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237 精霊大発生の要因を考えよう

 領主の館で代官と打ち合わせした後、俺たちはムルグ村へと戻った。

 倉庫から出ると、さらに雪が積もっていた。


「もっも!」

 モーフィが除雪したそうに、張り切っている。


「モーフィ。除雪の前に一度衛兵小屋に戻ってただいまって言わないと」

「もう!」

 衛兵小屋に戻ると、やはり暖かかった。

 帰宅の報告をし、体を少し温めてから、除雪作業に入る。


 ミレットやステフ、ヴィヴィ、ティミショアラも手伝ってくれた。モーフィも大活躍だ。


 あっという間に夕方になり除雪作業を終えて小屋へと戻る。

 ルカとユリーナ、ヴァリミエもいつもより早めに帰って来てくれた。

 吹雪を心配してくれたのだろう。


 そして、食堂に全員が集まった。


「ルカ。それに、みんな。吹雪についてなんだが……」


 俺とティミショアラは、この吹雪がジャック・フロストによるものだと説明した。


「ジャック・フロスト……。道理で。しかもこの長さと規模なら十体二十体どころじゃないんでしょう?」

「そうであるぞ。少なくとも、百。多ければ数百は覚悟せねばならぬであろう」

「数百はきついわね」

 ティミから数百体いるという可能性を聞いても、ルカは冷静だ。


「数百って、とてもまずいのだわ!」

 だが、ユリーナの方は少し慌てていた。

 普通はそういう反応になる。


「ルカ。これほどの大発生の原因って何が考えられる?」

「そうね……」


 俺の問いに、ルカは真剣な顔で考え込んだ。

 ジャック・フロストの大発生は、非常に珍しい現象だ。

 さすがのルカも、すぐには原因を思いつかないのかもしれない。


 ルカが考えている横で、ユリーナが口を開く。


「うーん。やっぱりティミちゃんのブレスでなぎ払うのが早いのかしら」

「クルスと同じようなこと言っているな……」


 俺が呆れてそういうと、ユリーナは笑顔になる。


「クルス、同じなのだわ」

「うん。そうだねー。一緒だね!」


 クルスとユリーナは仲良さそうに微笑みあっている。


「クルスにも言ったのだがな。我のブレスでジャック・フロストを薙ぎ払ったら、辺り一面、草木一本虫一匹、残らぬのだ」

「そうね。それもそうなのだわ」

「いい案だと思ったんだけどねー」


 それからユリーナはこちらを見る。


「ねえ、アル。アルなら退治して回ることも出来ると思うのだわ」

「そりゃ、出来るけどさ」


 ジャック・フロストは魔獣ではない。精霊なのだ。

 一応、大きな雪だるまのような体を持ってはいる。

 だが、ジャック・フロストにとって、体は飾りのようなもの。


 剣で斬って体を壊しても、炎であぶって体を溶かしても大したダメージにはならない。

 クルスの聖剣でも大きなダメージを与えるのは難しい。

 精霊にとって、聖属性は弱点ではないのだ。

 聖剣であっても、ジャック・フロストにとっては普通の剣と大差ない。


 有効なのは魔力弾のような純粋な魔法エネルギーだ。

 ティミのブレスも火炎などではなく、魔力ブレスが有効だ。


「最悪、俺が一体一体倒していってもいいのだが……」

「範囲も広いし、数も多いし、あまり現実的ではないのじゃ」


 それまで黙って聞いていたヴィヴィがそういった。

 おそらく、ヴィヴィも退治の方法を考えていたのだろう。

 そして、魔力弾では難しいという結論を導いていたのに違いない。


 ヴァリミエも真面目な顔で言う。


「ジャック・フロスト相手ではゴーレムもあまり意味がないのじゃ」


 ゴーレムでは数があっても、ジャック・フロスト討伐は難しそうだ。

 ジャック・フロストは魔力弾以外が効かないだけでなく、強力な精霊魔法の使い手だ。

 ヴァリミエの相方、魔力弾の得意な獅子の魔獣ライでも、容易には勝てないだろう。

 一対一でライが負けてもおかしくない。

 二対一ならば、確実にライが負けてしまう。そのぐらい強い。

 フェムやドービィでも厳しいだろう。


 そんなことを話していると、ずっと考えていたルカが口を開いた。


「大発生の原因として考えられることよね」

「なにか思いついた?」

「一般的なジャック・フロストの発生原因は、魔法力の滞留とか気象条件の組み合わせとかなのよ」

「ふむ。魔法力の滞留には、少し心当たりがあるな」


 俺はことあるごとに魔法を使っている。

 そのたびに魔力は大気中に発散し拡散していく。

 この辺りに漂う魔力は通常よりも、多少濃いのは間違いないだろう。


「その上で、色々な可能性を考えたけど、どれも、ここまでの大発生の要因になるとは考えにくいわ」

「俺が大量に魔法を使用していることも加味してもか?」

「当然加味して考えているわ」


 ルカがそういうのなら、そうなのだろう。


「ということは人為的な大発生と考えたほうがいいのか?」

「可能性の一つとして考えたほうがいいかも」


 ルカの返事をきいて、ヴィヴィが言う。


「ちょ、ちょっと待つのじゃ! そもそも人為的に精霊を大発生させるなどできるとは思えないのじゃ」

「そうなのだわ。もしそんなことが可能なら、戦争で使わないはずがないのだわ」


 精霊の大発生を意図的に起こせるということは、災害を引き起こせるということだ。

 国家相手にでも、大打撃を与えることができる。

 これまでの歴史で何度も使われているはずだ。


「人には難しいでしょうね」

 ルカは冷静にそういった。

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