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263 ステフ対魔王

 次の日の朝食後、俺はシギショアラの宮殿に向かう準備をした。

 一応、フェムとモーフィにも、防寒具代わりに馬着を着せる。

 クルスから貰ったものだ。


「極地の宮殿は暖房入ってるから、必要ないかもだがな」

『暑ければ脱げばよいのだ』

「もっも」


 それから俺はシギにも防寒具を着せる。

「念のためだぞ」

「りゃあ」

 ヴィヴィの作ってくれたコートだ。とても可愛らしい。


 それから、準備を終えた弟子たちとティミショアラと一緒に宮殿へと向かう。

 小屋を出たところで、厚着をしたヴィヴィと出会った。外出する気満々である。


「試合をするそうじゃな。とても興味深いのじゃ」

「ヴィヴィも来るか?」

「うむ。ぜひわらわも見せてもらうとするのじゃ」

 そういってついてきた。


 転移魔法陣を通過して、極地のシギショアラの宮殿に到着した。


「シギの宮殿も久しぶりだな」

「りゃあ」

 シギも嬉しいのか、羽をぱたぱたさせながら周囲を飛び回る。


「暖かいな」

『暑いくらいなのだ』

「皆が来るのは知っていたからな。暖房はあらかじめつけておいたのだぞ」


 ティミがどや顔で言う。


「りゃ!」

「シギも暑いか。コート脱ごうな」

「りゃあ」


 シギのコートや、フェム、モーフィの馬着を脱がしてやる。

 ミレットやコレット、ヴィヴィも防寒具をそれぞれ脱いでいた。


「我が主。お待ちしておりました」


 転移魔法陣部屋を出ると、謎の女性が待機していた。

 女性はシギに向かって深々と頭を下げた。

 外見は人族の普通の若い女に見える。だが、全身から魔力があふれていた。

 只者ではないのは間違いない。恐らく古代竜だろう。


「外套は私がお預かりいたしましょう」


 女性はそういって、みんなの脱いだ外套を受け取っていく。

 俺がコートを渡すとき、女性は笑顔で言う。


「アルフレッドラ閣下もお久しぶりでございます」

「…………」


 俺には出会った記憶が全くない。とりあえず笑顔を浮かべて誤魔化す。

 そうしながら一生懸命思い出そうとしていると、ティミが笑った。


「男爵。アルフレッドラ閣下にその姿を見せるのは初めてであろう?」

「失念いたしておりました。閣下には、大公殿下が践祚なされたときにお会いいたしました」


 つまり、シギが大公になった日。挨拶に来た古代竜の一人なのだろう。


「我一人では、色々大変であるからな。数人に交代で宮殿に来てもらっておるのだ」

「そうだったのか」

「はい。アルフレッドラ閣下。私の名はコヴァス。今後ともよろしくお願いいたします」

「よろしくお願いいたします」

「りゃ!」

「もったいないお言葉!」


 シギが一声鳴くと、コヴァス男爵は素早く平伏して地面に頭をつけた。

 シギは、ねぎらいの言葉をかけたのかもしれない。

 俺には全くわからないが、きっとそうなのだろう。


 その様子をみて、ステフはポカーンとしていた。

 ステフにはシギが古代竜の大公であることは言ってある。

 だが、実際に宮殿や古代竜の臣下をみて、驚いたのだろう。


 一方、ティミはすたすたと歩いていく。

「試合する場所はこちらに用意してある。ついて来るがよい」

 宮殿自体が古代竜に合わせて、巨大に作られている。

 宮殿内を移動するだけだというのに、三分ほど歩いた。


「ここである」

 ティミが用意していたのは、だだっ広い部屋だった。

 調度品は全くない。壁と床は不思議な材質で作られている。


「ここならば、多少暴れても問題あるまい」

 そういって、ティミは笑う。


 一方、ヴィヴィは壁と床を真剣な表情で調べていた。

