次の日、皆で死神教団へと向かうことになった。
朝食後、ヴィヴィがつなぎの作業着を鞄から取り出す。
「これが、ユリーナの分じゃ。麦わら帽子もあるのじゃぞ」
「ありがとう。着替えてくるのだわ」
「うむうむ」
ユリーナは小走りで自室に戻っていった。
ヴィヴィがつなぎを用意して欲しいと頼まれたのは、昨日の夕食後である。
買いに行く時間などなかったはずだ。
「ヴィヴィ、あのつなぎは王都で買ってきたのか? 夕食後から王都に行けたとも思えないが」
「もちろん買いに行く暇などないのじゃ。だから作ったのじゃぞ」
「それはすごいな」
「元々布はたくさん用意してあったのじゃ」
ヴィヴィがどや顔をする。
どうやら、ヴィヴィ自ら裁縫してくれたらしい。
「ヴィヴィは、裁縫が得意なのじゃぞ!」
そういって、ヴァリミエがヴィヴィの頭を撫でる。
「て、照れるのじゃ」
照れているヴィヴィの袖をシギショアラがそっとつかんだ。
「……りゃ?」
シギもつなぎを作ってほしいと希望していた。
本当に作ってくれたのか、不安なのかもしれない。
「シギショアラ。安心するのじゃぞ。ちゃんと作ってあるのじゃ」
「りゃっりゃーー!!」
シギは嬉しそうに鳴く。
「シギって、完全に人間の言葉分かってるな」
「当たり前なのだぞ? 天才なのだからな?」
ティミショアラがなぜかどや顔をしていた。
「シギショアラ、机の上に立つがよいのじゃ」
「りゃ」
ヴィヴィに促されて、シギは机の上にちょこんと立つ。
ヴィヴィが、手際よくシギにつなぎの服を着せてあげる。
「うむ。ピッタリなのじゃ」
「りゃっりゃー」
背中には穴が開いていて、羽と尻尾が出るようになっているようだ。
シギは、ヴィヴィに向かって頭を下げた。
きっとお礼を伝えているのだろう。
「シギショアラ。気にするでないのじゃ」
そういって、ヴィヴィはシギを優しく撫でる。
「ヴィヴィ、ありがとうな」
「気にしなくていいのじゃぞ。小さい服も作るのは楽しかったのじゃ」
「そうはいっても、昨日眠れたのか?」
「ちゃんと寝ておるのじゃ。わらわぐらいの腕前になると、それほど時間かからないのじゃぞ」
「そうなのか。ありがとうな」
「えへへ」
そんなことをしていると、ユリーナが部屋から戻ってきた。
「ピッタリね。ヴィヴィ、ありがとう」
「うむ。寸法があっていてよかったのじゃ!」
それから、俺たちは死神教団の村へと向かう。
つなぎの作業着を身につけたユリーナは、俺の後ろに隠れている。
「そんな隠れなくても」
「昨日、クルスたちは泥だらけだったからばれなかったのだわ」
「そうかもしれないけど」
「私は泥がついてないから、ばれる可能性は高いのだわ」
そんなことを言っている。
転移魔法陣を通過して、部屋から出ると司祭に出迎えられた。
司祭は挨拶もそこそこに、小声で報告を始める。
「朝早くに臨時補佐は解放しました」
「どうしてなの?」
ユリーナが不満そうに言う。
「一応、官僚たちの上司なのは間違いないですから」
「叱られているところは、部下には見せないほうがいいということですね?」
クルスがうなずく。
「はい、その通りです」
司祭の判断は正しいと思う。
プライドを下手に傷つけると、恨みを買うことになる。
恨みは別に買ってもいい。だが今後の業務的には臨時補佐に働いてもらった方がいい。
建物から出ると、臨時補佐は不機嫌そうな顔で椅子に座っているのが見えた。
ちゃんとズボンも着替えている。司祭が用意してあげたのだろう。
優しい司祭である。
司祭の優しさに触れたためか、臨時補佐は大人しく座っている。
さすが宗教家。改心させるのが得意のようだ。
俺が感心していると、クルスがみんなに指示を出しはじめた。
「それでは、昨日の計画通り、アルさんとティミちゃん、フェムちゃんは橋づくりをお願いします」
「了解」「任せるがよい」「わふ!」「りゃ!」
「ヴィヴィちゃんとモーフィちゃんは畑づくりで、他の人は建物づくりに入りましょう!」
「任せるのじゃ!」「もっも!」
「がんばるよー」「がんばります!」
ゴーレム担当のミレットと、コレットも張り切っている。
俺たちは技術者たちと一緒に川へと向かう。
技術者に合わせて徒歩で向かう。俺は一応フェムに乗せてもらった。
ひざが痛いからだ。
フェムは大きな姿になっている。
この前遭遇したときは小さい姿だったので、技術者たちは驚いた。
「大きいですね」
「魔狼なんですよー。ギルドに飼育許可はとってますから安心してください」
「すごいですね」
シギショアラはティミの懐の中に入っている。眠いのか今日は大人しい。
現地に到着すると、技術者たちはどの材料で橋を作るかの相談に入る。
「この川幅だと、木製でも充分しっかりしたものが作れますね」
「それでも石製の方が耐久度はあがるのでは?」
そのようなことをまじめに話し合っている。
川幅を測ったり、水深を測ったり、色々忙しそうにしていた。
俺は素人なので、大人しくしておく。
測量が終わると、二本目の川に向かう。
こちらの川の方が川幅も広く、水深も深いのだ。
俺は技術者たちに言う。
「向こう岸に渡りたいなら言ってください。運びますよ」
「ありがとうございます」
しばらく技術者同士相談した後、二人が向こう岸に渡ることになった。
技術者の中でも体の大きい二人が渡るようだ。
来たときに背の低い痩せた技術者が流されたゆえの選定だろう。
向こうに渡る予定の技術者が笑いながら言う。
「流されたらお願いしますね。フェムさん」
「わふ」
「魔法で渡しましょう」
「魔法?」
「まあまあ、お任せください」
俺は重力魔法で、二人の技術者を宙に浮かせた。
「うわわああああ」
「大丈夫です。落としませんから」
俺は技術者を、慎重にそおっと運ぶ。
あまり高くは浮かせない。高いと、どうしても恐怖心が強くなるからだ。
速くても怖いと思うので、あえてゆっくりと運ぶ。
「りゃ」
俺が魔法を使い始めると、ティミの懐からシギがパタパタと飛び出す。
作業着を身につけたシギの飛ぶ姿はとても可愛らしかった。