一週間、努力を続けたステフを俺は試験することにした。
その日の訓練の終わり、それをステフに告げる。
「ステフ。明日俺と試合するぞ」
「し、師匠となのですか? 勝てるわけないのです」
「勝たなくてもいい。そもそも俺は本気は出さないから安心しろ。どのくらい強くなったか知りたいだけだ」
「了解したのです」
それを聞いていた、コレットが俺の腕にぶら下がる。
「いいなー、コレットも試合したいなー」
「別に構わないぞ。ミレットはどうする?」
「じゃあ、せっかくなので、私もお願いします」
「それならば、三人とも今日はもう魔力を使わずゆっくりしておきなさい」
「了解なのです」「りゃ」
「おっしゃん、わかった!」「もっも」
「わかりました」「わふ」
真面目な顔で弟子たちは返事をした。
なぜか獣たちも真面目な顔をしている。まるで自分たちまで試合するかのようだ。
訓練の最中、シギショアラ、モーフィ、フェムはずっとそばに居た。
そして、見よう見まねで訓練に参加していた。
弟子たちが魔法体操を始めたら、獣たちも一緒にやっていた。
弟子たちが魔法発動の練習を始めたら、一緒に魔力弾を撃っていた。
だから試合したいのかもしれない。
「言っておくが……フェムとモーフィとは試合しないぞ?」
「わふ?」「も?」
二頭とも「なんで?」と言いたげに首をかしげる。
「だって……」
とても面倒だからだ。
フェムもモーフィもとても強い。そんな彼らと俺が試合をすれば地形が変わる。
手加減すればいいのだろうが、強者相手に手加減するほど、大変なことはない。
だが、期待に目を輝かせているフェムとモーフィに向けて、面倒だからとは言いにくい。
「今回は弟子たちの修行の成果を調べるためのものだからな」
「わふぅ」「もぅ」
「りゃぁ」
シギまでがっかりしている。
「シギはまだ赤ちゃんだから、試合とかしなくていいんだぞ」
「りゃっりゃ!」
赤ちゃんでも戦えると言いたげに、シギは俺の顔をペシペシした。
その時、ティミショアラが声をかけてくる。
「なんじゃ。シギショアラは試合しないのだな」
「ティミ。いつからいたんだ?」
「割と最初の方からだぞ。シギの魔法体操は可愛いから、見逃したくない」
「それには同意だ」
「りゃあ?」
弟子たちの真似をして、一生懸命体を動かすシギはとても可愛い。
「シギショアラはまだ赤子ゆえ、試合しなくてもよいと思うが、フェムとモーフィとは試合してやればいいのではないか?」
「も!」
モーフィがそれを聞いて、嬉しそうに尻尾を振る。
フェムは無言だ。だが、尻尾がビュンビュン揺れている。
「場所がないしな」
「それならば、極地に来ればよい」
「極地か」
「古代竜に合わせて作ってあるゆえ、試合ぐらいできるであろう」
「なるほど」
「もっも!」
モーフィは俺のお腹辺りを鼻先でつんつんする。
余程試合したいと見える。
「じゃあ、明日、フェムとモーフィとも試合しようか」
「わふぅ!」
「もぅもぅ!」
フェムとモーフィは嬉しそうだ。
「それがよいのだ。我とアルラの試合も、シギショアラに見せたいしのう」
「え?」
「腕がなるのう!」
ティミは張り切っている。
そういうことで、俺はステフと試合したあと、ティミと試合することになった。
「まあ、シギの教育のためにも、試合しようか」
「うむ。そうこなくてはな!」
「りゃっりゃ!」
ティミとシギはとても嬉しそうだ。
弟子たちが休憩に入ったのを見て、ティミが言う。
「ところで、この一週間、アルラは弟子たちに、どんな特訓をしたのだ?」
「ミレットとコレットはいつも通りだ。だが少し魔法の実践を多めにした」
「ふむ?」
「基礎さえ固めておけば、後でいくらでも応用は効くから基礎ばかり教えてきたのだが……」
「そういうものか?」
「魔法はそういうものだ。とはいえ、実際に一度使ってみておいた方がいいのも確かだからな」
「なるほどのう」
そういいながら、ティミはシギを抱きかかえて、頭を撫でている。
シギの教育について考えているに違いない。
「ステフの場合はどうなのだ?」
「ステフはもともと魔導士としていい腕を持っていた」
「そうなのか?」
ティミは意外そうな顔をする。
俺やユリーナと比べたら、それは当然未熟だが、魔導士全体としては上の方だ。
最初の師匠、つまり俺の兄弟子の教育がよかったのだろう。
「だから、ステフはミレットたちとは逆に基礎固めを多めにした。魔力の扱いをよりうまくなってもらわないと、実践的な魔法を教えることも出来ないからな」
「ふむ?」
「あとは、戦闘で魔法を使う場合の基本的な考え方とかだな」
「なるほどのう。そんなに特別なことをしていないのだな?」
「画期的な方法で、あっという間に強くなれるなら、苦労はない」
「それは、もちろんそうであるな。シギショアラ、地道な努力が大切なのだぞ」
「りゃあ?」
シギは首をかしげる。
シギはほとんど何も教えていないのに、空を飛び、魔力弾を口から出せる。
才能に溢れすぎだ。努力しなくても、あっという間に強くなれるだろう。
とはいえ、慢心しても困る。
「シギは明日、俺の魔法をよく見ておくんだぞ」
「りゃあ!」
シギは嬉しそうに鳴いた。