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301 レアの兄

 レアを許した後、精霊王は美味しそうにお菓子を食べはじめた。

 シギショアラとコレットも精霊王の隣でお菓子を食べている。


「りゃっりゃ」

「せいれいおーちゃん、これも美味しいよ」

『美味!』


 それを見ながらルカがつぶやいた。


「記憶の改ざんってことよね。それはとても難しいのでは?」

「そうだな。以前、シギをさらいに来た魔人が記憶を改ざんされてたな」

「でも、あの時に改ざんしたものは、名のある年を経た魔人王だったのだわ」

「魔人王クラスが黒幕ってことかしら」


 ルカとユリーナは深刻な表情で見つめあう。

 クルスは精霊王の頭を撫でる。


「魔人王かー。居場所さえわかれば何とでもなるんだけどなー」

「もし魔人王クラスなら、冒険者ギルドの冒険者が何人も被害にあいかねないわ」

「教会としても、村の被害とかが心配なのだわ」

「ぼくも村が襲われたら困るよ」


 魔人王クラスを相手にするには、勇者パーティークラスの戦力が必要だ。

 普通の冒険者には荷が重い。


「なにより居場所がわからないのが問題ね」

「ただわからないだけでなく、手がかりすらまったくないのが問題なのだわ」


 クルス、ルカ、ユリーナが真剣な顔で考え始めた。


「有力な手がかりはないが、まったくないってことはないだろう」

「手がかりがあるんですか?」


 クルスの表情が明るくなった。


「まずだな。黒幕はレアが精霊魔法を使えることを知っていたんだ」

「ふむ?」

「レアは魔導士ギルドにも、冒険者ギルドでも精霊魔法を使えることは言ってなかった。そうだよな?」


 俺はレアに確かめた。


「はい。その通りです。一般的な魔法の方が受けがいいので……」

「でも、精霊魔法を使えることを隠していたわけではないのでしょう?」


 ルカの問いにレアは真面目な顔で応える。


「隠していたわけではありませんが、聞かれたことがないので」

「俺も長年冒険者魔導士をやっているが、一度も精霊魔法について聞かれたことはないな」

「そんなものなのね」

「ルカだって、冒険者の魔導士にあなたは精霊魔法使えますか? って聞いたことないだろう?」

「それは、そうだけど……」


 精霊魔法の存在について、知らない冒険者の方が多いぐらいだ。

 自分から使えることをアピールしない限り、聞かれることはない。


「黒幕は、誰からレアが精霊魔法を使えることを知ったのか、ということね?」

「ルカの言うとおりだ」

「アルさんは誰から、知ったのだと思いますか?」

「レアのお兄さんの可能性が高いかな」


 俺の言葉で、レアが立ち上がる。椅子がガタリと大き目の音を出した。


「兄が?」

「可能性は高い」

「兄は生きているのでしょうか?」


 レアは、少し泣きそうになっている。

 そんなレアの頭を精霊王が優しく撫でた。

 そして、レアの口元にお菓子を近づける。


「あ、ありがとうございます。精霊王さま」

 精霊王にもらったお菓子を食べて、レアは少し落ち着いたようだ。


「お兄さんのことは、どのくらいの人に話したんだ?」

「そうですね。兄の行方を捜していましたから、新しい冒険者ギルドの支部に行くたびに話はしましたし……。知り合いにも聞きました」


 つまり隠していた情報ではないということだ。

 レアの知り合いならば、全員兄が行方不明であることは知っている。


「レアの兄のことを知っているものなら、レアが精霊魔法を使えることには気付いたかも知れない」

「それはそうかもしれないわね」

「兄を探すのが一番早いと俺は思うぞ」

「確かにそうね」


 ルカは同意してくれる。

 ルカは気付いているはずだ。兄が黒幕である可能性があることも。

 それでも、ルカは言わない。


「とりあえず、冒険者ギルドを使って、情報を探すわね」

「いつもすまないな」

「気にしないで」

「教会でも探してみるのだわ」

「ユリーナもありがとう」

「気にしないでいいのだわ」


 話がついたころ、精霊王が立ち上がる。

 シギとコレットの頭を撫でた。そして俺の方に来る。


『アルラ。いまだ我に用存在?』

「今のところ大丈夫です。ありがとうございます」

『慰撫所望』


 精霊王が頭を差し出してくる。

 俺がしばらく頭を撫でると、精霊王は満足したようだ。


『アルラ。いつでも我呼ぶ』

「ありがとうございます」


 そして、精霊王は精霊界へと帰っていった。


 クルスはそれを見届けると、レアの肩に手を置いた。


「レアちゃん! そろそろお仕事の時間だよ!」

「労働刑ですね。はい。覚悟しています」

「ぴぎっ」


 チェルノボクは嬉しそうに鳴く。

 レアの肩にぴょんと乗った。


『れあよろしく』

「はい、よろしくお願いします」

「じゃあ、ついて来てー」


 クルスとレアとチェルノボクは死神教団の村へと向かって歩き出した。

 その背中に呼びかける。


「人手がいるようならいつでも言ってくれ。手伝いに行く」

「ありがとうございます!」

『ありがとありがと』


 クルスたちが立ち去った後、ティミが言う。


「こんなことを言っては何だが、レアの兄とやらが怪しいのではないか?」

「可能性はあるが……」

「アルラは、可能性は低いと思っておるのか?」

「そうだな」

「理由を教えてくれぬか?」

「レアの兄はレアに精霊魔法を教えた師匠だろう?」

「なるほど。兄ならば、レアを使う必要すらないということか」

「催眠の魔道具などつかって、面倒なことをする必要もないからな」

「それもそうであるな」


 ティミはほっとしたようだった。

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