俺たちはヴァリミエの城塞から少し離れたところに移動する。
ヴァリミエとライ、ドービィが見送りに来てくれた。
ティミショアラはレアとステフを見る。
「ステフは我の姿を見るのは、初めてではないな?」
「はい。何度かお見せいただきました。覚悟はできているのです!」
知っていても、ティミの姿は迫力がある。
とはいえ、覚悟するほどのことではないと思う。
「レアは我の姿を見るのは二度目であるか?」
「はい。ですが、催眠中であったので、あまり記憶が鮮明ではないのです」
「そうか。見たことがあるならばよい」
そして、ティミショアラが本来の姿に戻った。
グレートドラゴンのドービィよりもずっと大きい。
「……ぎゃあ」
ヴァリミエの後ろにいるドービィがプルプルしている。
そんなドービイの手を、小さなシギショアラが撫でていた。
「っ」
レアは言葉をなくしている。
ティミの威風堂々たる姿を見れば、だれでもそうなる。
催眠にかかっていない状態で見るのは初めてなのだ。
仕方がない。
「さあ、みな乗るがよい」
ルカがステフを抱え、ユリーナがレアを抱えて背に跳びうつる。
「シギ、入ってなさい」
「りゃ!」
俺はシギを懐に入れると、背に跳びのった。
モーフィはヴィヴィを背に乗せたまま、ぴょんと乗る。
「それじゃあ、行ってくる」
「気を付けるのじゃぞー」
「がお!」
「ぎゃ!」
ヴァリミエとライとドービィが見送ってくれた。
上空を飛びながら、ティミが言う。
「旧魔王領の街ってどんなであろうな!」
「いまどうなっているかは、わらわにもわからぬのじゃ」
旧魔王領にも元から街はあった。
今はそこに王国側から人が沢山入り込んで拡大していると聞いている。
俺も少し楽しみだ。
「ステフ、レア、大丈夫か?」
「大丈夫なのです」
ステフは力強く返事をした。
だが、モーフィをしっかりと抱きしめている。
地面から遠く離れた上空を高速で移動しているのだ。怖いのもわかる。
「は、はい。大丈夫です」
レアはユリーナにしがみついていた。
「まあ、無理はしなくていいぞ」
「はい」
ルカが言う。
「さすがに寒いわね」
「天気は良くても冬なのだわ」
一応、全員しっかりと防寒具を着ている。
だが、地上より気温の低い上空を高速移動しているのだ。
とても寒い。
そんな会話をしていると、ティミがちらとこちらを見る。
「もう少しゆっくりの方がよいか?」
「いや、大丈夫だ。俺が魔法を使う」
「そうか。任せるのである」
夏だと、ティミの背でうける風は気持ちがよい。
だが、今は冬。気持ちがいいとか言っていられない。
「りゃっりゃ、りゃー!」
シギは元気だ。さすがは極地を支配する古代竜の大公。寒くはないようだ。
シギは、ヴィヴィに作ってもらった可愛らしい防寒具を身につけている。
俺は全員に魔法をかける。身体の周囲に空気の膜を形成するのだ。
それだけで寒くはなくなる。
「まだ寒かったら言ってくれ」
皆、寒くはなくなったようだ。お礼を言われる。
「師匠。この魔法って、一体?」
「ああ、これはだな……」
ステフに魔法の仕組みとコツを教えておいた。
ティミの背の上での授業は新鮮な気分になる。
「りゃあ」
「も!」
「なるほどー」
ステフだけでなく、シギとモーフィ、ティミも熱心に聞いていた。
教え終わると、ステフが頭を下げた。
「教えてくださって、ありがとうなのです」
「出来そうか?」
「私にはまだ難しいと思うのです」
「そうか。まあ何度か練習するといい」
「がんばるのです!」
その一方、
「もう、落ち着くのだわ」
「で、でも高いです」
「落ちそうになってもルカが拾ってくれるのだわ」
「ほ、本当にお願いしますね」
「うん、善処するわ」
レアはユリーナにつかまってガクガクしていた。
話を聞けるような状態ではない。
ルカもレアの不安を和らげるためか、近くに待機していた。
「アルラ。そろそろ街が見えてくるころであるぞ。どうする?」
「そうだな。少し離れたところに降りてくれ」
「了解である! 我としては街の真ん中に降りるのも楽しいと思うのだが」
「それはさすがに、目立ちすぎるからな」
そんなことを話していると、遠くに街が見えてきた。
旧魔王城の城下町だ。旧魔王領で最大の街でもある。
「うわぁ。なんか変わった街なのです」
ステフが街を見て声を上げた。
建築様式が王国側とは違う。だから新鮮に思えるのかもしれない。
「魔族の街はああいうのが多いのじゃ」
「綺麗なのです」
「そうかや?」
ステフに褒められて、ヴィヴィは少し嬉しそうだ。
「ムルグ村から地上を走れば、どのくらいかかるのでしょうか?」
ステフが疑問を口にする。
「そうだな。馬で一、二週間ぐらいか。ルカどう思う?」
「馬なら、もうちょっと余裕をみたほうがいいかしら。直線距離で進めるわけではないのだし」
「ムルグ村からリンドバルの森まで馬で一週間ぐらいかかるのだわ。そこから、さらにだから……」
三週間あれば、それなりに余裕があるといったところだろうか。
『モーフィ三日』
モーフィがふんふんと鼻を鳴らして、俺の袖を咥えている。
「さすがにモーフィでも、三日は難しいと思うぞ」
「もぅ!」
モーフィには自信があるようだった。
さすがに三日は無理でも、モーフィなら一週間もあれば走りそうだ。
「降りるのであるぞー」
ティミは地面に向かって降下を開始した。