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258 首輪の謎

 俺は恥ずかしくなったので、誤魔化すように早口で説明する。


「つまりだ。魔導士ギルドの会員ではあるが、俺は特にコネクションとかは使えない」

「ステフの方がまだましかもしれないわね」

「そんな、私なんてまだまだ下っ端会員なのです」

「それでも、ステフはちゃんと会費払っているんでしょう?」

「あっ、はい。払っているのですよ」

「まあ。普通は払うわよね。常識的に考えて」


 ルカがそう言って、こちらを非難するような目で見た。

 ユリーナは一度こちらを見て、軽く微笑むと、クルスを見る。


「うーん。そうなると、伯爵であり勇者でもあるクルスからの依頼という形にした方がよいのだわ」

「そうかな?」


 クルスは首を傾げているが、ユリーナの指摘は正しい。まさにその通りだ。

 クルスは伯爵、しかも領地持ちだ。上流貴族であるのは間違いない。

 魔導士ギルドにとっても良い関係を築いておきたい相手だ。

 会費を滞納している幽霊会員よりは、歓迎されるだろう。


 それを聞いていたクルスが言う。


「じゃあ、明日にでも、ぼくが魔導士ギルドに行ってきますね」

「……頼む。ふがいない魔導士ですまない」

「いえいえ! とんでもないですよ!」

「俺が行ったら、こじれるかもだから……、ステフを連れて行ってくれてもいいぞ」

「わ、私がですか?」


 ステフは驚いている。


「一応、所属している会員がいたほうがいいかもだしな」

「なるほど……」

「そうですね。アルさんの言う通りです。ステフちゃん、来てくれるかな?」

「私でよければついていくのです」

「ありがとう、明日よろしくだよー」


 そういって、クルスはステフの手を取って握手する。

 そのまま上下にぶんぶんと振っていた。


 それを見ながら、俺は魔法の鞄から上位精霊につけられていた首輪を取り出した。


「ヴィヴィ。すこし頼みたいことがある」

「む? なんじゃ?」

「ヴァリミエも頼む」

「構わぬのじゃ。何でも言うがよいのじゃ」

「これを見てくれ」


 俺は首輪を二人に見せた。


「上位精霊を支配していた首輪だ」

「効果は?」

「精霊魔法の封印と、ジャック・フロスト召喚の強制」

「……なるほど」


 ヴィヴィは真剣な顔で首輪を観察する。

 ヴィヴィの姉、ヴァリミエも一緒になって観察してくれている。


 ヴァリミエはヴィヴィの師匠でもあるのだ。

 当然魔法陣にも、とても詳しい。


「この首輪に刻まれた魔法陣。魔獣を支配する魔法陣に似ている気もするのだが……」

「ふむ。確かに似ているのじゃ」

 じっと見つめながら、ヴィヴィが言う。


「この術者は中々の腕じゃな」

「ほう?」

「しかも魔族の魔法体系に造詣が深いようじゃ」

「そうなのか?」

「うむ。ここを見るがよい。ここの回路の短縮は、魔族の魔法陣っぽいのじゃ」


 正直、俺にはそこまではわからない。

 だが、魔法陣の第一人者、ヴィヴィがいうのならば、そうなのだろう。


「姉上はどう思うのじゃ?」

「ふむ。確かにヴィヴィの言うとおりだと思うのじゃ」

「やはり魔族の魔法を習った者じゃな?」

「恐らくはそうじゃ……だがのう」

「姉上には、なにか気になる点でもあるのかや?」

「魔族の魔法体系と言っても、古すぎるのじゃ」

「古いっていうと、どのくらいの古さなんだ?」


 俺が尋ねると、ヴァリミエは少し考える様子を見せた。


「……そうじゃな。わらわにも正直分からぬぐらい古いのじゃ」

「百年とか二百年ぐらいか?」

「いや、もっとじゃ。千とか二千とか……。そのぐらい古くても驚かないのじゃ」


 ヴァリミエの言葉をうけて、俺はルカに尋ねる。


「古代の文献学者に精霊魔法の使い手っているか?」


 ルカは魔獣と神代文字の優秀な学者だ。

 古代のことを調べている学者にも詳しい。


「聞いたことはないわね。……でも探せばもしかしたら」

「なるほど」

「一応探してみるわね」

「頼む」


 精霊王を召喚し、クルス領に危機をもたらした人物に関する手がかりは乏しい。

 いま確実なのは、獣人の男という上位精霊から得られた情報ぐらいだ。


 それに加えて、ヴァリミエとヴィヴィによると、魔族の魔法体系に詳しいようだ。

 それも古い体系の魔法の使い手らしい。

 かなりの前進と言っていいだろう。


「ステフ。精霊魔法を使う獣人に心当たりはないか?」

「獣人の魔導士自体に出会うことが少なかったので……。心当たりはないのです」


 それを聞いていたティミショアラが言う。


「ステフは我と手合わせしたとき、精霊に呼びかけていたではないか。ステフは精霊魔法の使い手ではないのか?」

「あれはただの詠唱なのですよ」

「ふーむ。アルラ。そうなのか?」 

「いや、あれも精霊魔法の一種ではあるのだがな」

「ほう、やはりそうか」


 魔力を精霊に与えて、現世に力を顕現させるのだ。

 精霊魔法と言ってもいいだろう。


「だが、一般的に精霊魔法の使い手って言われるものは、もっと直接的に精霊を使役するからな」

「ふむふむ」

「精霊を支配下に置いて、精霊魔法を使わせるという感じだ」

「今回の下手人が、首輪を使って支配したみたいにか?」

「まあ、そうだ。首輪を使うことはまれだがな」


 通常は魔力で支配する。だから、強力な上位精霊などは使役できない。

 精々、下位精霊を使役する程度だ。


 ステフがやった精霊にお願いするといった形式のものは、魔導士ならば誰でも使う。

 詠唱で精霊に呼びかけた程度で、精霊魔法の使い手と呼ばれることは、まずない。


「とりあえず、明日から色々調べるよー。ステフちゃん、明日はお願いね」

「こちらこそなのです」

「あたしも調べとくわね」

「私もそれとなく聞いておくのだわ」


 頼もしい仲間たちである。とてもありがたい。

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