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333 ダミアンからの情報

 ティミショアラはつかんでいたチンピラたちを床に置いた。

 そして、俺のところに来て肩をバシバシ叩いた。


「さすがはアルラだ! 相手がごろつきでも、話せばわかってもらえるのだな!」


 ティミは俺とダミアンが話し合いをしていたと思ったらしい。

 確かにダミアンは無傷だ。

 周囲にチンピラが倒れているのだが、気にしていないようだ。


「そういうことだ。何事も誠意をもって話し合えば、通じ合えるものだ」

「うむうむ。平和なのはいいことだ」

 適当に俺が答えると、ティミは機嫌よく笑う。


「話し合いだったのです?」

 ステフは転がっているチンピラたちが気になったようだ。


「話し合いにも色々あるのじゃ」

「もっ」


 ヴィヴィとモーフィはうんうんと頷いている。

 すると、引きつった表情のダミアンが言う。


「あれが、話し合いだと……?」


 ダミアンは何か文句がありそうだった。

 だが、そんなことは気にせず、ティミは空の金庫を手に取った。


「ふむ?」

 色々いじった挙句「あっ」っという声と同時に金庫をつぶす。

 まるで紙箱のようにくしゃりと潰れてしまった。


「すまぬ。ダミアンとやら。この箱がつぶれてしまった」

「…………」

 ダミアンが声を失い、顔を青くした。


「その箱は頑丈そうに見えて、意外と脆いから気を付けないとな」

 俺がそういうと、ティミも反省した様子だ。


「そうだな。すまなかった。弁償したほうがいいな。いくらだ?」

 ティミに言われて、ダミアンは首を振る。


「いえ、大丈夫です」

「そうか。良いのか。悪い気がするなー」

「いえ、本当に結構ですので」


 怯えた様子のダミアンを椅子に座らせる。

 そのとき、俺の懐からシギショアラが顔だけ出した。


「りゃ」

「ひぃいい」


 シギの可愛らしい顔を見て、ダミアンは震えた。

 なんでも怖い状態に陥っているのかもしれない。


「話し合いに応じてくれてありがとうな」

「……はい」

「で、精霊石は誰が買い付けるように言ってきたんだ?」

「……魔王です」


 ダミアン以外の全員の視線が俺に集まる。

 モーフィもシギも俺を見ている。忘れがちだが、今の魔王は俺なのだ。

 だが、俺には全く心当たりがない。


「魔王を名乗っている奴が他にいるのか?」

「他?」

「いや気にするな。その魔王ってのはだれだ?」

「……秋ごろ、魔王城に住み始めた奴がいます。そいつが今は魔王を名乗っています」

「へー。それは初耳だ」


 なかなか度胸があるやつだ。


「魔王城って、勝手に住んでいいのかや?」

 ヴィヴィの疑問はもっともだ。


「国王の代理人、この地を管轄する代官がいるだろう? なぜ何も言わないんだ?」

「わからない。賄賂をもらっているのか。脅されてるのか」


 どちらにしろ、代官はこの地をうまく統治できていないようだ。

 街の入り口に衛兵がいないのも、そのせいかもしれない。


「代官が何も言わないから、お前らも好き勝手にやってたのか」

「そうだ。そうだが……」

「なにかあるのか?」

「魔王は代官より恐ろしい……」


 ダミアンはそんなことを言う。

 ネグリ一家の幹部であるダミアンにそう言わせるとは、自称とはいえ大した魔王だ。


「ダミアン。お前のような奴でも怖いものがあるのか?」

「はぁ?」


 ダミアンに何言ってるんだこいつっていう目をされた。

 少し腹立つ。だから睨みつけておいた。


「ち、違う。俺は魔王よりあんたが怖い」

「そんなことはないだろう。俺は優しい」

「ソウデスネ」


 ダミアンは片言で返事をする。

 とりあえず、話を本題に戻そう。


「その自称魔王は、どんな風に精霊石を手に入れるように言ってきたんだ?」

「魔王の使いがやってきて、王都で精霊石が売りに出されたから、手に入れてこいって」


 王都からここまで往復で一か月。

 リンミア商会が売りに出してから、トクル・トルフが買いたいと言ってくるまで一週間。

 明らかにおかしい。


 自称魔王は特別な移動手段、もしくは連絡手段を持っているのだろう。

 転移魔法陣か、もしくは通話の腕輪か。それ以外の何かか。


「ダミアン。お前はどうやって、王都に連絡を取ったんだ?」

「俺が連絡の準備をしていたら、魔王の使いから書面を作れ、早馬を出すって言われて」

「なるほど、自称魔王の使いとやらに連絡は任せたのか」

「そういうことだ」


 明らかに早馬ではない。どんなに馬を急がせても一週間以上見たほうがいい。

 何らかの手段を持っているのは明らかだ。


 それから俺たちはダミアンに自称魔王について尋ねた。

 自称魔王は代官のかわりに徴税まで行っているらしい。

 王都から離れすぎているから王の支配が及んでいないということかもしれない。


「王国が、この地を支配しようというのがそもそも間違いなんじゃないか」

「そうかもしれぬのじゃ」


 一通り聞いた後、俺はダミアンに言う。


「もう悪いことするなよ」

「……わかった」


 信用できない言葉だ。だが、とりあえずは放置しておこう。

 俺は官憲ではないのだ。


「正直に話したから、落とし前をつけさせるのはやめてやる」

「ああ……」

「感謝の言葉は?」

「……ありがとう」

「よし。これからは心を入れ替えて、真面目に商売するんだぞ」

 俺は笑顔で、ダミアンの肩をバシバシ叩いた。


「そうしないと、怖いおじさんが遊びに来るかもしれないからな!」

「あ、ああ。気を付けるよ」


 ダミアンは反省しているように見える。

 これからはしばらく大人しくなると願いたい。

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