俺は明日旧魔王領に行くための準備を始めるために、立ち上がる。
その時、クルスが言う。
「ヴァリミエちゃん。今はライとリイについてなくて、いいの?」
「うむ。いざというときは、この自作の指輪が鳴ることになっているのじゃ」
「なるほどー」
ヴィヴィもそうだが、ヴァリミエも魔道具を作るのがとてもうまい。
店で買ったら、ものすごく高いだろう。
「ムルグ村から急いで駆けつければ、五分もかからないのじゃ」
「転移魔法陣さまさまだねー。さすがヴィヴィちゃん」
「なに、大したことではないのじゃ!」
ヴィヴィは照れていた。
次の日、朝ごはんを食べた後、俺たちはリンドバルの森に向けて出発した。
「おっしゃん、がんばってねー」
「アルさん、気を付けてくださいね」
「ミレットもコレットも、留守番頼む」
「お任せください!」
「コレット、おるすばん得意だからね!」
コレットはフェムの背中に乗っていた。
「フェム。クルスを頼むな」
『任せるのだ!』
フェムは尻尾をピンと立てている。やる気充分だ。
「クルスも、トルフ商会を頼む」
「任せてください!」
残る者たちに見送られて、倉庫を通り、リンドバルの森に向かう。
ルカとユリーナは転移魔法陣がある建物を出ると、森を興味深そうに眺める。
「久しぶりな気がするわ」
「そうね。そんな気がするのだわ」
俺はヴァリミエに言う。
「ヴァリミエ、ライに会えるか?」
「あとドービィにも会いたいのだ」
「りゃっりゃ」
ティミショアラとシギショアラは、ドービィに会いたいようだ。
ドービィはグレートドラゴン。同じ竜ということで気にかけているのだろう。
「ライは……会えると思うのじゃが……。リイはむずかしいのじゃ」
「やっぱり、気が立っているのか?」
「そうじゃなー。この時期は本来は獅子のオスも気が立っているものじゃが……ライは賢いのじゃ」
「なるほど」
野生を理性で押さえつける感じだろうか。
ヴァリミエが周囲に向けて声を出す。
「ライ、ドービィ、帰ったのじゃぞー」
「がう」
まずライが出てきた。
相変わらず立派な獅子だ。これでも小さくなっている。
本来の大きさは、巨大化モーフィぐらいあるのだ。
「ライ、アルたちが遊びに来たのじゃ」
「がうー」
ライは俺のところに来ると、頭を押し付ける。
たてがみのモフモフが半端ではない。
「ライ、元気にしてたか? それとおめでとうな」
「もっも」
「りゃあ!」
モーフィは、ライと互いに匂いを嗅ぎあっている。獣なりの挨拶なのだろう。
シギは嬉しそうにライを撫でる。
ルカもユリーナもティミもライにお祝いを言って、撫でていた。
ステフとレアは最近、よくリンドバルの森に来ていた。
だから、慣れているのだろう。声をかけながら軽く撫でていた。
「ライには、これをやろうではないか」
ティミがごそごそと鞄から肉を取り出した。
「嫁さんと、分けて食べるがよいぞ」
「がうがう」
「ティミ、何の肉なんだ?」
「地竜であるぞ。今朝、ちょっと狩ってきたのだ」
地竜の肉ならば、魔力含有量も高い。リイの滋養にもよかろう。
「がう」
「ライとリイのために、ありがとうなのじゃ」
ライとヴァリミエはティミにお礼を言っている。
俺も何かあげるべきだろう。魔法の鞄を探してみた。
魔熊の肉がある。だがこれはまずいらしい。祝いのプレゼントには適さない。
他にないか探してみると、ユニコーンの肉が入っていた。
「ライ、俺からはこれをやろう」
「がう!」
「アルまで……。ほんとうにうれしいのじゃ」
ライとヴァリミエからお礼を言われていると、
「……ぎゃぁ」
物陰から声がした。ドービィである。
「ドービィ、そんなところに隠れておるでないのじゃ。こっちに来るのじゃ」
ドービィは建物の陰に体を隠して、顔だけ出してこっちを覗いていた。
怯えているのだろう。ドービィは古代竜のティミが怖いのだ。
ドービィは小走りにやってきて、ヴァリミエの手をぎゅっと握る。
怖いので保護者のヴァリミエの手を握ったのだ。そんなところも可愛い。
「ドービィ、元気だったか?」
「ぎゃっぎゃ」
「りゃあ!」
シギが一声鳴くと、パタパタと飛んでドービィのもとに行く。そして頭の上に乗る。
シギはドービィと仲がいいのだ。
「ぎゃあ」
「りゃっ」
ドービィもシギが好きなようだ。嬉しそうに羽が動く。
「もっ」
モーフィもドービィのところに行って、互いに匂いを嗅ぎあって挨拶している。
俺はドービィに近づいて頭を撫でる。
「ドービィにも何かあげないとな」
「ぎゃあ?」
「これ少ないけど……」
「ぎゃっぎゃ!」
ドービィには魔猪の肉をあげた。
喜んでいるようなので、何よりだ。
「我もドービィに何かやらねばな」
ティミが近づくと、
「ぎゃっ!」
ドービィの体がこわばった。本当に怖いらしい。
「これをやるのである。地竜の肉だぞ」
「ぎゃぁ」
ドービィはティミに頭を下げる。だが、ヴァリミエの手をつまんでいる。
ドービィはヴァリミエよりずっと大きい。
それなのにヴァリミエの陰に隠れようとしているのが面白い。
「ドービィ、そんなに怯えなくてもよいのだぞ」
ドービィをティミは撫でまくっている。
緊張でガクガクしているドービィを、ティミは気にする様子もない。
「ティミ、ドービィにまで、本当にありがとうなのじゃ」
「気にするでない。ドービィはシギショアラのお友達ゆえな」
「りゃっりゃ!」
ライとドービィへの挨拶を済ませると、俺たちは森を後にすることにした。