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213 道を作ろう

 臨時補佐もお付きの中年も、大人しく労働し、村の建設は順調に進んだ。

 休憩時間もほとんど与えられず、石を運ばされ穴を掘らされている。

 威張る暇も、平民を見下す暇もないようだ。


 俺も橋の建築に従事した。

 石材を運び、組み立ても手伝った。


 ヴィヴィとモーフィも開墾作業を順調に進めている。

 ティミショアラも道づくりに精を出していた。

 ミレットとコレットの姉妹はゴーレムの使い方がどんどんうまくなっているようだ。


 一か月ほどが過ぎたころ、二つの橋が完成した。

 完成を知って、クルスや司祭やチェルノボクを含めて、みんなが集まってくる。

 農業班のヴィヴィや、建物班のミレットたちもいる。


「立派な橋でございますね!」

「ぴぎっ!」

「いい橋だと思う!」


 司祭とチェルノボク、クルスたちに褒められて技術者たちも嬉しそうだ。

 技術者たちが言う。


「これほど早く完成できるとは思いませんでした」

「アルさんの魔法のおかげです」

「いえいえ、皆さんの技術があってこそですから」

「フェムさんもありがとうございます」

「わふっ!」


 橋を建築している間、ずっとフェムは俺を乗せて、走り回っていた。


「フェム、ありがとうな」

「わふわふ!」


 フェムは尻尾を勢いよく振った。


 橋は石材で作られた立派なものだ。

 ヴィヴィの魔法陣が刻んであるので、余程増水しても大丈夫だろう。


 橋を見ながら、俺は言う。


「あとは道ですね」

「そうなりますね。道がきちんとつながらないと、橋も使ってもらえませんからね」


 ティミショアラがシギショアラを連れて、どんどん道を敷設していってくれている。

 木を引っこ抜いて、地面をならすという、大変な作業だ。


「俺もティミを助けて道づくりに参加するべきかな」

「そうですね、アルさん。お願いします。住居は今の作業員の方たちの分はもう完成しましたし」


 クルスがいうには移住予定の村人全員分の建物にはまだ足りないらしい。

 だが、それは春までに作ればいいのだ。時間的には余裕はある。


 ミレットとコレットが言う。

「じゃあ、私たちも道づくりを手伝いますよ」

「おっしゃん、ゴーレムで手伝うよ!」

「それは助かる」


 モーフィを連れたヴィヴィも言う。

「わらわも手伝うのじゃ」

「もっもー」


 モーフィもやる気だ。


「ヴィヴィ、畑は大丈夫なのか?」

「うむ。魔法陣の設置も終わったしのう。あとは春に少し作業すれば種を蒔けるのじゃ」

「それはすごい」


 その日から、俺たちは総出で、道づくりを始めた。

 領主の館のある場所まで道を敷かねばならない。

 結構な道のりだ。


 だが、モーフィとティミが雑草を抜くかのように木を引っこ抜いていく。

 溜まった木は、一日の終わりにまとめて運ぶのだ。

 ティミとモーフィの怪力と俺の重力魔法があれば、大体運べる。

 運搬しきれなかった分は魔法の鞄に放り込んでミレットたちに運んでもらうのだ。


 そして最も役に立ったのはヴィヴィが作った転移魔法陣である。

 転移魔法陣を村と大盾に描き、大盾を道づくりの最先端に移動させておく。

 魔法陣には悪用や盗まれる危険を防ぐために俺が隠ぺいの魔法をかけてある。


 転移魔法陣のおかげで、作業が終わった後、木をまとめて一気に運べる。

 行き帰りも、ものすごく楽になる。


 道づくりにおけるヴィヴィの貢献はとても大きいと言えるだろう。


 ミレットたちが操るゴーレムも大活躍だ。

 穴をふさいだりなどの道の整備はゴーレムがどんどんしてくれている。


「ミレットもコレットも、ゴーレム使うのうまくなったな」

「そうですか? 嬉しいです」

「えへへー」


 熟練の業と言っていいかもしれない。

 魔力操作技術がどんどん向上しているようだ。頼もしい。


 一方シギも成長していた。

 シギは木の根元に両手を置いている。


「りゃあ」

「そうだぞ、その感じだ!」

「りゃっりゃ!」


 なんと、シギは魔法で地面を柔らかくしていた。

 ティミが使っていた、振動魔法を真似したらしい。

 けして簡単な魔法ではない。


 シギが地面を柔らかくした後、巨大なティミが木を引っこ抜く。


「すごいな……」

「そうであろう。シギは天才だからな」

「りゃっりゃ!」


 ティミとシギは誇らしげだ。本当に天才だと思う。


 シギが振動魔法を使い、ティミが重力魔法を使っているのだ。

 おそらくティミならば、一人で全部やった方が早いだろう。

 だが、シギの教育のためにやらせているのだ。


 シギは体の大きさはほとんど変わっていないのに魔力的成長が著しいようだ。



 橋が完成してからさらに一か月後。

 季節が完全に冬になったころ。ついに道は領主の館まで開通した。


「ぴぎっ! ぴぎーッ」

「やりましたね!」


 開通したとき、領主の館で、クルスたちが待機していた。

 転移魔法陣を使って先回りしていたのだ。

 司祭に深々と頭を下げられる。


「みなさま、本当になんとお礼を言っていいか」

「いえいえ、お気になさらず」

「たのしかったよー」


 最近では一度に5体のゴーレムを操っていたコレットが元気に返事した。

 その後、教団の村に帰って宴会だ。


 建物建築も順調だし、畑も完成した。あとは信者だけで何とでもなるようだった。


「領内に一つ村が増えて嬉しいですねー」

 クルスも嬉しそうだった。


 俺が宴会を楽しんでいると、ユリーナがやってきた。


「まま、どうぞどうぞ」

「ああ、ありがとう?」


 普段はお酌などしないユリーナにお酒を注がれた。


「どうした?」

「あの……ありがとう。恋人役やってくれて」

「あー、別に大したことしてないしな」


 もっと、色々なことをすることを覚悟していた。

 むしろ拍子抜けである。


「厚かましいお願いなのだけど」

「なんだ? 何でも言っていいぞ」

「うちの父が……アルさんに会いたいって」

「なんでまた」

「えっと……」


 どうやら、代官代行がユリーナの父にお詫びしたらしい。

 その時に、アルフレッドが恋人だとユリーナの父は知ったのだという。


「お願いなのだわ! うちの父に会ってちょうだい」


 ユリーナにまたとても面倒なことを頼まれてしまった。

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