クルスを手伝って素早くテントを組み立てる。
組み立てが簡単かつ頑丈な良いテントだ。
早速、完成したテントの中にみんなで入った。
当然、フェムは小さくなっている。
「こんな立派なテント、よく持ってたな」
「万が一に備えたんですよー」
「そうか。すごいな」
普通の冒険者はもっと小さなテントしか持っていない。
モーフィやフェムまで入れるほど広いテントは普通必要ないからだ。
「急に天気が崩れましたねー」
「さっきまで晴れてたのにな」
「アルさんの魔法さまさまですね! 防寒の魔法がなかったら遭難していたかも!」
おそらく魔法がなくても大丈夫だっただろうと思う。
魔法の鞄には色々入っているし、心強いフェムやモーフィもいるのだ。
だが、小さなコレットもいる。吹雪の中で日没を迎えたら少し困ったかもしれない。
「日が沈みますし……今日はこのままテントで一泊ですかねー」
「そうしたほうが安全かもな」
俺はテントに魔法陣を描いていく。
ヴィヴィが衛兵小屋や狼小屋に描いてくれた断熱効果のある魔法陣だ。
ヴィヴィの魔法陣をよく観察しておいてよかった。
魔法陣を描き終わると、コレットが寄ってきた。抱きよせておく。
「コレット。寒くないか?」
「うん、おっしゃん大丈夫だよー」
「アルさんが、魔法陣描いてくれた途端にあったかくなりましたねー」
「ヴィヴィの魔法陣を真似しただけなんだがな」
「ヴィヴィさんって、すごいんですね」
ステフが感心している。
「りゃあ」
シギショアラは俺の懐の中に入っている。
シギは鱗があるので変温動物みたいな雰囲気だが、恒温動物だ。だから暖かい。
「シギも寒かったらちゃんと言えよ」
「りゃっりゃー」
なんとなく、シギの鳴き方から判断するに、寒くはないようだ。安心である。
「もっも」
モーフィも寄ってきた。俺の腕の中のコレットに寄り添うように俺の正面に横たわる。
コレットが寒くないように自分の体温で温めているのだろう。
俺の右側にはフェムが横たわっている。
そしてフェムの周りにはステフとクルスが寄り添っている。
「みんな、寒かったら言うんだぞ」
「了解です!」
そういいながら、クルスは魔法の鞄をごそごそする。
「お腹が減るとよくないですからねー」
クルスは鞄からお菓子を取り出してみんなに配ってくれた。
みんなでお礼をいって食べる。こういうときの甘いものはとても美味しい。
「ねえねえ、ステフちゃん」
「なんでしょうか? クルスさん」
「ステフちゃんって、なんの獣人なの?」
「えっと……わからないのです」
「そうなんだ」
「私は拾われてきた子供なので」
「そっかー」
コレットが、首をかしげる。
「ステフねーちゃんは、どうして強くなりたいの?」
「はい。コレット姉さま。故郷への恩返しをしたいのです」
「おんがえしなんだーえらいね」
「そんなことは……。私の村はとても貧しいのです。でも私を育ててくれたのです」
「そうなのかー」
「だから、私は偉くなって、村に仕送りしたいのですよ」
「ステフねーちゃんは、偉いねえ」
「いえ、そんな……。でも、私は立派な魔導士になって、活躍できるようにならないといけないのです」
俺は少し疑問に思ったので、ステフに尋ねる。
「俺の兄弟子であるステフの父上は、なにをしていたんだ?」
「昔は冒険者をやっていたと聞いているのです。でも、私を拾ってからは村で魔法で手伝いしながら暮らしていたのです」
「なるほど。今の俺と同じような感じか」
それからステフは寂しそうに言う。
「父は死ぬ前に魔法学院への推薦状を書いてくれました」
「兄弟子どのは魔法学院にもつてがあったのか?」
魔法学院への推薦状は誰にでも書けるものではない。それなりの資格が必要だ。
「一時期、講師をしていたと聞いているのです」
「……優秀だな」
なんだかんだ言って、俺の師匠も優秀な魔導士だった。
その実の息子にして、直弟子なのだ。兄弟子も恐らく優秀だったのだろう。
クルスが不思議そうに言う。
「そういうことなら、魔法学院に入学しても良かったんじゃないかな?」
魔導士が地位と名誉、そして金が欲しいなら冒険者になるか魔法学院に入るかだ。
だが、冒険者として身を立てるには、常に命の危険が付きまとう。
その点、魔法学院なら安心だ。少なくとも命の危険は少ない。
その上、卒業すれば貴族付きの魔導士見習いへの道が開ける。
特に成績優秀ならば、王宮の宮廷魔導士の見習いになれる可能性だってある。
「ですが、父の推薦状は鼻で笑われてしまいました」
「なぜ?」
「……私が獣人だからです。試験は何とかお願いして受けさせてもらえたのですが……」
「失敗しちゃった?」
「いえ、成績は上位だったのですが……落とされてしまいました」
「それは理不尽だな」
獣人には魔力の少ないものが多い。とはいえ、個体差の方が大きいのだ。
試験の結果で落とすならまだしも、種族で落とすのはおかしい。
「仕方なく、私は冒険者になったのです。でも獣人だということで侮られることが多くて」
「それで最初あったとき、天才って名乗っていたのか」
「……はい。そうとでも言わないと相手にしてくれないのです」
「苦労したんだなぁ」
「いえ! そんなことはないです」
そんな会話を続けていると、ひときわ強い風が吹いた。
そして、テントの外から大きな声がした。
「見つけたのだぞ!」
声だけでわかる。ティミショアラが来てくれたのだ。