フェムは背中にシギショアラとチェルノボクを乗せて歩いていく。
少し村から離れたところで、巨大化した。
「りゃっりゃー」
「ぴぎっぴぎ」
シギとチェルは大喜びだ。
「うわ!」
初めて巨大化したフェムをみたステフは驚いて腰を抜かした。
「フェムは魔狼王にして魔天狼だからな。こっちが本来の姿だ」
「すごいのです」
「わふ」
フェムはぶんぶんと尻尾を振っている。
「ステフとコレットはモーフィに乗せてもらうといい」
「もっもー」
モーフィはステフに鼻を押し付けていた。
それから、ステフたちはモーフィに乗り、俺はフェムに乗って走り始める。
ちなみにクルスは自分の足で走っている。
走りながら、俺はフェムとクルスに声をかける。
「シギも狩りに連れて行ってくれる予定だったんだろ? ありがとうな」
「りゃあ!」
シギもお礼を言うかのように鳴いた。
『気にしなくてよいのだ』
シギは狩りとか好きそうだ。
面倒見のいいフェムのことだ。シギに狩りを教えてくれる予定だったのだろう。
「シギちゃんも狩りしたいもんねー」
「りゃっりゃー」
クルスは教えるというより、一緒に遊ぶという感覚の方が強そうだ。
狩りは遊びではないが、やらなければならないことなら楽しんだ方がいい。
「チェルも狩りとか好きなのか?」
『むらにおにくあげるの』
「なるほど。冬だもんな」
死神教団も今は冬だ。村建設もゆっくりとしか進まない。
死神教団はまだ牧畜を取り入れてないので、肉が不足しているのだろう。
しばらく走って、フェムが止まる。
獲物の痕跡を発見したようだ。周囲の臭いをしきりに嗅いでいる。
「わふ」
「りゃ」
フェムはシギにも声をかけ、臭いを嗅がせる。
色々教えているのだろう。
『あっちなのだ』
そして、フェムはまた走り出した。
「獲物はなに?」
『
「魔猪か。久しぶりだな」
『冬になって毎日の咆哮も控えているのだ。だから戻ってきているのだぞ』
冬は農作業がお休みだ。だから魔獣や獣を追い払う必要が夏に比べて少なくなる。
だから咆哮を使わず、獣たちが近くに来るようにしているらしい。
そのほうが魔狼の食糧事情的には助かるのだ。
『夏から秋にかけて、追い払い続けているのだ。だからまだ猪の餌が残っているのだぞ』
冬は猪たちも餌が不足しがちだ。
だから、狼の脅威にもかかわらず、村の比較的近くまで寄ってくるのだという。
「猪たちも大変なんだなー」
『そうだ。大変なのだぞ』
フェムと話していて、俺は少し心配になった。
「昨日ティミが鳴いてたけど大丈夫か?」
『あまり大丈夫じゃないのだ』
「そうか。大変だな」
古代竜の咆哮は周囲の魔獣や獣たちに大きな影響を与える。
『だから、ティミが鳴いたのとは逆方向にいくのだ』
本気の咆哮ではなかったので、逆に走ればなんとかなるのかもしれない。
それを聞いていた、クルスがいう。
「暴れ竜とか暴れユニコーンとかが出たらいいんですけどねー」
「それはそれで、面倒だぞ」
しばらく進むと、またフェムが止まる。
『すぐ近くにいるのだ』
そう言って伏せる。モーフィも伏せた。
俺たちも獣たちから降りて伏せる。
『あっちの方にいるのだぞ』
フェムが鼻で示す方向を見てみると、魔猪がいた。
立派な魔猪だ。普通の牛ぐらいある。
かなり距離は離れているが、フェムの狩りの常識ではすぐ近くなのだろう。
「魔法で倒してもいいか? それともフェムが狩る?」
『魔法でよいのだ』
フェムから許可が出たので、俺は魔法の矢を放つ。
まっすぐ飛んで眉間に刺さる。すぐに倒れた。
「さすがアルさんですねー」
『見事なのだ』
クルスとフェムに褒められた。
その後、魔猪のもとに急いで向かい、必要な処理をする。
俺が魔法で吊るすと、クルスがテキパキ血抜きなどの作業をしてくれる。
「シギちゃん、ここから血を抜くといいんだよー」
「りゃあ!」
「毛皮も大切だから、慎重に解体するんだよー」
「りゃっりゃ!」「ぴぎぃ」
シギもチェルも興味深そうにクルスの解体を見ていた。
一通り解体を終えると、魔法の鞄にしまい込む。
「もっも」
「モーフィどうした?」
『むこうにいる』
そう言って、俺の袖を咥えてぐいぐい引っ張る。
「向こうにいるって、狩りの獲物が?」
『そう』
「フェムは?」
『確かに変わった臭いはするのだ。でも、何の臭いかわからないのだ。少なくとも猪ではないのだぞ』
「フェムでもわからないのか」
コレットが、モーフィに尋ねる。
「モーフィちゃんは何がいるのかわかるの?」
『わかんない』
「そっかー」
クルスはそんなモーフィの頭を撫でる。
「とりあえず行ってみようか。アルさんいいですか?」
「構わないぞ」
しばらくモーフィを先頭に進んでいく。
走りながら、俺はモーフィの背にのったステフに声をかける。
「ステフ、どうだ? 寒くないか?」
「大丈夫なのです」
ステフの尻尾がぶんぶんと揺れた。
「私も地元では狩りをやっていたのです。次は任せて欲しいのです」
「別にいいぞ」
「ありがとうなのです」
「ステフねーちゃん、がんばー」
コレットもステフを励ましていた。
しばらく走ると、とても大きな鳥が見えた。馬三頭分ぐらいある。
クルスが小声で尋ねてくる。
「アルさん、あれは何ですか?」
「ロック鳥だな」
「へー。あれがーそうなんですね」
クルスも名前は知っているらしい。
「ステフいけるか?」
「いけるのです!」
「じゃあ、頼む」
「お任せください!」
ステフは力強く返事した。