俺がコレットを撫でていると、ミレットまで寄ってきた。
「私も頑張りますね」
「ミレットも頑張るといいぞ」
俺がそういうと、ミレットはコレットと同じ高さに頭を持ってきた。
そして、期待のこもった目で見上げてくる。
これは撫でろということなのかもしれない。
俺はミレットの頭を撫でておいた。
「えへへ」
ミレットは嬉しそうに笑う。喜んでもらえてよかった。
お菓子をシギショアラに食べさせていたティミショアラが言う。
「これで魔導士ギルドと喧嘩する準備はできたのか?」
「そうだな」
魔導士ギルドの魔導士にステフを勝利させるのが目的だ。
いや、もともとの目的は、獣人の精霊魔法の使い手を探すことだが、今はいい。
後でどうとでもなる。
「今のステフなら、余裕で勝てるだろうな」
ステフが慌てたように近寄ってくる。
「師匠。待ってほしいのです。確かに師匠は普通の魔導士には勝てるとおっしゃっていたのです」
「うん。そう言ったぞ」
「喧嘩で相手にするのは、魔導士ギルドの代表として出てくる魔導士なのです」
「それはそうだ」
「優秀なエリートなのです。普通の魔導士とは言えないのです」
「いや、普通の魔導士だ。ステフに比べればな」
「……そうなのでしょうか」
「ステフはもっと自信を持った方がいい」
「師匠がそうおっしゃるのなら……。がんばってみるのです」
俺はステフの頭を撫でる。
ステフの獣耳がぴくぴくうごいた。尻尾もゆっくり揺れている。
それをみて、テーブルの上を歩いてシギがやってきた。
「りゃあ!」
シギの頭も撫でてやった。
シギに逃げられ、ティミは少し残念そうだ。
「ミレットとコレットも連れて行けばいいのではないか?」
「確かに、ミレットとコレットも勝てるだろうが……」
「コレットいきたい!」
「ミレットは?」
「私も行きたいです」
エルフの姉妹は乗り気の様だ。
「そうだな。一応、クルスと相談してからだな」
クルスの魔導士が魔導士ギルドの魔導士よりも強いことを証明する。
あくまでも、それが喧嘩の建前だ。
だが、本当は獣人魔導士が弱くないと示すことが目的である。
ミレット、コレットを連れて行っても出番はないかもしれない。
それでも、修行中の姉妹にとって、試合を見ることに意味はあるだろう。
「やっぱり緊張するのです」
「もし、負けそうになったら俺が出るから大丈夫だぞ」
「それなら安心なのです」
ティミが呆れたように言う。
「そんな、子供の喧嘩に親が出るような真似を……」
「余程の魔導士を出してこない限り、大丈夫だ」
ステフに勝てる魔導士となると、宮廷魔導士や、大貴族の専属魔導士などであろうか。
そういうのが出てくれば、俺が出てもいいだろう。
「では、我も行こうぞ」
「ティミもか」
「なんだ。問題があるのか」
「……本気出したらダメだぞ。王都が灰燼に帰す」
「もちろんだ。それをいうなら、アルラも同じであろう」
「そうなんだが……。俺は手加減に慣れているから」
「我も毎日が手加減の日々である!」
自慢げにティミはそういった。
お茶会を楽しんでから、俺たちはティミを残してムルグ村に帰った。
ティミは足がしびれるので夕食時まで本来の姿に戻るらしい。
クルスやユリーナたちが帰ってくるころ、ティミも帰ってきた。
そして、みんなで夕食を食べる。
夕食の後片付けの後、俺はルカに尋ねた。
「獣人の精霊魔法の使い手について何かわかったか?」
「冒険者ギルドの方には情報が少しずつ集まってきてはいるけど……」
「まだ、有力な情報はないか?」
「そうね。もう少し時間がほしいわ」
「了解だ。苦労を掛ける」
「気にしないで」
それから、俺はユリーナに尋ねる。
「教会の方はどうだ?」
「冒険者ギルドと大差ないかも知れないのだわ」
「一応情報はあるけど……、って感じか」
「そうね。どこどこの街に獣人の精霊魔法の使い手がいるらしい程度の情報なのだわ」
「ふむ」
「冒険者ギルドにも、その程度の情報なら集まっているわ。今は本当にいるのか調べている段階」
「教会もそんな感じなのだわ」
「そうか。助かる」
「気にしなくていいのだわ。クルスに喧嘩を売ったのだから、私にとっても敵なのだわ」
「ルカもユリーナもありがとうねー」
クルスは微笑んだ。
情報収集の先は長い。
獣人の精霊魔法の使い手がいるのか調べた後は、力量のほどを調べなければならない。
そして、力量が優れているとわかれば、人柄を調べたり最近の行動を調べる必要がある。
俺はクルスに向けて言う。
「クルス。魔導士ギルドと喧嘩する準備ができたぞ。都合のいい日を言ってくれ」
「おお、ついにステフちゃんが、魔導士ギルドの奴らをバッタバッタと倒す日が来たんですね!」
「バッタバッタは言いすぎなのです……」
「ミレットとコレットも一緒に行っても大丈夫か?」
「もちろんです。でも、出番はないかもですよ? それでもいいですか?」
「コレットは王都にいってみたいんだよ!」
「私も見学させてください」
そう言ってくれたので、コレットとミレットを連れていくことになった。
「じゃあ、早速明日行きましょう!」
「明日なのです?」
「善は急げといいますからね!」
クルスの鼻息がふんふんと荒い。
「ステフ、ミレット、コレット。魔力の回復は大丈夫か?」
「あ、はい。それは大丈夫なのです。一晩寝れば……」
「コレットもだいじょうぶだよー」
「私も大丈夫です」
我が弟子たちは、魔力の回復が早いらしい。
「じゃあ、明日乗り込もう」
「はい!」
「行きましょう」
「行くのです」
そういうことになった。