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330 ダミアンの家にいこう

 トムから聞いた事情をみんなに話す。

 皆真面目に聞いていた。


 ケィをひざの上にのせて、頭を撫でていたユリーナが言う。


「それは、問題なのだわ」

「とてもじゃないけど、普通の子供が返せる額ではないのじゃ」

 ヴィヴィも深刻そうにうなずいた。


「何とかしたほうがいいわね」

 ルカがそうつぶやくと、レアとステフもうんうんと頷いている。


 そして、俺はトムからダミアンの家を聞いて出向くことにした。


「ルカとユリーナは待っていてくれ」

「まあ、いいけど。どうしてなの?」

「大勢で押し寄せてもな。それに、留守中に何か来ても困るし」


 ユリーナはうんうんと頷く。

「大勢で向かって、怯えられて逃げられても困るものね」

「逃げるってことはないと思うけど……。すぐに駆け付けられる範囲で適当に散歩でもしているわ」

「土地勘を得るのは大切なのだわ!」

「みんなはどうするの?」


 ルカに尋ねられて、ヴィヴィは言う。


「わらわはアルと一緒に行くのじゃ」

「我も、せっかくだし、アルラについて行くかのう」

「もっもー」

「りゃっりゃー」

「師匠、私も同行させていただくのです!」

「じゃあ、レアは私たちとくるわね」

「はい」


 そんなこんなで、チーム分けが決まった。

 俺に同行するのは、ヴィヴィ、ティミ、シギ、モーフィにステフだ。

 ルカとユリーナ、レアは周囲を観察して回るという。

 それも大切な仕事である。


「お兄さんたち、お願いだよ!」

「大船に乗ったつもりでいていいぞ」

「いってらっさい! シギちゃんもいってらっさい!」

「りゃっりゃ!」


 トムとケィに見送られて俺たちは出発した。


 しばらく歩いて、ヴィヴィが言う。


「結構なボロ屋だったのじゃが、ダミアンはなぜ欲しがっておるのじゃ?」

「トムたちの家は結構大きかったからな」

「大きくてもボロ屋なのじゃ」

「ダミアンが欲しいのは土地じゃないか?」

「土地かや?」


 ヴィヴィは真面目に考えている。

 大きな家に住んでいるぐらいだ。

 トムたちの両親はそれなりに財産を持っていたのかもしれない。


 古いうえに手入れがされていない。だからボロボロだ。

 それでも、大きいし立地も悪くない。

 それこそ宿屋でも建てれば、儲かるかもしれない。


 そんなことを、ヴィヴィに説明した。

「問題は、エルケーの街に訪れる旅人の数が少なそうってところだな」

 いい立地でも、そもそも街に旅人がこなければどうしようもない。


「師匠。エルケーの街に冒険者ギルドはあるのですか?」

 そう聞いてきたのはステフだ。


「多分あると思うぞ」

 エルケーの周りには魔物がたくさんいるはずだ。

 だから、冒険者ギルドは、きっとあるに違いない。


「詳しくは後でルカに聞いてみよう」

「あるのならば、一度顔を出しておきたいのです!」

「そうだな。一回見てみたいな」

「りゃあ?」


 シギは俺の懐から顔だけ出す。そして、きょろきょろ街の様子を眺めている。

 シギにとっても、魔族の街は新鮮なのかもしれない。


「さて、アルラよ。どういう方針で行くのだ?」

「どういう方針とは?」

「脅すのか、下手に出るのか、とかそういうやつだ」

「そうだなー」

 俺は少し考える。


「基本、脅す方向でいいかな」

「師匠、初手から脅されるのです? 話し合いから入らなくていいのです?」


 ステフが驚いている。常識的な冒険者の反応だ。


「相手は、悪党のネグリ一家だからな。大金を積むか、脅すかしないと情報は得られまい」

「なるほど……そういうものなのです?」

「多分な。脅し気味の話し合いだ」


 情に訴えるとか、道理を説くとかは意味がないだろう。


「脅すのであるな。得意である」

「ティミ、吠えるのは控えてくれ」

「む?」

「む? じゃないぞ。大騒ぎになるからな」

「……そうか」

「……りゃあ」


 ティミとシギがしょんぼりする。

 そうこうしている間に、ダミアンのアジト前に到着した。

 アジト前にはチンピラ風の男が二人談笑していた。

 見張りを兼ねているのかもしれない。


「じゃあ、まずは俺が行こう」

「任せたのじゃ。わらわたちは眺めておくのじゃ」


 そして、俺はアジトに向かって歩いていく。


「あ? なんだ、てめえは」

「ここがダミアンさんの家であってますか?」

「てめえ、こっちの質問に答えろよ」

「いやあ、ダミアンさんの家じゃなかったら、迷惑かけちゃうかなって」

「なに言ってんだ、てめえ」


 とりあえず、最初が肝心だ。

 俺はチンピラ一人のこめかみ辺りを、左手で掴む。

 親指を左のこめかみに、小指を右のこめかみに当てて、五本の指にぐっと力を入れる。


「いで、いでええええ」

 チンピラは俺の左手を両手で必死に握りながら、ひざをついた。


「で、ここがダミアンさんの家であってますか?」

「てめえ、ふざけんじゃねえ」


 もう一人のチンピラが、殴り掛かってきた。

 そのチンピラを右手で首を掴んで持ち上げた。


「ぐぐ、ううう」

 苦しそうに呻く。


「で、ここがダミアンさんの家であってますか?」

「あ、あってる、あってるから……」


 こめかみを握られている方が、答えてくれた。

 俺は二人とも解放する。地面にぐしゃりと崩れ落ちた。


「もう、面倒だから、さっさと答えてくれよ」

「……てめえ、何者なんだよ」

「ダミアンさんはご在宅かな?」

「……」

「まただんまりか」


 そう言って俺がチンピラに手を伸ばすと、

「い、いる! いるから!」

「人間、正直なのが一番だよ」


 そう言ってほほ笑むと、俺はダミアンの家の中に入って行った。

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