残り三体の上位精霊たちへの尋問も行ったが、新たな情報は得られなかった。
クルス領に召喚されていた上位精霊を無事解放し、精霊界へとおかえりいただいた。
「精霊たちにとって、人間たちの区別は簡単にはつかないのでしょうね」
「そんなものなの?」
「クルスだって、ゴブリンの個体差とか、よくわからないでしょ?」
「……たしかに」
俺たちは、最後の上位精霊を解放した後、相談していた。
メンバーは俺の他に、ティミショアラ、クルス、ルカだ。
ティミは人の姿になっているし、シギショアラは俺の懐から顔だけ出している。
そして、精霊王はいまだに俺の腕にくっついていた。
「精霊王。周辺には、他に上位精霊はおられないのでしょうか?」
『不在』
「吹雪は収まると考えてもよいのでしょうか?」
『肯定』
それを聞いて、クルスはほっと息を吐く。
「よかったー。これで後は除雪すればいいですね!」
「アル。回収した精霊石は何個になったの?」
「四個だな」
精霊王と上位精霊の近くには精霊石が置かれていた。
精霊王の近くにあった巨大な竜の像は破壊した。
だが、上位精霊の近くにあった小さな精霊石は回収済みだ。
小さいと言ってもこぶし大はある。
「精霊王。この精霊石いりますか?」
精霊王は首をふるふると振った。
『不要』
「そうですか。ルカ、どうしようか」
「研究用に一つ頂こうかしら。残りはアルが持っていて」
「了解」
魔法の鞄の中に入れておけば、精霊を呼びよせることもない。
外に出しても、この程度の大きさならば、大量召喚などにつながることはないだろう。
ルカが精霊王に尋ねる。
「精霊王は、そろそろお帰りになりますか?」
『肯定』
「なにかお手伝いすることはあるでしょうか?」
『不要』
精霊王はそういうと、右手を振った。
すると空間が歪んだ。精霊界との入り口を開いたのだろう。
その歪んだ部分に右手を突っ込む。
「ぴいぴい?」
少し鳴きながらごそごそしていた。
その後、右手で空間から何かを取り出した。
『アルフレッドラ。授与』
初めて精霊王に名前を呼ばれた。
精霊王は腕輪らしきものをこちらに差し出している。
「いただけるのですか?」
『感謝。印』
「ありがとうございます。いただきます」
俺がそう言うと精霊王は笑顔になった。
「ぴぴぴい」
小さく鳴いて、俺の左腕に腕輪をはめてくれた。
透明な腕輪だ。金銀宝石のような派手な装飾はついていない。
だが、綺麗で細かな模様が彫り込まれている。美しい。
「これは一体なんの腕輪なんですか?」
「ぴぴぃ」
精霊王は首を傾げている。
特に効果はないのかもしれない。魔力も感じない。
不思議な素材だ。
精霊王のかぶっている王冠と似た素材に見える。
『帰還』
「お帰りになられますか? お疲れ様です」
『感謝』
そういうと、精霊王は俺から離れた。少し名残惜しそうだ。
「精霊王ちゃん、またね!」
クルスが精霊王に向かって手を振った。
「ぴっぴ」
精霊王は小さく鳴いて、手を振った。
「りゃありゃあ!」
「さらばだ」
「お疲れさまでした」
シギ、ティミ、ルカも精霊王に別れを告げる。
「ぴっ!」
一声高く鳴いた後、精霊王の周囲の空間がゆがむ。
そして、向こう側へと消えていった。
それから、クルスが俺のところに、たたたと駆けてきた。
そして笑顔でいう。
「アルさん。これで、ひとまず終了ですね!」
「なにを言っているの。精霊王を使役したという、獣人の魔法使いってのを捕まえないと終わらないわ」
ルカがクルスをたしなめた。
だが、俺にはクルスの気持ちはわかる。
とりあえず、これでジャック・フロストはすぐに消えるだろう。
クルス領の領主としては、領民の危機が去ったのだ。
安心するのも当然だ。
だから、俺はクルスに言う。
「黒幕は、あとで絶対に捕まえるとして、とりあえずはよかったな」
「はい!」
クルスは満面の笑みを見せた。
「りゃっりゃりゃー!」
シギも嬉しそうに羽をバタバタさせる。
そして、俺の懐から出るとクルスの方へと飛んでいく。
シギはクルスの肩にとまって、頭を撫でる。
「りゃー」
「えへへ」
その様子を見てルカはため息をついた。
「まあ、今ぐらいはいっか」
「そうであるな。とりあえず、クルス領の上空を回るか?」
まだ、夜だ。周囲は暗い。
だが、ジャック・フロストを倒したことで吹雪は収まっている。
上空から村々の様子を観察することはできるだろう。
「ティミちゃん、お願い!」
「任せるがよい」
ティミが一気に巨大な古代竜の姿に戻る。
クルスとルカが、ティミの背にぴょんと飛び乗る。
続いて俺が背に上ろうとしていると、クルスが叫ぶ。
「アルさん。朝日ですよ!」
「おお」
東の空が赤く染まっていた。
「りゃあああ!」
クルスの肩に止まったままのシギも朝日を見て鳴いている。
「朝日が見れるということは、雲もだいぶ晴れたのであろうな」
ティミも東の空を見つめていた。
俺が背にのぼると、クルスが寄ってくる。
「綺麗ですね!」
「ものすごく綺麗だな」
「朝日を見たら少し眠くなったわ」
ルカはそう言って笑った。