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332 ダミアンとのお話し合いその2

 さすがに金庫から金を奪おうとしたら、怒るに決まっている。

 襲いかかってきたダミアンの子分たちを力づくでねじ伏せた。

 魔法を使うまでもない。


 呆然としているダミアンに向けて言う。


「もう終わりか?」

「……勘弁してくれ」


 ダミアンはさすが幹部だけあって、俺に襲い掛かっては来なかった。

 力量差がどのくらいかはわからなくとも、勝てないことはわかるのだろう。

 だが、子分たち総出でも傷一つ与えられなかったことはショックだったに違いない。


 うずくまる子分たちと、棒立ちのダミアンを無視して、俺は金庫に向かう。


「ダミアン。開けてくれ」

「……開けるわけないだろう」

「それもそうか」


 開けてくれないのなら無理に開けるしかない。

 魔法で取っ手を掴んで、扉ごとねじ切ることにする。

 クルスやルカなら素手でやれるかもしれないが、魔導士なので難しい。

 ダミアンにはばれないように魔法をうまいこと使って、金庫の扉をこじ開けた。


「ふんっ!」

 力を入れたような声をあえて出す。

 ダミアンに俺が怪力だと思わせるためだ。


「なっ」

「さすがに堅いな。いい金庫だ」

「……どうやって開けたんだ?」

「俺は錠前を開けるのが得意なんだ」


 そういって、ねじ切れた金庫の扉をダミアンの前に放り投げる。

 ダミアンが冷汗を流しているのを確認してから、俺は金庫の中身を確かめる。


 中には現金や金塊、宝石、借用書などが入っていた。


「やはり、ここに入っていたんじゃないか。嘘は良くないぞ」

 そう言いながら、金庫の中身を取り出していく。


「そ、それはダメな金なんだ。もっていかないでくれ」

「というか、全然足りてないからな? 不足分はお前に借用書を書いてもらうか……」


 俺は借用書をパラパラめくる。

 トムの署名が入ったものを見つけた。子供らしい下手な署名だ。

 額もごくわずかなものだ。俺たちが払った宿賃の三日分。

 王都で健康な成人男性が働けば、三日で稼げる程度の金額だ。

 だが、金利がべらぼうに高い。


 トムの借用書を抜いて、借用書類の一番上に乗せておく。


「勘弁してくれ……。俺たちは真面目に……」

「真面目に悪人をやってたのか? 真面目で勤勉な悪人は、不真面目な悪人より余程たちが悪い」


 真面目に子供相手に詐欺まがいなことをやっていたのだ。

 子供を騙すのは見逃せない。


 ダミアンはじっと俺の目を見つめてくる。


「……あんた、誰に頼まれた?」

「誰とは?」

「ビルか? あいつは俺がこっちで勢力を伸ばしていることを快く思ってないからな」

「ビルではないぞ」

「じゃあ、誰だ? どうせ俺が親分に気に入られていることを、ねたんでいる奴だろうが……」


 ネグリ一家内の勢力争いの話だろう。

 チンピラ同士の化かしあいなら好きにすればいい。

 だが、それが周囲に被害を与えるなら見逃すわけにはいかない。


「ネグリ一家の勢力争いなど、俺には興味がない」

「嘘をつくな、そうでなければ……」

「ダミアン、お前は自分が何をしたのかわかっていないようだな」

「……どういうことだ?」

「お前は虎の尾を踏んだんだよ。お前ごとき片手でひねりつぶせる人の怒りを買った」


 驚いているダミアンに言う。


「俺は今、ネグリ一家ごとひねり潰そうか考えているところだ」

「そんな、無理だろう?」

「というか、王都のネグリ一家は、今頃、潰れているかもしれんぞ?」


 王都にクルスとフェムがいる。

 ネグリ一家の動き次第では、もう消滅していてもおかしくはない。


 その時、部屋の外から声がした。


「ダミアンさん! 表に怪しい奴が……」

「おう! ここに連れてこい!」


 そして、ダミアンは俺を睨みつけた。


「形勢逆転だな」

「なにがだ?」

「仲間を外に伏せておいたんだろう? お前は強いが、お仲間はどうだろうな?」

「確かに、外に俺の仲間がいる。……まさかとは思うが、俺の仲間を人質にとるつもりじゃないだろうな」


 ダミアンはなにも言わず、にやりと笑った。

 俺の言葉を、焦りと勘違いしたのだろう。


 部屋にチンピラが入ってくる。

「ダ、ダミアンさん……」

「……お、お前」


 チンピラの顔は真っ赤だ。そして、足が宙に少し浮いていた。

 首を後ろから掴む手が見える。


「アルラ、外に居たら、こいつが案内してくれたぞー」

「そうか。それは良かった」


 左手で、チンピラの首をつかんだまま、ティミショアラが部屋に入ってきた。

 右手では三人のチンピラの襟首をつかんで引きずっている。


「師匠、勝手に入って来て申し訳ないのです」

 ステフはペコペコ頭を下げる。


「こいつらが入ってこいというのだから、仕方のないことじゃ!」

「もっも!」


 ヴィヴィとモーフィも入って来ていた。

 モーフィは気絶したチンピラの足を咥えて引きずっている。


「貴様がダミアンかや? 子分のしつけがなってないのじゃ!」

 ヴィヴィは怒っていた。


「なにかされたのか?」

「こやつ、モーフィを勝手に売ろうとしたのじゃ!」

「もっ!」


 牛は高価な財産だ。

 だますか脅すかして、強奪しようとしたのだろう。


 観念したように、ダミアンは天井を仰いだ。


「わかった。取引相手を全部言う」

「最初から、そう言えばいいのに」

 俺は笑顔でダミアンの肩に手を置いた。

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