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231 おさまらない吹雪

 コレットたちが風呂から上がってから、みんなで夜ご飯を食べた。

 そして、俺は風呂に行く。

 なぜかさっき入ったはずのモーフィまでついてきた。

 本当にお風呂が好きらしい。


 風呂から上がると、すぐにベッドに向かう。

 湯冷めしたら風邪をひいてしまうからだ。


「シギはちゃんとお布団に入らないと駄目だぞ」

「りゃありゃあ」

「フェムもな」

「わふ」


 フェムは俺の枕の上あたりに横たわることが多いのだ。

 今日も俺の枕の上に横たわっていたが、促したら布団の中に入った。


「今日は寒いからな」

「もっも」

 モーフィはいつものように、布団の中に入っている。


 外の気温は寒くても、獣たちが一緒に寝てくれるので暖かい。

 その夜は気持ちよく、ぬくぬくと眠ることができた。



 次の日の朝、起きて食堂に行くと、ミレット、コレット、ステフ、チェルノボクがいた。

 ミレットが困ったような顔をしている。ステフもミレットの近くで深刻そうな表情だ。


「どうした?」

「えっと、アルさん。それがですね」

「まだ雪がふってるんだよー」


 ミレットの表情とは異なり、コレットは笑顔だ。

 単純に雪が降っているのが嬉しいのかもしれない。


「長引いてるんだな」

「はい。吹雪も収まってないですし……困ってしまいます」

「除雪もしないといけないしな」

「除雪なら任せてください! 故郷でよくやっていたのです!」


 ステフが力強く言ってくれる。心強い。

 一方、チェルノボクは心配そうに、テーブルの上でふるふるしていた。


「ぴぎっ」

『困ったのだ』

 フェムは魔狼たちが心配なのだろう。


 だが、コレットを中心とした幼い者たちは元気だ。

「モーフィちゃん。あとで雪だるまつくろう」

「もっもー」

「シギちゃんもね」

「りゃあ!」


 子供にとって、雪は楽しいものなので仕方がない。


『ちょっと狼小屋を見てくるのだ』

「俺も行こう。昨日狩った肉の分配もあるしな」

『助かるのだ』


 肉の入った魔法の鞄を手に取った。

「フェム。どのくらいいる?」

『魔猪一頭もらえると助かるのだ』

「了解」


 俺たちが外に出ようとすると、コレット、ステフ、モーフィとシギがついてくる。

 シギはとりあえず俺の懐に入れる。


「ステフにコレット、今回は狼小屋の様子を見るだけだから、家でお留守番していなさい」

「わかったのです。師匠、お気をつけて」

「おお、ありがと」


 ステフの物言いが大げさすぎて、少し面白い。

 狼小屋は衛兵小屋のすぐ近くなのだ。


「コレットも行きたいなー」

「コレット、わがまま言ってはいけませんよ」

「あい」


 ミレットがコレットを窘めて抱き寄せた。

 それから俺に向かって頭を下げる。


「アルさん。すみませんが、村の様子も見てきてください」

「うん。任せておいて」


 玄関から出ると、ものすごい吹雪だった。

 昨日より激しくなっている。視界が真っ白でほとんど何も見えない。

 俺の胸のあたりまで雪が積もっていた。


 早速、俺は風を防ぐための魔法障壁を顔の周りに張る。

 フェムとモーフィにもそうしてやった。そうしないと息苦しいし、会話も難しい。


 ステフが大げさにお気をつけてと言ったのは、この惨状を知っていたからかもしれない。


「もっもー!」

 モーフィが雪の壁に突っ込んでいく。

 ものすごい勢いでかき分けて進んでいった。


「モーフィ助かる」

「もふー」


 モーフィはどや顔でこちらを振り返る。そして再びかき分け始めた。

 そのあとを歩きながら俺はつぶやく。


「本当に凄い雪だ」

『小屋の中だと全く気付かないものなのだな』

「ヴィヴィの魔法陣は優秀だから」


 衛兵小屋には耐衝撃や耐熱の魔法陣が刻まれている。

 嵐程度では、びくともしないのだ。


「村のみなさんも魔法陣描いてほしいって言ってたけど、ヴィヴィ描いたのかな?」

『わからないのだ』


 描いているのなら安心だ。だが、描いてなければ少し不安である。


「あとで、魔法で除雪しないとだめだな、これは」

『火炎魔法で溶かせばいいのだ』

「地面がドロドロになるし、溶けた後が凍ってカチカチになるぞ」

「わふう」


 モーフィが道を作ってくれたおかげで苦労なく狼小屋に到着できた。

 狼小屋にはバネで自動で閉まる簡単な扉がついている。

 体で押せば開く程度の強さの扉だ。

 その前に雪が積もって、動かなくなっていた。


「閉じ込められてそうだな」

『大変なのだ』


 魔狼たちも、フェムの到着に気づいたのだろう。

「わふわふわふ」

 小屋の中で鳴いている。


 俺は魔法を利用して狼小屋の扉付近を除雪した。

 重力魔法を使えば、除雪は簡単だ。


 俺たちが狼小屋の中に入ると、魔狼たちが群がってくる。


「わふわふ」「わふ」

「もっ!」

 魔狼たちは尻尾を振って大喜びだ。モーフィも狼たちに群がられて嬉しそうだ。


「きゃふきゃふ」

「りゃ!」

 子魔狼たちが元気に俺の足元にまとわりついた。シギと遊びたいのかもしれない。

 シギも俺の懐から出てパタパタ飛んで子魔狼たちと遊び始めた。


「フェム、魔狼は全員いるか?」

『大丈夫なのだ。全員いるのだ』

「それはなにより」


 魔狼たちは、いつもは水飲み場まで飲みに行っている。だがこの雪では難しそうだ。

 俺は魔法の鞄から、大きめのたらいを出す。

 そこに魔法で雪を溶かして、水にした。それからぬるま湯程度まで暖める。


 そうしておいてから、魔猪をフェムに渡す。


『ありがとう』


 それからフェムは、

「がうがう!」

「わふ」

「がう!」


 魔狼たちに訓示をしてから餌を分配していった。

 きっと、吹雪いているから、大切に餌を食えとか言ったに違いない。


 だが、魔狼たちはバクバク食べる。

 なにやら、魔狼たちはお腹を空かせていたようだ。仕方がないことである。

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