技術者二人を向こう岸に無事運び終わる。
向こう岸に向かって大きな声で呼びかけた。
「帰りたくなったら言ってくださいねー」
「……あ、はい、ありがとうございます」
向こう岸の技術者は少しぼーっとしているように見える。
重力魔法は刺激が強すぎたかもしれない。
こちら岸に残った技術者が言う。
「もしかして……アルさんって、アルフレッド・リント子爵閣下ですか?」
「どうしてそう思われました?」
聞いてみると、技術者同士互いにうなずいてから語り始める。
「重力魔法を難なく使える魔導士で、伯爵閣下の近くにおられるとなれば……」
「それしか考えられないです」
ばれてしまった。仕方がないと思う。
だが、橋の建築では重力魔法を使う予定だ。時間の問題だった。
「実はそうなんですが、一応隠しているので……」
「そうだったのですね。了解いたしました」
「はい、口外いたしません」
そして前回流された技術者がフェムをみる。
「立派な狼どのだと思ったのですが、子爵閣下の騎獣であるならば、納得です」
「わふ」
フェムは誇らしげに胸を張って、すくっと立っている。
「子爵閣下の騎獣に助けてもらうなど、子供に自慢できます」
そういって、技術者は笑った。
その後、技術者たちは必要な測量などをこなしていく。
技術者たちはやはり腕がいいようで、動きがてきぱきしていた。
向こう岸に渡した技術者たちの仕事が終わったようなので、重力魔法でこちらに戻す。
「川の上流も見てみたいですね」
「そうだな」
そんなことを技術者が相談していると、ティミショアラが言う。
「上流に連れて行ってやろうか?」
「よろしいのですか?」
「うむ。だが、恐ろしいかもしれぬぞ?」
「恐ろしいといいますと?」
「まあ、気にするな。危害を加えるつもりはないから安心しろ」
ティミが何を言っているのか、技術者はわかっていなさそうだ。
ティミはにこりと笑うと、一気に元の姿に戻る。
「ひぁ……」
「あああ……」
技術者たちは尻餅をつく。腰が抜けたようだ。
俺は安心させるように、技術者たちに言う。
「大丈夫ですよ。姿は変わっても、古代竜のティミショアラですから」
「は、はい。閣下がそうおっしゃるなら……」
どうやら、俺は信用されているようだ。
「我が背に乗るがよいぞ」
「あ、ありがとうございます」
俺は技術者たちを重力魔法でティミの背に乗せてやる。
「りゃっりゃー」
シギはティミの頭の上に乗り、ご機嫌だ。
俺とフェムも背に乗ると、ティミは上空へと飛び上がる。
技術者たちに配慮しているのか、あまり速くない。
技術者たちの上流の調査を終えてから、村へと帰る。
ティミの姿は死神教徒たちを怯えさせるので、離れた場所に降りて徒歩で帰るのだ。
村に帰った技術者は司祭とクルスと相談を始める。
橋の素材や大きさなどを話し合って決めるらしい。
俺はよくわからないので、魔法でできることだけ教えておくことにした。
「大きな鉄とか石の部品も魔法で簡単に運べるので、言ってくださいね」
「我が運んでやっても良いぞ?」
ティミも笑顔で言う。
ティミの大きさと力強さを、技術者たちは先程思い知った。
これほど頼りになる言葉はない。
「それは助かります」
「運搬についてはあまり考えずに、耐久性と利便性重視で作れますね!」
技術者たちは嬉しそうだった。
相談していると、ユリーナがやってきた。ユリーナは建物建築班だ。
俺の後ろにぴったりついている。
「どしたんだ?」
「いや、特に……。なんでもないのだけど」
「臨時補佐とは何か話したのか?」
「まだ気づかれてないのだわ」
「そうか。手伝うことあるか?」
「材木の運搬を魔法で手伝ってくれたら助かるわね」
俺はクルスに断って、建物建築班へと向かった。
フェムとシギとティミもついてくる。ちなみにシギは今は俺の懐の中にいる。
建物建築班のリーダー的な大工さんに指示をもらって、材木を運ぶ。
「材木の切断とかもできますよ。一瞬でスパスパ切れますから言ってくださいね」
「そうかい。じゃあ、この線に沿って切ってくれないか」
「了解です。釘とかも魔法使えば素早く打ち込めるので言ってください」
「それはすごいな。魔導士は大工が天職なんじゃないか?」
「実は私もそう思うんですよ」
そんなことを言いながら、作業を進める。
ティミも人の姿のまま、手伝ってくれる。
ティミは人の姿でも怪力なので材木をガンガン運んでくれるし、切断も容易だ。
釘も素手でたやすく打ち込めるのだ。
「お嬢ちゃん、すごいな」
「ふふん。そうであろ、そうであろ」
「りゃっりゃ」
ティミは褒められて嬉しそうにしている。
シギも嬉しそうに鳴いていた。
しばらくのあいだ、作業をしているとミレットから声がかかる。
「そろそろ休憩にしませんか」
「お、いいな!」
リーダーの大工さんも同意する。
ミレットはヴィヴィたち農業班にも声をかけて連れてくる。
みんなで休憩するのだ。
ミレットと数人の信者さんが、お茶とお菓子を持ってきてくれた。
もう秋とは言え、動いていると汗をかく。お茶がとてもうまい。
「わーい」
「りゃっりゃ」
「ありがとう。うまいな!」
コレットやシギも大喜びだ。すごく働いていたティミもうまそうにお茶を飲む。
「モーフィもたくさん飲むのだぞ」
「もっも」
モーフィもお茶をがぶがぶ飲んでいる。農耕牛としてたくさん働いたのだろう。
「ヴィヴィ、畑の方はどうだ?」
「順調じゃぞ」
そしてヴィヴィは建築途中の建物を見る。
「うむ。建物も順調そうじゃな。完成したら魔法陣を描いてやるのじゃ」
「魔法陣ってなんだい?」
大工のリーダーに尋ねられ、ヴィヴィがどや顔で説明する。
「そいつは、すげえや。魔法ってのはすごいもんだなぁ」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
みんなで楽しくお茶を飲んだり、お菓子を食べたりしていると、
「何をさぼっておるか!」
臨時補佐に怒鳴られた。