レアが死神教団の村で働き始めてから数日が経った。
ルカとユリーナが情報を集めてくれているが、それほど有効な情報はない。
そんなある日、ヴァリミエがクルスに尋ねた。
「クルスよ。レアの働きぶりはどうじゃ?」
「がんばってるよー」
レアは死神教団の村に泊まりこんで労働刑の真っ最中だ。
クルスも、一日一回は死神教団の村に様子を見に行っている。
「……ふむ。チェルノボクの村はどのくらい人手が不足しておるのじゃ?」
「全体的に足りてないよ」
「ぴぎ」
「春になったら忙しくなるのはわかるのじゃが……いまも忙しいのかや?」
「いまでも、仕事はあるけど……。ヴァリミエちゃん、どうしたの?」
クルスは首をかしげる。
「いや、なに……。レアに魔動機械の技術を教えてもらいたいのじゃ」
「ヴァリミエちゃんは凄腕なんでしょう? わざわざ教えてもらわなくてもいいんじゃない?」
「そんなことはないのじゃ。体系が違えば、得るものはたくさんあるのじゃ」
「なるほどー」
ヴァリミエは向上心がある。見習わなければなるまい。
「わらわも、教えて欲しいのじゃ!」
ヴィヴィもヴァリミエの隣で、そんなことを言う。
クルスは隣にいたチェルノボクを優しく撫でる。
「でもなぁ。レアちゃんにも仕事があるしなぁ」
「ぴぎっ?」
チェルノボクはふるふるしていた。
今日はいつもより、柔らかそうな感じだ。
とても気持ち良さそうなので、俺もチェルノボクを撫でる。
「クルス。レアはどんな仕事をしているんだ?」
「色々です。人手が足りないところのお手伝いです」
「レアでなければ、出来ない仕事ではないのじゃろう?」
「まあ、ヴァリミエちゃんの言う通りですけど……」
死神教団の村は労働力が不足気味だ。
ヴァリミエの提案に従えば、その村から労働力を移動させることになる。
クルスがためらう気持ちもわかる。
「ならば、追加でゴーレムを貸し出そうではないか」
「それなら大丈夫かなー? 一応司祭さんに聞いてみてからね」
「頼むのじゃ! とりあえず、いまからゴーレムを届けるのじゃ」
そんな話があった次の日の朝。レアが戻ってきた。
ヴァリミエ製のゴーレムは除雪後の雪を運んだり、薪を運んだり大活躍らしい。
魔法の素養がなくても動かせるようにしてあるので、とても有用だ。
レア以上に活躍するだろう。
ヴァリミエは嬉しそうにレアに言う。
「レア、ついてくるのじゃ」
「はい」
ヴィヴィも、ヴァリミエとレアにくっついていく。
「もっもー」
「モーフィも来たいのかや?」
「もう」
「ならば、モーフィも来るのじゃ」
ヴィヴィはモーフィを撫でながら言う。
「ステフ、それにミレットとコレットもついて来てよいのじゃ」
「え、私なのです?」
「してんのーいいの?」
「いいんですか?」
「ステフも、ミレットもコレットも、魔動機械について知りたいこともあるのではないかや?」
「それは、ありますけど」
「コレット、まどうきかい、作りたい!」
コレットは嬉しそうに、モーフィの背に乗る。
ステフとミレットは俺の方を見た。
一応、師匠である俺の許可が欲しいのだろう。
「学んでくるといい」
「はい」
「頑張るのです」
「コレットに任せてー」
元気に弟子たちはヴァリミエについて行った。
ヴァリミエの領地、リンドバルの森で勉強するのだ。
俺も行きたいが、一応衛兵業務がある。
俺はフェムと一緒に残った。あとで弟子たちから何を学んだか聞こうと思う。
「りゃあ」
シギショアラも俺と一緒だ。
シギは防寒具を着て、胸の前に小さな袋を下げている。
数日前に、ユリーナに作ってもらったおやつ入れである。
「シギ、寒くないか?」
「りゃぁ」
寒くはないようだ。
一方フェムは、魔狼たちのところへ行った。
様子を見て、異常がないか確かめるのも王の務めなのだろう。
俺はシギを優しく撫でながら考える。
レアの兄の情報を探すということになった。
だが、レアがずっと探していて見つからなかったのだ。
そう簡単に見つかるわけがない。
「どうしたもんかなぁ」
「りゃ?」
シギは首をかしげた。
「レアのお兄さん、どこにいるのかなー」
「……」
シギは無言でおやつ袋からおやつを取り出す。
そして、それを差し出してきた。
「くれるのか?」
「りゃあ」
「ありがとう」
「りゃっりゃ!」
深刻そうな顔で考えていたから、心配してくれたのだ。
シギは、とても心優しい子だ。
シギにもらったお菓子を口に入れる。甘くておいしい。
「おいしいぞ」
「りゃあ」
シギは自分もお菓子を口に入れると、羽をばたばたさせた。
シギと一緒にお菓子を食べていると、頭がさえてくる気がする。
「そうか。甘いもので釣ればいいのか」
「りゃあ?」
『アル。一体何を言っているのだ』
いつの間にか戻って来ていたフェムが呆れたように言う。
「いや、文字通りの意味じゃ無くてだな」
『ふむ?』
「精霊石を売りに出せば、黒幕が買いに来るかもしれないだろ?」
『そんなに単純ではないと思うのだぞ』
「かもしれないが、せっかくだしな」
『うまくいけばよいのだ』
「そうだな」
俺はフェムの頭をわしわし撫でた。
シギはフェムにもお菓子を差し出していた。