魔狼たちが餌を食べ終わってから、俺は観察した。
寄ってくる魔狼たちを撫でながら、体調が悪そうなものがいないか様子をみるのだ。
「きゃふきゃふ!」
「りゃ!」
子魔狼たちも元気そうだ。
餌を食べ終わると、早速、シギショアラとの遊びを再開した。
子魔狼たちは大人の魔狼たちより元気なぐらいだ。
餌も優先的にもらっているのだろう。
「フェム。なにか問題はあったか?」
『大丈夫なのだ』
「それならよかった。狼小屋の中は意外と暖かいんだな」
『ヴィヴィのおかげなのだな』
フェムもヴィヴィを認めているようだ。
それから俺たちは狼小屋をでて、吹雪の中を衛兵小屋に戻った。
ミレットが待機していた。
「狼さんたち、どうでしたか?」
「魔狼たちは問題なさげだ。だが、村の皆が心配だな」
「そうですね」
そこにヴィヴィが通りかかった。
「なんじゃ。まだ吹雪いておるのかや?」
「そうなんだ。昨日より激しいぐらいだ」
「それは困るのじゃ」
そんなヴィヴィに、フェムが言う。
『ヴィヴィありがとう』
「な、なんじゃ」
フェムにお礼を言われて驚いたような表情を見せる。
『狼小屋は暖かかった。助かったのだ』
「なんだ、そのことじゃったか。気にするでないのじゃ」
ヴィヴィは笑顔になった。
「ヴィヴィ、村の家とか牛小屋には魔法陣って描いてあるのか?」
「うむ。描いてあるのじゃ。牛の世話が終わった後に少しずつ描いていたのじゃぞ」
「ヴィヴィは、ほんとうに偉いな」
「もっも!!」「りゃ!」
俺はヴィヴィの頭を撫でてやる。
モーフィもヴィヴィの手を舐めまくっている。
シギはヴィヴィの肩に乗って、頭を撫でていた。
「やめ、やめ……まあいいのじゃ」
ヴィヴィは「やめるのじゃ」と言いかけたが、シギに撫でられて言うのをやめた。
シギは可愛いので、シギに向かって「やめるのじゃ」とは言えないのだろう。
「ヴィヴィが家に魔法陣を描いてくれていたのなら、ひとまずは安心かな」
「そうですね。ヴィヴィちゃんありがとう」
「気にしなくてよいのじゃ!」
それからミレットが言う。
「私、ちょっと村の様子を見てきますね」
「一緒に行こうか?」
「いえ、大丈夫ですよー」
「だが、雪が大量に積もっているから」
「も!」
「モーフィちゃん。来てくれるの?」
「もっも!」
「ありがとう」
「わらわも行くのじゃ。牛が心配なのじゃ」
ミレットとヴィヴィは、村の様子を見に行くようだ。
二人だけなら少し心配だが、モーフィがついて行くなら安心だ。
「モーフィ、頼むぞ」
「もぅ!」
ミレットたちが衛兵小屋から出て行って、数分後、クルスたちが起きてきた。
「雪降ってるんですか。心配ですね」
「いま、ミレットとヴィヴィが村を見に行ってくれているぞ」
「昨日、王都の天気はよかったのだけど……こちらは大変なのだわ」
「人手が必要なら、王都の仕事をお休みして手伝うけど、どうかしら?」
ルカの申し出はありがたいが、今はまだ大丈夫だろう。
そう考えていたら、クルスが返事をする。
「ルカ、ありがと。でもまだ大丈夫だよー」
「クルス、遠慮はしなくていいのだわ」
「ユリーナもありがとうねー」
そんなことを話している横で、チェルノボクはふるふるしている。
きっと、死神教団の村が心配なのだろう。
そんなチェルノボクの上にシギが乗っている。
「りゃあ?」
「ぴぎぃ」
なにか会話を交わしているようだ。
「チェル、あとで死神教団の村にも行こうな」
「ぴぎっ!」
「そうですね、心配ですもんねー。お肉を持っていくついでに見に行きましょうか」
『ありがと』
その後、俺たちは肉を分けた。
ムルグ村に残す分と、死神教団にもっていく分だ。
「ムルグ村の分は全部配っても腐っちゃうかもですし、すぐに食べる分以外は倉庫に入れとくのがいいかもですね」
「そうだな」
それから、ミレットとヴィヴィ、モーフィが戻ってきた。
「帰りましたよー」
「お帰りなさい。村はどうだった?」
ミレットとヴィヴィたちは玄関先で雪をおとしながら言う。
「みんな戸惑ってはいましたが、とりあえずは大丈夫ですね」
「もっもー」
モーフィも雪だらけだ。きっと、村に積もった雪をかき分けて進んだのだろう。
俺はモーフィの体から雪をおとしてやる。
「モーフィ、お疲れ様だぞ」
「もう!」
「ヴィヴィ、牛はどうだった?」
「元気だったのじゃ。外で運動できないから退屈そうではあったのじゃが……」
外で遊べないのはかわいそうだが、しばらくは牛たちには我慢してもらうしかない。
その時、ヴァリミエがやってきた。いつものように朝ごはんを食べに来たのだろう。
「すごい雪なのじゃ!」
「やむ気配がないんだよな。少し困る」
「ゴーレムが必要なら、いつでも貸し出すのじゃ」
「ありがとう。必要になったら頼む」
それから、俺たちは死神教団の村へと出発する。
同行してくれるのは、クルス、チェルノボクの他に、フェムとモーフィだ。
「わらわも行くのじゃ。死神の村には魔法陣描いていない家も多いからのう」
「そうか、頼む」
「師匠。私も行きます!」
ヴィヴィとステフも同行を申し出てくれた。もしかしたら人手がいるかもしれない。
「じゃあ、ステフも頼む」
「はい!」
俺は懐にシギを入れると、死神の村に向かって出発した。