 俺も一緒になって調べる。どのくらい耐えられるか知っておきたいからだ。


「これは複雑な魔法陣じゃな」

「そうであろう。壁自体が、神代より伝わる魔道具のようなものじゃ」

「確かに。魔法で壊すのは容易ではないな」

「そうであろう」


 容易には壊れまい。だが、万一がある。


「だが、壊れなくもないだろう?」

「ふふふ、さすがのアルラでも難しいと思うぞ」

「そうだろうか」

「心配せずともよい。壁自体が魔道具といったであろう? 相当に広い範囲を破壊し、がれきを粉にして海に流すなどしなければ自動で修復される」

「それはすごいな」

「であろう? まあ、そういう機能でもなければ、いくら頑丈でも神代から今まで残るまいよ」


 ティミは笑顔で言った。確かにそういうものかもしれない。形あるものは壊れるのだ。

 修復機能がなければ、風化してしまう。


 確かに、そういうことならば多少壊れても大丈夫だ。全力を出せる。


 俺たちが、会場を調べている間、ティミはシギを抱きながらニコニコしていた。

 楽しみで仕方がないといった表情だ。


「誰からやろうか? まず我とアルラの手合わせからするべきか?」

「いや、そういうのは最後に取っておくべきだな」


 万一、会場が壊れても困る。

 いくら自動で修復されるとはいえ、それなりに時間はかかるに違いないのだから。


「まずはステフ、コレット、ミレットの順で俺と試合だ」

「師匠、了解なのです」

「おっしゃん、わかった」

「緊張しますね」

 弟子たちはそれぞれそんなことを言う。


 ステフの準備運動が終わると試合開始だ。


「いつでもいいぞ」

「胸を借りるのです!」


 ステフは無詠唱かつ連続で火球を飛ばしてきた。

 火球の軌道も不規則だ。

 火球は対人戦においては最も効率がよい。軌道も読まれないほうがいい。

 そう指導したのだ。俺の指導をよく守っている。


「いい感じだぞ。その調子だ」


 俺は一歩も動かずに、火球を防ぎきる。

 防ぐだけでは実戦の訓練としては不十分だ。

 俺は適度に攻撃を挟む。もちろん、ステフがぎりぎり防げるように手加減してだ。


「くぅ!」

 ステフは攻撃から防御に魔法を素早く切り替える。


 そして俺の攻撃がやんだと見るや、ステフは氷の槍を飛ばしてきた。

 氷の槍は弾かれた後、溶ける。地面を濡らすことができる。

 そうなれば、地面を凍らせたり色々と戦略の幅が広がるのだ。


「いい連射速度だ」


 俺はほめながら、氷の槍をあえて自分の近くに弾いていく。

 近くに弾くのは、ステフが次の魔法につなげやすくするためだ。


 弾きながら、適当にこちらも弱い魔力弾をステフに飛ばす。

 攻防は一体の物。同時にできなければ話にならない。

 死角になりがちな場所から攻撃したり、いろいろやった。

 ステフは防御しながらも、攻撃を忘れない。


 ステフは魔法を巧みに組み合わせ効果的に攻撃してくる。

 そうしている間に、部屋の暖かさで氷が溶け、俺の周囲が水浸しになった。


 ステフが叫ぶ。


「炎の矢!」

「おぉっ」


 ステフは矢のように鋭く速い火炎を右手から放った。

 同時に左手で雷撃を放つ。多重展開である。

 言葉で俺の意識を炎の矢に集中させておいてからの雷撃だ。

 それも、俺を直接狙ったものではない。俺の足下、ぬれた地面を狙ったものだ。


 普通の魔導士ならば、対応できまい。


「見事」


 俺はそういうと、雷撃が地面に届く前に、魔法障壁で防いだ。

 その後もステフは色々と試行錯誤して攻撃してくれた。


 俺にその全てを防ぎきられて、魔力が尽きてステフは負けを認めた。

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