食堂に向かう途中、ヴィヴィに会った。
ヴィヴィは風呂上りらしく、ほかほかしていた。
「おぬしら、寒そうじゃな」
「急に吹雪いてきてな」
「先に温泉に入ったらどうじゃ?」
それを聞いてた、ミレットが言う。
「そのほうがいいかもですね」
「じゃあ、クルス、コレットとステフ、ティミは温泉に入って来てくれ」
「アルさんも一緒に入りましょう!」
そんなことをクルスガ言う。
「俺は食後でいいぞ。モーフィとフェム、チェルとシギも入ってくるといい」
「じゃあ、ぼくも後で……」
そう言いかけたクルスの手を、コレットがつかんだ。
「クルスねーちゃんも行くよー」
「えー」
「もっもー」
クルスはコレットに引っ張られて温泉に向かった。
その後ろをモーフィが鳴きながら、とことこついて行く。
『フェムは後でいいのだ』
『ちぇるもあとでー』
「りゃっりゃー」
シギは俺の頭の上にのる。あとでいいと言っているかのようだ。
「シギショアラもお風呂に入るべきであるぞ」
ティミがシギを抱きかかえると、温泉に向かって行った。
「りゃあ?」
シギはきょとんとしている。特に嫌ではないらしい。
いい機会だ。叔母さんと仲良くしたらいいと思う。
温泉組を見送ってから、俺とフェム、チェルノボクはヴィヴィと一緒に食堂へと入る。
食堂にはヴァリミエとルカとユリーナがいた。
三人とも美味しそうにお茶を飲んでいる。
「アル、おかえりなのだわ」
「ただいま」
「狩りの途中で吹雪に遭遇するとは運がないわね」
そんなことを言いながら、ユリーナはタオルを取り出すと俺の頭を拭いてくれる。
「髪、ぬれてたか?」
「雪が融けたのだわ」
「なるほど、ありがとう」
俺はフェムの背に触れてみた。少しぬれている。
魔法で防寒対策はしたが限界はあるようだ。
俺はフェムの体をタオルで拭いてやった。
「わふ」
フェムは気持ちよさそうに鳴いた。
ルカがチェルノボクを抱えてひざの上に乗せる。
「チェルちゃんはぬれてないわね」
「ぴぎっ」
「体表面についた水分を体内に取り込んでいるみたい」
「スライムって便利なんだな」
俺がそういうと、チェルノボクはふるふるし始めた。
褒められたと思って、照れているのだろう。
そんなチェルノボクを撫でながらルカが言う。
「アルがいるから心配はしていなかったけど……。コレットがいるんだから天気には気を付けないと」
「まったくもって、その通りだ」
反省しなければなるまい。
一方そのころ、ヴァリミエはお茶を飲みながら、ヴィヴィの頭をタオルで拭いていた。
風呂上がりでまだ湿っていたのかもしれない。
そこにミレットが、お茶を持ってきてくれた。
「アルさんも冷えたでしょう。あったかいお茶をどうぞ。ヴィヴィちゃんもどうぞ」
「おお、ありがとう」
「ありがたいのじゃ」
「フェムちゃんとチェルちゃんには暖かいお湯をどうぞ」
「わふ!」「ぴぎっ」
ミレットが気を利かせてお茶を持ってきてくれた。
いくら魔法で防風などの対策をしていたとはいえ、寒かったのは確かだ。体が温まる。
「フェムちゃん、チェルちゃん、お湯美味しい? 一応温泉のお湯なのだけど」
『うまいのだぞ! ありがと』
『うまい』
フェムとチェルが元気に返事をする。
魔獣は魔鉱石の成分の含まれる温泉のお湯を美味しく感じるのだ。
俺はミレットに尋ねる。
「この雪で村の皆は困ってたりしないかな?」
「とりあえずは大丈夫ですよ。みんな雪が降り始めたら、すぐに作業を切り上げて家に帰りましたから」
「燃料の薪とかも大丈夫だといいのだが……なんなら配ってこようか?」
「それも大丈夫です。皆さん余裕をもって燃料は確保していますから。吹雪が何日も続けば困りますけど……」
村で使用する薪は入会地の共同資材置き場に置かれている。
そこから、各自が必要な分を持っていくことになっている。
「ムルグ村周辺の降雪量って、例年はどのくらいなんだ?」
「いつもはあまり雪は降らないですよ」
「吹雪いたりとかは?」
「数年に一度ぐらいだと思います」
それを聞いていたルカが深刻そうな表情になる。
「今日ぐらい降ることなんて、豪雪地帯の真冬でもめったにないわ……。嫌な予感がするわね」
「たまには、そういう年もあるものだわ」
そういって、ユリーナは俺の髪の毛を拭いていた手を止める。
それからユリーナは肩をもんでくれた。
「肩凝ってるのだわ」
「ユリーナ、すまんな。ありがとう」
「気にしないで。それより、チェルちゃんの村が心配なのだわ」
「ぴぎっ?」
ムルグ村と死神教団の村はそれなりに離れている。
だが、国全体で見れば同じ地方であり、天気は大差ないことが多い。
「たしかにな。明日にでも様子を見に行こうか。狩りで手に入れた肉も持って行かないとだし」
『ありがと』
ルカのひざの上で、チェルノボクはふるふると震えた。
俺はヴァリミエにも尋ねる。
「リンドバルの森はどうだ?」
「特に問題ないのじゃ。雪も降っておらぬしのう」
「それはよかった」
「ライもドービィも元気に森を駆け回っておるのじゃ」
リンドバルの森は旧魔王領にある。
ムルグ村からはだいぶ離れているので天気も違うのだろう。
「フェム。魔狼たちは?」
『みんな狼小屋にいるのだ』
狼小屋には、ヴィヴィが寒くないように魔法陣を描いてくれている。
ひとまずは安心だ。
「もし、助けが必要だったらいうんだぞ」
『ありがとう』
フェムは尻尾をぶんぶんと振った。