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264 エルフ姉妹対魔王

 負けを認めた後、ステフはひざをついた。魔力を絞り出して戦ってくれたのだろう。

 試合でも本気で取り組む、その姿勢は素晴らしい。


「ステフ。強くなったな」

「まったく歯が立たなかったのです」


 ステフは悔しそうだ。その向上心も素晴らしい。

 俺に勝てないのは当たり前だ。年季が違う。

 とはいえ、ステフはへこんでいる。なんと言葉をかけていいのか少し悩んだ。


 そんなステフにティミショアラが声をかける。

「ステフ。水でも飲むか?」

「あ、ありがとうなのです」


 コップに入れた水を差しだされ、ステフはごくごく飲んでいる。

 魔法を使いまくったので、喉が渇いたのだろう。


「りゃありゃあ」

 嬉しそうにシギショアラが、ティミの腕の中から、俺のもとに飛んでくる。


 俺はシギの頭を撫でながら言う。


「シギ、よく見ておくといいぞ」

「りゃあ」

「シギショアラはアルラの懐に入っておった方がいいかもしれぬな」


 そんなことを、真面目な顔でティミが言った。

 さりげなく俺にも水をくれる。


「ありがとう。うまい水だな」

「ふふ。そうだろう。自慢の水だ」


 古代竜の宮殿で提供される水である。特別な魔道具で浄水しているのかもしれない。

 俺は水をシギにも飲ませてやりながら言う。


「俺の懐に入っていた方が、魔法を間近で見れるからか?」

「うむ」

「じゃあ、シギはここで見るか?」

「りゃっりゃ!」

 嬉しそうに、シギは俺の懐の中に入って行った。


 一方、ステフはいまだにへこんでいた。

 そんな、ステフに向けてヴィヴィが言う。


「それだけ、できれば充分じゃ」

「でも……」

「でも……、ではないのじゃ! アルに勝つなど、人間やめないと無理じゃぞ」

「何もそこまで……」

「ステフはアルの本気を知らぬからそういうことを言うのじゃ……」


 ヴィヴィは遠い目をしていた。

 それをみて、ステフは複雑な表情を浮かべている。


「もっ」

 ステフがぼーっとしたのを見て、すかさずモーフィが手を咥えに行った。

 モーフィは、隙さえあれば、すぐ手を咥えるのだ。


 モーフィに手を咥えられているステフに師匠としてなんと言葉をかけるべきか考えた。


「ステフ。その実力なら、充分通用するぞ」

「そうなのですか?」

「うむ。冒険者ランクで言えばBの上位からAの下位程度はあるだろう」

「そんなにあるのですか?」

「ある」


 俺が断言すると、少し自信を取り戻したようだった。

 何よりである。魔導士にとって、自信は大切だ。

 自信を取り戻したステフは右手をモーフィの口から引き抜いた。


「もぅ」

 モーフィは少し残念そうにしていた。

 そんなモーフィをフェムが舐めてあげている。慰めているのだろう。


 そのとき、コレットが言う。


「おっしゃん! つぎはコレットだよ!」

「そうだな。いつでもいいぞ」

「やったー。じゃあいっくよー」


 コレットは間髪入れずに魔力弾を撃ち込んできた。

 その思い切りの良さ。素晴らしい。

 俺が軽く魔力弾で攻撃すると、コレットは足に魔力を流して高速でかわす。

 前後、上下左右に跳びはねる。


「りゃっりゃ!」


 シギは大喜びだ。

 魔力弾が俺の魔法障壁にぶつかって砕けるのが楽しいのだろう。

 高速で移動するコレットを見るのも楽しいに違いない。


 コレットは、攻撃を単純な魔力弾に絞り、魔力操作の集中を移動に使っているのだ。

 素晴らしい戦闘センスだ。末恐ろしい幼女である。


 しばらくすると、魔力弾の中に、魔法の矢や火炎弾などを混ぜはじめた。

 魔力弾に慣れさせておいてから変化をつけているのだ。効果は大きい。 

 そして、当たり前のように多重展開をしてくる。


 はじける魔法が多彩になって、シギはますます喜んだ。


 しばらく魔法を撃ち続け、魔力が尽きたコレットは降参した。

 足にも魔法を回して高速移動していた分、ステフよりばてるのが早かった。


「はぁはぁはぁはぁ」

「コレット。素晴らしいぞ」


 俺が褒めるとコレットは、息を切らしながら、にっと笑った。

 そんなコレットのもとにモーフィがすかさず近寄っていく。

 そして、コレットの顔をべろべろ舐める。

 モーフィなりにコレットを元気づけようとしているのだろう。


「モーフィくすぐったいよー」

「もっも!」

「水でも飲むか?」

「ティミちゃんありがとう!」


 水を飲んだ後、コレットは言う。


「……おっしゃん、魔法全然効かないんだね」

「おじさんは魔法を防ぐの得意なんだぞ」

「そっかー」

「コレットも素晴らしいぞ。かなり強い」

「やったー」

 コレットは嬉しそうに笑う。


「ただ、瞬間火力的には素晴らしいが、もう少し長く戦えるようにしたほうがいいかもな」

「そっかー」

「だが、素晴らしかったぞ」


 持久力は成長して魔力量が増えれば、問題なくなるだろう。

 俺はコレットをほめて、頭を撫でておいた。


「恐ろしい幼女じゃ」

 ヴィヴィがぽつりとつぶやいた。


 それからミレットとの試合に入る。


「アルさん。行きます」

「いつでもいいぞ」


 ミレットは足を止める戦い方をするようだ。

 その分火力はコレットよりも高い。

 前衛がいるのならば、コレットよりも活躍できそうだ。


 ミレットはコレットほど奇抜ではない。

 足を止め、火力を重視する。敵の攻撃は障壁で防ぐ。魔導士の王道的な戦い方だ。

 王道とは基本ということでもある。一番大切なことだ。


 俺はミレットが魔力を使い果たすまで、しのぎ切った。

 魔力を使い果たすと、ミレットは潔く降参した。

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