次の日。俺が起きると、ミレットやステフは先に起きていた。
「みんな、おはよう」
「アルさん、おはようございます。ステフさんが朝食づくり手伝ってくれたんですよ」
「そうなのか。ステフお疲れさま」
ステフは少し照れながら言う。
「ミレットさんとコレットさんは姉弟子なのです。仕事を手伝うのは当たり前なのです」
「そんな、気にしなくていいのに」
「そだよ! でも、コレットおねーちゃんってよんでもいいよ!」
「はい、コレットお姉ちゃん」
「えへへ」
コレットは嬉しそうに微笑んだ。
「師匠の仕事も手伝うのですよ!」
「いやー。俺の仕事は基本暇だからな……」
「そうなのでありますか?」
ステフは少し意外に感じたようだ。
実際に俺が衛兵しているところを見ればすぐ理解するだろう。
朝食後、俺はいつものように衛兵業務につく。
ステフは俺の横に立っている。俺の仕事を手伝おうとしているのかもしれない。
「座ってるだけだから何もすることないぞ?」
「そうなのですか?」
「だから好きにしたらいい。いつも魔法を教えるのは午後だな」
「午後なのですね、了解なのです」
「とはいえ、俺に用事ある場合は休講になるのだが」
「はい。師匠が用事を優先するのは当然なのです」
そこに、モーフィにのったヴィヴィとコレットが戻ってくる。
牛の世話を終えたのだろう。
「おっしゃーん。牛は今日も元気だったよー」
「コレットもヴィヴィもお疲れさま」
コレットの頭を撫でてやると、嬉しそうにきゃっきゃという。
「今日は、ステフもおるのじゃな?」
「なにか手伝えることがないかと思ったのです」
「真面目じゃなー」
そう言いながら、ヴィヴィはモーフィから降りると、地面に魔法陣を描いていく。
ヴィヴィは毎日のように魔法陣を描いて研究しているのだ。
「ヴィヴィさん。それは?」
「新しい魔法陣を考えているのじゃ」
「な、なるほど。すごいのです」
普通の魔導士にとって、魔法陣は作るものではない。
既存の魔法陣を覚えるものだ。魔法陣を作れる時点で一流と言えるだろう。
モーフィがしきりに鼻を押し付けてくるので撫でながら、ステフに言う。
「ヴィヴィの魔法陣は俺よりもすごいからな」
「師匠よりも……それはすごいのです」
「ところで、ステフ。いまヴィヴィが描いている魔法陣がどのようなものかわかるか?」
ヴィヴィの魔法陣はまだ製作途中だ。
だが、魔法陣理論に造詣が深いものが、注意深く読めば解析できる。
俺ぐらいになると、予想される問題点まで指摘できる。
当然、俺が予想できる問題点などヴィヴィも理解している。
それをどうにかするために今描いて検討しているのだ。
「えっと……わからないのです」
「ステフは魔法陣は苦手か?」
「魔導士ギルドでは得意な方だったのです。基本的な魔法陣は覚えているのですよ」
「そうか」
魔法陣理論を理解していなくとも、構造を暗記しておけば使える。
ステフはその段階なのだろう。一人前の魔導士といえる。
「ステフねーちゃん、このあたりがねー。魔力ぞうふく? なんだよー」
「そ、そうなのですか?」
「で、このあたりが障壁をつくってるかんじかなー。ほら、不思議なかたちだからすぐわかるようになるよ」
コレットが、ステフに魔法陣の解説をしはじめた。
その解説は的確だ。そこまでコレットが理解しているとは思わなかった。
「コレットすごいな」
「えへへ」
「大したものじゃ。コレット。ところで、この魔法陣の問題点はわかるかや?」
さすがにその問いは高度すぎると思う。
だが、コレットは真剣な顔で考え始めた。
「えっと。えっと……」
そして、しょんぼりする。
「わかんない」
「わからなくてもいいぞ」
「そうじゃ。普通はわからんものじゃぞ」
「さすがコレット姉さまなのです」
「えへへ」
それからヴィヴィはコレットとステフに対して魔法陣について教えてあげていた。
二人とも真面目に聞いている。
この場にいないミレットには俺があとで教えてやろうと思う。
そんなことをしていると、衛兵小屋からクルスとミレットが出てきた。
フェムとシギ、チェルノボクも一緒だ。
そういえば、クルスは今日お休みだと言っていた。
「いまからみんなで狩りに行くんですが、アルさんもどうですか?」
「狩りか。俺は衛兵の仕事があるからな」
「大丈夫ですよ? 村の皆もお肉好きですから」
ミレットがそんなことを言う。
狩ってきて肉を手に入れて配れと言うことだろう。
「なら俺も行こうかな」
「え、衛兵業務は大丈夫なのです?」
「他の用事が入ったら後回しになるのが衛兵業務だ」
「そうなのですね」
ステフはムルグ村の衛兵業務の緩さにびっくりしたようだ。
「みんなはどうする?」
「行くのです!」
「コレットも行きたいー」
「もっもー」
「私はお仕事がありますから」
「わらわも寒いから小屋の中にいるのじゃ」
ついてくるのはコレットとステフとモーフィのようだ。
「それじゃあ、行くとするか」
「お肉。期待しながら待ってますねー」
ミレットの声援をうけながら、俺たちは狩りにいくことにした。