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293 精霊をつなぎとめるもの

 一体の消失後、クルスは二体のジャック・フロストの魔法をかわしながら言う。


「なんか背中にある光ってるのを取ったらきえたよー」

「それが召喚の鍵かしらね」

「可能性は高いのだわ」


 ルカは剣でジャック・フロストを切り裂いていく。

 剣での攻撃はジャック・フロストにとって、ダメージにはならない。

 だが、斬られ体が崩れることで、動きは止まる。

 ジャック・フロストが停止するのは一瞬だ。そして、それで充分だ。


「なるほど。これね」


 背後に回り込んでルカも何かを手に取った。

 やはりジャック・フロストはたちまち消失していった。


 精霊であるジャック・フロストの消失はすなわち精霊界への帰還を意味する。


「やはり、現世に精霊をつなぎ止めるアイテムって考えたほうがよさそうね」

「とりあえず、その綺麗な石みたいなのをとればいいってことなのだわ」


 ユリーナはジャック・フロストへと向けて、まっすぐ突っ込む。

 精霊魔法が降り注ぐが、顔色も変えず魔力で覆った左手で払いのけていく。

 ユリーナの髪の毛が凍り、服も凍りつく。だがユリーナは止まらない。


 ジャック・フロストに接触すると、

「せぃっ!」

 ユリーナはジャック・フロストの胴体を右手で貫く。


「Kisiiii! kiiii!」

 ジャック・フロストが不思議な声を上げた。


「つまりこれなのだわ」


 ジャック・フロストが消失していく。

 前面から後方へと、こぶしを貫通させて無理やりむしり取ったのだ。

 ユリーナらしい。


 クルス、ルカ、ユリーナが、周囲のジャック・フロストにお帰り願ってくれている。

 俺はその間に、フェムに乗って周囲の調査をすることにした。


「フェム。あっちに走ってくれないか」

「わふ」


 フェムは雪原の上を上手に走ってくれている。

 いくら狼でも、新雪は走りにくいだろう。


『アルは戦わなくていいのだな?』

「戦いはクルスたちに任せればいいだろう。それより魔法と召喚主の痕跡を調べたい」

『了解なのだ』

 ヴィヴィもモーフィに乗って俺の後ろをついてくる。


「もっも! も!」


 降り積もった雪の中を走るのはモーフィは得意らしい。

 俺とフェムに並走し始めた。


「アル。精霊力以外の魔力も感じるのじゃ」

「そうだな」


 俺やヴィヴィを目掛けて、精霊魔法が飛んでくる。

 障壁を張って防ぐ。


「クルスたちがむしり取っているのは魔道具かや?」

「わからない。見てみないことには」

「それもそうじゃな」


 俺たちは周囲の魔力の気配を探る。

 ヴィヴィがつぶやく。


「雪が邪魔なのじゃ」

「下に魔法陣が描かれているとヴィヴィは思うのか?」

「その可能性は高いのじゃ」


 そのとき流れ弾のように精霊魔法が飛んできた。

 ヴィヴィは一瞬で魔法障壁を張った。


「ヴィヴィ。早いな」

「アルの弟子には負けてられないのじゃ!」


 そう言ってニコッと笑う。

 ヴィヴィは高度な魔法使いだ。だから忘れがちだが、ミレットやステフより若い。

 伸びしろはまだまだあるのだろう。


「雪を溶かすのは簡単だが……」

「大量の溶けた水で痕跡が流れ去ってしまうのじゃ」

「魔法陣は残りそうだが、道具の類があれば流されてしまうだろうな」

「爆発で吹き飛ばすのも論外じゃ……」

「そうだな」


 俺は魔力の痕跡が色濃く残っている辺りで、重力魔法を発動する。

 雪を軽くし、魔力の刃で切り取って、浮かせるのだ。


「それはいいかもしれぬのじゃ! わらわも手伝うのじゃぞ」


 ヴィヴィが魔力の刃で雪の切り取りを手伝ってくれる。

 以前とは見違える腕前だ。


「ヴィヴィ。もう少し大きめに切り取ってくれ」

「了解なのじゃ」

「あまり地面にすれすれじゃないほうがいい」


 地面は綺麗な平らではない。

 地面ぎりぎりに魔力の刃を走らせれば地形によっては削れてしまう。


 ヴィヴィが雪を切り取って、俺が浮かせて吹き飛ばす。

 俺たちは、順調に除雪を進めていった。


 除雪を進めていくと、精霊魔法による攻撃が苛烈になっていく。


「アル。ジャック・フロストが集まって来ている気がするのじゃ」

「確かに。これは……」


 俺は念話に切り替える。

 念話相手は、この場にいるヴィヴィとフェムとモーフィ、シギショアラに設定する。

 少し考えて、遠くにいるクルス、ルカ、ユリーナともつないだ。

 せっかくなので、上空にいるティミショアラにもつなぐ。


 距離が離れるほど、念話をつなげるのは難度が上がる。

 正直、上空にいるティミとつなげるのは、かなり難しい。


『どうしたのであるか? それにしてもアルラは見事であるな。この距離をつなげるとは』


 こちらから語り掛ける前に、ティミが語り掛けてきた。

 念話がつながると同時に、魔力の流れがかすかに変わる。

 それを察知したのだろう。さすがはティミである。


「りゃ?」


 叔母の声が聞こえて、俺のふところ内のシギがもぞもぞ動いた。


『とりあえず、最初に言っておく。行動は変えないでくれ』

『ふむ?』

『ということは、誰かに見られているってことですか?』


 クルスは鋭い。


『念のためだ。俺とヴィヴィが除雪を進めたらジャック・フロストが集まってきた』


 だから誰かが俺たちの様子を見ていると推測した。


『探知系の魔法で自動で反応するように……って、アルとヴィヴィちゃんが見逃すわけないわね』

『わらわはともかく、そうじゃな』

『こちらをうかがっている存在がないか注意してくれ』

『了解です!』

『わかったわ』

『気配とか探るのは苦手なのだわ』

『任せるがよい。上空からも見張っておこう』


 全員が協力してくれるようだ。

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