ステフは息をひそめると、静かにロック鳥へと近づいていく。
初めて会った時、俺とフェムに気づかれずに近づいたほどだ。
ステフは気配を消すのは得意なのだろう。
俺はステフが失敗したときに、いつでも倒せるよう身構えた。
ステフは充分近づいた後、ロック鳥に向かって魔法の矢を放つ。
連続で三本。一本はまともにあたった。
「KUKEEEEEEE!」
ロック鳥は大きな声で鳴くと同時に回避を始める。
二本目は羽にかすり、三本目は完全に外れた。
ロック鳥は少しだけ飛びあがるが、すぐに地面に落ちた。
そこにステフはすかさず駆け寄る。
「とどめでありますよ」
魔法の矢が、ロック鳥の頭に突き刺さった。
すぐに動かなくなる。
俺たちもロック鳥のところに駆け寄った。
「見事だ。ステフ」
「いえ、まだまだであります。一撃で倒せなかったでありますから……無駄に苦しめたであります」
ステフは反省しているようだ。
俺は魔法でロック鳥を吊るす。そしてクルスが解体を開始する。
解体しながら、クルスはステフに尋ねた。
「ねえ、ステフちゃん。どうして、ロック鳥は飛べなかったの?」
「羽の付け根を魔法の矢で打ち抜いたからであります」
「そうだったんだ。そこを狙ったのは逃げられないようにするため?」
「はい。本当は二発目三発目の矢がとどめになる予定だったのでありますが……」
「そっかー」
クルスは会話をしながらも手を止めない。解体の技術は鮮やかなものだ。
その様子をシギショアラやチェルノボク、コレットなどは真剣な目で見ている。
解体が終わると、フェムとモーフィは周囲の臭いを嗅ぎ始める。
「わふ」「りゃっりゃ」
「もっも」「ぴぎっ」
シギはフェムの頭の上に乗り、チェルノボクはモーフィの頭の上に乗っている。
きっと、痕跡を探すコツなどを教えているのだろう。
『あっちなのだ』
「もっも!」
「今度の獲物は?」
『魔猪なのだ』
魔猪は魔獣の中でも美味しいので、村人にも人気がある。
俺たちはフェムとモーフィの背に乗り移動する。クルスは走りだ。
『今度は狼の狩りを見せるのだ』
「りゃあ」
フェムは張り切っている。シギに見せたいのだろう。
それからかなり移動して、魔猪を発見した。
『シギ、フェムの背に乗っていればいいのだ』
「りゃ」
フェムはシギだけを背に乗せて、音もなく忍び寄る。
充分に距離を詰め、一気に飛びかかった。
魔猪は逃げるが、もう遅い。あっという間に倒された。
「フェムすごいな」
「わふわふ!」
本来の魔狼のやり方であれば、このまま食べるか運ぶのだろう。
だが、今は人間がいるので解体する。
俺が魔法で吊るし、今回はステフが解体していく。
ステフの解体の腕は中々だった。もともと狩りをしていたというだけのことはある。
「これで、魔猪二頭とロック鳥一羽ですねー。アルさん、どうしましょう?」
「ムルグ村の分としては大丈夫だが、死神の村の分もと考えると少し足りないかなー?」
「ですねー」
「ぴぎっぴぎ!」
チェルノボクはふるふるしていた。
『てつだう』
「別に無理しなくていいんだぞ」
『てつだうの』
チェルノボクのふるふるしている度合いが増している。
チェルノボクは全く活躍していないことに危機感を覚えていそうだ。
だが、チェルノボクには狩りで役に立つスキルもないので、仕方ないと言える。
『でも、もう近くにはいないかもしれないのだぞ?』
「もっもー」
周囲の臭いを嗅いでいた、フェムがそんなことを言う。
モーフィも同意見のようだ。
「ぴぎっ」
なんとなくチェルノボクは悔しがっているような気がする。
「チェル。別に気にするな。アンデッドが出たら手伝ってもらうし」
「ぴぎ……」
「そろそろ帰らないと日が暮れてしまうからな」
『わかった』
チェルノボクは頑張り屋で健気だと思う。
可愛いので撫でてやった。シギも俺と一緒にチェルノボクを撫でていた。
その後、俺たちは村に向かって移動を開始する。
「りゃ!」
「あ、雪だ」
帰り始めてすぐに、雪が降りはじめた。
シギが嬉しそうに羽をバタバタさせた。
「シギ、雪を見るのは初めてか?」
『極地で見たのではないか?』
「りゃっりゃ」
「それもそうか」
俺はコレットが心配になった。
「コレット、寒くないか?」
「だいじょうぶだよ。えへへ」
大丈夫だと言っているが、寒そうではある。
俺は魔法で防寒対策を行った。体の周囲に空気の膜を作るのだ。
空気の断熱効果は高いので、それだけでかなり効果がある。
それを全員にかけた。
「あ、おっしゃん、あったかくなったよ!」
「これが断熱魔法っていうやつだぞ」
「おっしゃん、すごい!」
「師匠、さすがなのです!」
弟子二人が感心してくれる。
そうこうしているうちに、一気に天候が悪化していく。
猛吹雪になった。
俺は改めて、空気の膜魔法を強化する。
これで雪で目を開けられないというような事態は防げるだろう。
「だが、前が見えないな」
『匂いも、うまく判別できないのだ』
「もっもー」
「吹雪がましになるまで、少し休むか」
「それがいいと思います!」
そう言うや否や、クルスは魔法の鞄から素早くテントを出した。
それは、とても大きなテントだった。