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201 不足する材木

 技術者と官僚の人たちを、司祭が建物の中へと案内しにいった。

 ニ、三日は教団建物に泊まってもらう予定なのだ。


 俺はヴィヴィに尋ねる。


「材木の乾燥はまだかかりそうか?」

「明後日まで干せば、大丈夫だとは思うのじゃが……」

「明後日か」

「急がせることもできなくはないのじゃ。でも、長く持つ建物を建てるにはあまり急がせるのも……」


 ヴィヴィの言うこともわかる。

 あまり急いでもいいことはない。


 聞いていたクルスが言う。


「ヴァリミエちゃんに頼んで材木貸してもらったりする?」

「ふむ? 貸してもらうのかや?」

「乾燥途中の材木と、乾燥済みのやつを交換してもらったりとか」


 クルスの提案はいいように思えなくもない。


「だけど、ヴァリミエの側に得がないからな」

「そうですねー」

「姉上はお願いすれば、聞いてくれると思うのじゃ!」

「そうかもしれないけど、ゴーレムを借りたうえに、さらにっていうのは厚かましいかもな」

「そうですね、迷惑だったかもです」


 クルスがそういうと、ヴィヴィは不服そうに腕を組む。


「厚かましいかどうか、迷惑かどうかは、姉上が決めることじゃ!」

「それはそうかもだけど」

「ちょっと待っているがよい!」

「もっもー」


 ヴィヴィが走り出した。その後ろをモーフィがついて行く。

 ヴィヴィはモーフィに気づくと、素早くモーフィの背に飛び乗った。

 おそらく転移魔法陣を通って、リンドバルの森に行くのだろう。


「行っちゃいましたねー」

「そうだな」


 クルスは畑予定地の方を見る。

 そちらではシギショアラとチェルノボクが遊んでいた。

 ちなみにティミショアラとフェムも一緒だ。


「シギちゃんも楽しそうですね」

「そうだな」


 シギが畑の予定地の土地に穴を掘っていた。小さな手でわしわし掘っている。


「りゃっりゃー」

「ぴぎぴぎっ」


 チェルノボクも真似している。

 だが、全体的にふよふよした丸い物体なので穴を掘るのは苦手そうだ。


 俺はクルスに尋ねる。


「チェルを服の中に入れないでいいのか?」

「教徒の皆さんに見せないほうがいいってことですか?」

「うん、教団の仕組みというか、そういう教義的な話はよくわからないけどさ」


 教徒の人たちもチェルノボクには気付いている。

 シギたちと遊んでいるチェルを見てニコニコしていた。


「主上だと気づかれてないみたいなのでいいと思います」

「そうか」


 シギやフェム、モーフィなどの獣たちの中に居ればチェルノボクも目立たない。

 きっとクルスの連れてきた可愛い動物たちだと思われているだろう。


「わふわふ!」

「りゃあ」

「ぴぎっ」


 フェムが穴を掘りはじめた。見本を示そうというのだろう。

 やはり穴を掘るスピードが速い。


「わふぅ」

「りゃっりゃ!」

「ぴぎぃ!」


 フェムが見事に穴を掘ったので、シギとチェルノボクの尊敬を集めたようだ。

 それをみて、ティミもうずうずしたのだろう。


「シギショアラ、見ているがよい!」

「りゃ!」


 ティミが手で穴を掘りはじめた。

 ちなみにティミは人型である。フェムと同じように両手で掘っている。


「えぇ……。ティミ何やってんだ……」


 思わず俺はつぶやいた。

 いくらシギの尊敬を集めたいと言っても、それはないと思う。

 フェムと張り合ってどうするのか。


「穴を掘るなら、道具を使うべきじゃないかな……」

「手で掘るってのが楽しいんですよー」

「そんなものなのか」

「ちょっと、ぼくも行ってきますね!」


 楽しそうだと思ったのか、クルスが畑予定地の方に走っていった。


「えぇ……クルスもか……」


 クルスもティミに並んで、穴を掘りはじめた。

 もちろん道具は使わない。両手を泥だらけにしながら掘っていく。


「りゃっりゃ!」

「ぴぎっ」


 シギとチェルノボクは大喜びだ。

 フェムとティミとクルスが後ろにはねあげた土を頭から浴びてご機嫌だ。


「クルスやりおるな」

「ティミちゃんも!」

「わふ」


 やはり穴掘りはフェムが一番うまいと思う。

 ティミもクルスも泥だらけだ。


 しばらく穴掘りの様子を見ていると、

「がう」

「わらわのことを呼んだのじゃな?」

 どや顔で、ヴァリミエが現れた。

 ヴァリミエの相棒、獅子の魔獣ライもついてきていた。


「ライ、久しぶりだな」

「がう!」


 俺はライの頭を撫でてやった。

 モーフィとヴィヴィも帰ってきている。


「姉上に聞いてみたら、構わぬそうじゃ!」

「別に構わぬのじゃぞ。材木は売るほどあるのじゃ!」

「ありがたいけど……。ヴァリミエ側にあまり利がないのでは?」

「気にするでないのじゃ。わらわが困ったときは助けてもらうから気にするな」


 ヴァリミエはそう言って笑う。


「クルスたちが聞いたらきっと喜ぶぞ。材木運びは手伝うぞ」

「大丈夫じゃ。もうゴーレムに運ばせておる」


 教団の建物の中から、材木を担いだゴーレムがどんどん出てきた。

 転移魔法陣を通って、材木を運んできているのだ。


「大量だな」

「ふふふ」

「そうであろうそうであろう」

「もっも!」


 ヴァリミエと、ヴィヴィが姉妹そろってどや顔していた。

 その横ではなぜかモーフィまでもがどや顔をしていた。

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