたちも穴掘りをやめてこっちに来た。

 チェルノボクやフェム、ティミショアラも一緒だ。


「りゃっりゃ!」

「シギ、泥だらけじゃないか」

「りゃあ?」

 泥だらけの体をこすりつけてくるので、こっちにも泥がついてしまう。

 シギは肩に乗って、俺の頬に体をこすりつけてくる。

 顔が泥だらけになってしまった。


「わふわふ」

 フェムも泥だらけの体をこすりつけてくる。

 おかげで俺は全身泥まみれだ。


「ぴぎっ!」

 チェルノボクは、俺の頭の上に乗る。麦わら帽子をかぶっていてよかった。


「ふふふ、アル。その恰好でよかったじゃろう?」

「そうだな。確かに」


 俺につなぎの作業着を着せたヴィヴィがどや顔をする。


「もう仕方ないな。しっかりお風呂入らないと駄目だな」

「りゃあ」

「チェルノボクもだぞ」

「ぴぎっ!」

「シギショアラのお風呂は、我が入れてもいいのだぞ?」

「りゃっ!」

「そんなに、はっきり拒否しなくてもいいではないか……」


 なにやら、ティミショアラは断られたらしい。悲しそうだ。


「そんなにアルラとお風呂に入りたいのか」

「りゃあ」

「……そうなのか」


 ティミが恨みがましい目でこっちを見てきた。

 俺は気づかないふりをすることにした。


 俺たちが休憩している間に、クルスと司祭は運び込まれた材木について相談している。


「明日から建物の建築に入れますね」

「そうですね。なるべく早く、しっかりとした住居を建てたいところです」

「寝泊まりするところは大事ですからね」


 相談を終えてクルスがやってくる。


「アルさんには、橋づくりを手伝ってほしいです」

「おう、任せろ」

「ありがとうございます!」

「建築の方は、手伝わなくていいのか?」

「まずは橋の方が色々と魔法が必要かなと……」

「それもそうだな」

「住居の建築はゴーレムに手伝ってもらおうかと思っています」


 それを聞いていた、ヴァリミエが言う。


「ゴーレムもう少し貸し出したほうがいいかや?」

「貸してもらえたら助かるけど……大丈夫?」

「大丈夫だぞ。防衛用ゴーレムなど最小限の数がいればいいしのう」

「それなら助かるよ」


 太陽が沈みかけたころ、明日についての相談がおわる。


「さて、今日はもう帰りますかー」

「もっもー」

「りゃあ」


 クルスがモーフィとシギを引き連れて、帰り始める。

 俺たちも一緒にムルグ村へ帰るために移動を開始した。


 その時、

「おい! 責任者をここに連れてこい!」

 怒号が響いた。


 声のした方をみると、臨時代官補佐と中年の組み合わせだった。

 俺はクルスに教える。


「あの二人組の若い方が、例の臨時代官補佐だぞ」

「あれが例の補佐ですかー。態度が悪くて困りますね」


 責任者である司祭が、代官補佐のもとに向かう。


「どうされましたか?」

「どうされましたか? ではないわ! お前たちの信者が無礼を働いたのだ。罰してやる。連れてこい」


 中年のほうが司祭を怒鳴りつけた。


 代官補佐たちは怒り狂っているが、垂れ流した後なのでとても臭いのだ。

 ティミの咆哮を食らったので仕方ないとはいえ、教徒たちは事情を知らない。

 漏らした男たちがなんか怒鳴っているぐらいしかわからないのだ。

 困惑しながら、代官補佐たちを見つめている。


 代官補佐も加わって司祭を怒鳴りつけはじめた。


「ちょっとまずいですね。行ってきます」

 クルスが小走りで代官補佐の方に向かう。


「もっも」

 なぜかモーフィもクルスについて行く。


「りゃ」

「シギはついて行かなくていいぞ」

「りゃあ?」

 シギまでついて行きかけたので、捕まえておいた。

 一応懐の中に入れておく。


「りゃあ」

 シギは静かになる。


 クルスは笑顔で、司祭と代官補佐の間に割って入る。

 モーフィも同様だ。


「まあまあ。落ち着いて落ち着いて」

「もっも」

「邪魔するな! 牛飼い風情が!」


 代官補佐がクルスに向かって右手で殴り掛かる。

 その手は難なくクルスにつかまれた。クルスを殴れる人間などそういない。


「暴力はよくないですよ?」

「い、い゛だい、いだいいい」


 クルスはつかんだ手を強めに握っているようだ。

 代官補佐は崩れ落ちるようにひざをつく。


「とりあえず、着替えたらどうですか? 臭いですよ?」

「貴様!」


 中年がクルスに向かって蹴りを繰り出す。

 素人の動きではない。武術の訓練を受けているのだろう。

 きっと護衛も兼ねているのだ。


「もっ!」


 モーフィが中年の蹴り足を咥える。そして振り回した。


「うわぁあああ」

 中年を転倒させてから、モーフィは前足で中年を抑える。

 モーフィは牛にしては小柄とはいえ、牛なのだ。充分重い。

 容易にはねのけることなどできない。


 クルスが司祭に向けて言う。


「とりあえず、傷害の現行犯ですから、地下牢にでもいれておきますか」

「地下牢とか……ないのですが……」

「え、ないんですか?」

「はい」


 クルスが困ったようにこちらを見る。


「ア、アルさんどうしましょう?」

「仕方ないな。穴掘っていい場所ある?」

「それならば、こちらに……」


 司祭が、畑予定地の近くを指さした。


「じゃあ、穴掘って、地下牢もどきをつくりましょう」

「お願いします!」

「材木も少し借りますね」


 俺は魔法で穴を掘り、重力魔法で圧をかけて固めた。

 そうしておいて、材木で格子を作る。

 穴は身長の二倍程度だ。飛んだり跳ねても届くまい。


「ちょっと格子は荒いけど、まあ、大丈夫だろ」

「本職の盗賊なら抜け出せそうですけど、大丈夫だと思います」

「よし、それならクルス、モーフィ頼む」

「はい!」

「もっも!」


 代官補佐たちを、地下牢もどきに放り込んだ。

 一応落下ダメージを受けないように重力魔法で保護してやった。


 クルスは上から語り掛ける。


「一晩そこで反省してください」

「貴様! 俺は代官補佐だぞ! こんなことをしてただで済むと思っているのか」

「はいはい」


 クルスは、適当に流して、司祭に対応を頼んでいた。


 ムルグ村への帰路の途中、クルスが言う。


「ぼくがクルスだって気づいてなかったですね」

「会ったことあるのにな。俺も気づかれなかったぞ」

「目が悪いのかもですね」

「かもな」


 そんなことを話しながら、俺たちは村に戻った。

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