トムから聞いた事情をみんなに話す。
皆真面目に聞いていた。
ケィをひざの上にのせて、頭を撫でていたユリーナが言う。
「それは、問題なのだわ」
「とてもじゃないけど、普通の子供が返せる額ではないのじゃ」
ヴィヴィも深刻そうにうなずいた。
「何とかしたほうがいいわね」
ルカがそうつぶやくと、レアとステフもうんうんと頷いている。
そして、俺はトムからダミアンの家を聞いて出向くことにした。
「ルカとユリーナは待っていてくれ」
「まあ、いいけど。どうしてなの?」
「大勢で押し寄せてもな。それに、留守中に何か来ても困るし」
ユリーナはうんうんと頷く。
「大勢で向かって、怯えられて逃げられても困るものね」
「逃げるってことはないと思うけど……。すぐに駆け付けられる範囲で適当に散歩でもしているわ」
「土地勘を得るのは大切なのだわ!」
「みんなはどうするの?」
ルカに尋ねられて、ヴィヴィは言う。
「わらわはアルと一緒に行くのじゃ」
「我も、せっかくだし、アルラについて行くかのう」
「もっもー」
「りゃっりゃー」
「師匠、私も同行させていただくのです!」
「じゃあ、レアは私たちとくるわね」
「はい」
そんなこんなで、チーム分けが決まった。
俺に同行するのは、ヴィヴィ、ティミ、シギ、モーフィにステフだ。
ルカとユリーナ、レアは周囲を観察して回るという。
それも大切な仕事である。
「お兄さんたち、お願いだよ!」
「大船に乗ったつもりでいていいぞ」
「いってらっさい! シギちゃんもいってらっさい!」
「りゃっりゃ!」
トムとケィに見送られて俺たちは出発した。
しばらく歩いて、ヴィヴィが言う。
「結構なボロ屋だったのじゃが、ダミアンはなぜ欲しがっておるのじゃ?」
「トムたちの家は結構大きかったからな」
「大きくてもボロ屋なのじゃ」
「ダミアンが欲しいのは土地じゃないか?」
「土地かや?」
ヴィヴィは真面目に考えている。
大きな家に住んでいるぐらいだ。
トムたちの両親はそれなりに財産を持っていたのかもしれない。
古いうえに手入れがされていない。だからボロボロだ。
それでも、大きいし立地も悪くない。
それこそ宿屋でも建てれば、儲かるかもしれない。
そんなことを、ヴィヴィに説明した。
「問題は、エルケーの街に訪れる旅人の数が少なそうってところだな」
いい立地でも、そもそも街に旅人がこなければどうしようもない。
「師匠。エルケーの街に冒険者ギルドはあるのですか?」
そう聞いてきたのはステフだ。
「多分あると思うぞ」
エルケーの周りには魔物がたくさんいるはずだ。
だから、冒険者ギルドは、きっとあるに違いない。
「詳しくは後でルカに聞いてみよう」
「あるのならば、一度顔を出しておきたいのです!」
「そうだな。一回見てみたいな」
「りゃあ?」
シギは俺の懐から顔だけ出す。そして、きょろきょろ街の様子を眺めている。
シギにとっても、魔族の街は新鮮なのかもしれない。
「さて、アルラよ。どういう方針で行くのだ?」
「どういう方針とは?」
「脅すのか、下手に出るのか、とかそういうやつだ」
「そうだなー」
俺は少し考える。
「基本、脅す方向でいいかな」
「師匠、初手から脅されるのです? 話し合いから入らなくていいのです?」
ステフが驚いている。常識的な冒険者の反応だ。
「相手は、悪党のネグリ一家だからな。大金を積むか、脅すかしないと情報は得られまい」
「なるほど……そういうものなのです?」
「多分な。脅し気味の話し合いだ」
情に訴えるとか、道理を説くとかは意味がないだろう。
「脅すのであるな。得意である」
「ティミ、吠えるのは控えてくれ」
「む?」
「む? じゃないぞ。大騒ぎになるからな」
「……そうか」
「……りゃあ」
ティミとシギがしょんぼりする。
そうこうしている間に、ダミアンのアジト前に到着した。
アジト前にはチンピラ風の男が二人談笑していた。
見張りを兼ねているのかもしれない。
「じゃあ、まずは俺が行こう」
「任せたのじゃ。わらわたちは眺めておくのじゃ」
そして、俺はアジトに向かって歩いていく。
「あ? なんだ、てめえは」
「ここがダミアンさんの家であってますか?」
「てめえ、こっちの質問に答えろよ」
「いやあ、ダミアンさんの家じゃなかったら、迷惑かけちゃうかなって」
「なに言ってんだ、てめえ」
とりあえず、最初が肝心だ。
俺はチンピラ一人のこめかみ辺りを、左手で掴む。
親指を左のこめかみに、小指を右のこめかみに当てて、五本の指にぐっと力を入れる。
「いで、いでええええ」
チンピラは俺の左手を両手で必死に握りながら、ひざをついた。
「で、ここがダミアンさんの家であってますか?」
「てめえ、ふざけんじゃねえ」
もう一人のチンピラが、殴り掛かってきた。
そのチンピラを右手で首を掴んで持ち上げた。
「ぐぐ、ううう」
苦しそうに呻く。
「で、ここがダミアンさんの家であってますか?」
「あ、あってる、あってるから……」
こめかみを握られている方が、答えてくれた。
俺は二人とも解放する。地面にぐしゃりと崩れ落ちた。
「もう、面倒だから、さっさと答えてくれよ」
「……てめえ、何者なんだよ」
「ダミアンさんはご在宅かな?」
「……」
「まただんまりか」
そう言って俺がチンピラに手を伸ばすと、
「い、いる! いるから!」
「人間、正直なのが一番だよ」
そう言ってほほ笑むと、俺はダミアンの家の中に入って行った。