地上に降りてから、通算で五十体ほどジャック・フロストを倒した計算になる。
クルスが嬉しそうに言う。
「吹雪も収まってきましたね!」
「これだけジャック・フロストを倒したからな」
「はい! アルさん凄かったですね」
「いや、むしろクルスの方がすごいだろ」
「そんなことないです。ぼくは走ってただけですから」
その走るスピードが異常に速く的確だった。
「クルスにしかできない走りだったぞ」
「えへへ」
クルスは嬉しそうに照れている。
ジャック・フロストを討伐し終えたのを見て、ティミショアラがやってくる。
俺たちの頭上に滞空した。
「もうよいか?」
「ああ、大丈夫だ」
ぶしゅーっとティミが息を吐いた。それだけで周囲の雪が舞い上がる。
「りゃっりゃ!」
ティミの鼻息で、シギは大喜びだ。
俺の懐の中で、羽をバタバタさせていた。
すぐにルカと精霊王がティミの背から降りてくる。
ティミの背はかなりの高さにある。だが精霊王はふわりと降りてきた。
重力を感じさせない降り方だ。
ルカは精霊王を追いかけるように飛び降りてくる。
全員が降りると、ティミも人型に素早く変化した。
「ぴぃ」
精霊王は俺の腕をとると、一声鳴いた。
「精霊王。上位精霊を止めていただいて、助かりました」
『感謝不要。感謝』
礼は必要ない。こちらこそお礼を言うべきだと言っているのだろう。
俺は上位精霊がしていた首輪をルカに渡す。
「一応見てみたが、精霊王の首輪と同種のものだな。ルカの目から見て何かわかるか?」
「魔道具に関しては、あたしは門外漢よ。アルにお任せするしかないわ」
後でヴィヴィとヴァリミエにも聞いておこう。
そのとき、上位精霊の声が届いた。
「ぴぃ」
上位精霊は少し戸惑っているように見える。
外見は完全に巨人だ。その巨人が気まずそうに立っていた。
精霊王は俺の腕を掴んだまま、上位精霊に向かって鳴いた。
「ぴぴぴぴぴいいい」
精霊王の声を聞いて、上位精霊は益々恐縮している。
叱られているのかもしれない。
その様子をルカが真剣な表情でじっと見ていた。
「ルカ。何言ってるかわかる?」
「まったくわからないわ」
ルカでもわからないなら、仕方がない。
わからないならば、精霊王に通訳してもらうしかないだろう。
叱っている精霊王に尋ねる。
「精霊王。上位精霊に聞きたいことがあるのですが、よいでしょうか」
『許可』
俺は精霊王を通じて上位精霊に尋ねる。
一番聞きたいことは、どんな奴にやられたのかということだ。
精霊王からは得られなかった情報だからだ。
「ぴいいぴいぴいい」
「ぴいぴいぴぴぴ」
「ぴぴぴいいぴ」
よくわからないが、精霊王と上位精霊は何事かを会話しているようだった。
とはいえ、精霊王も人間の言葉は拙い。
だから、情報収集には時間がかかった。
精霊王の言葉を、ルカがまとめてくれる。
「つまり……。獣人族の魔法使いだったと」
『肯定』
相変わらず、精霊王は俺の腕にしがみついている。
懐かれてしまったようだ。
「ルカ、一応どうやって捕まえられたかも聞いてくれ」
「わかったわ」
一番、精霊とのコミュニケーションがうまいルカに任せることにした。
ルカが精霊王を通じて上位精霊に尋ねてくれる。
それを精霊王が上位精霊に伝え、上位精霊から聞いた答えを精霊王が教えてくれる。
『精霊王救助必要』
「ふむふむ」
『捕縛』
「なるほど」
ルカは頷いているが、俺にはよくわからなかった。
「ルカ、どういうこと?」
「えっとね、精霊王が捕縛されたことで、上位精霊が助けに来て捕縛されたってことよ」
「なるほど。王を人質にした格好だな」
クルスもうんうんと頷いている。
「そうだったのかー。大変だったねー」
上位精霊の頭を撫でまくっていた。
今、上位精霊は精霊王にひざをついている。
それゆえ、クルスが背伸びすれば、頭に届くのだ。
「ぴ、ぴぴ……」
なんと言っているかはわからないが、戸惑っていることは俺にもわかる。
上位精霊は巨人、それもおっさんな容姿をしている。
撫でられることに慣れてないのだろう。
上位精霊が撫でられている様子を見た精霊王が、俺の腕を引っ張った。
『我大変』
「ん? ああ、そうですね」
上位精霊も大変だっただろうが、精霊王も大変だった。そう言いたいのだろう。
『慰撫所望』
「む?」
「撫でて欲しいんじゃないの?」
ルカがそんなことを言う。
「いや、まさか——」
『肯定』
そう言いながら、精霊王は頭を突き出してきた。
撫でて欲しかったらしい。仕方ないので撫でてやることにした。
撫でると精霊王は嬉しそうに羽をパタパタさせた。
それを見て、俺はなんとなく、フェムを思い出した。
それから、上位精霊は精霊界へと帰っていった。
上位精霊の近くにあった、精霊石は回収して魔法の鞄に入れておく。
『上位精霊。未だ救助願う』
精霊王が俺の腕を引っ張りながら言った。
救援を待つ上位精霊はまだいるということだろう。
上位精霊を解放しないことには、ジャック・フロストの召喚も止まらない。
俺たちはクルス領各地を回って、順番に上位精霊を解放していった。
先程の戦闘で、首輪さえ外せば、精霊王の言うことを聞くとわかった。
それを利用しない手はない。
特に問題なく、合計四体の上位精霊を解放することができた。