俺は狼の被り物をかぶって出発の準備を整える。
そして俺たちは代官所に歩いて向かうことにした。
同行するのは俺、ミリアにヴィヴィ、ティミショアラとシギショアラだ。
モーフィとフェムにチェルノボクはクルスと子供たちと一緒にお留守番である。
「アルさん、がんばです!」
「わふ」「もっも!」「ぴぎぃ」
クルスと獣たちが応援してくれる。
そんなクルスにミリアが言う。
「クルスさん、店のことはタントちゃんに任せてくれればいいので……よろしくおねがいしますね」
「わかったー」
クルスや孤児たちと獣たちに見送られて、俺たちは出発した。
それからはミリアを先頭に歩いていく。ミリアは少し動きがぎこちない。
「ミリア、もしかして緊張しているのか?」
「はい。緊張します。みなさんは緊張されないのですか?」
ヴィヴィが首をかしげながら言う。
「うーん。所詮は代官なのじゃ。王族とかそんなの関係ないのじゃ」
ティミショアラは胸を張る。
「我の方が偉いし強い」
「それはそうだな」
「我だけじゃなくアルラのほうが偉いし強いぞ」
「強いのは間違いないだろうが、偉くはないだろう」
「アルラは竜大公であるシギショアラの後見人であるぞ? 人族の王よりはるかに偉いのである」
「なるほど、そういう考えもあるのか」
それを聞いていたミリアが言う。
「アルさんも、緊張されないのですか?」
「正体がばれないようにうまく演技できるかは、少し不安だ。だが被り物があれば大丈夫だろう」
「そうなのですか」
そんな会話をしている間に代官所に到着する。
代官所の門のところにはしっかりと門番が立っていた。
門番は四十代と二十代ぐらいに見える魔族の男性だった。
「……秩序の回復を感じる」
「感慨深いのじゃ」
俺とヴィヴィがそんなことをつぶやいている横で、ミリアが門番に話しかける。
「狼商会のミリアです。代官閣下の召喚に応じ参上いたしました」
年配の方がミリアに対応する。
「ご苦労である。……して、後ろのものたちは?」
「私の護衛と客人です」
「護衛とな?」
この場合の護衛とはヴィヴィのことだ。ヴィヴィはか細い少女だ。護衛っぽくはない。
門番が本当に護衛なのかと疑問に思うのも無理はない。
「優秀な魔導士なのです」
「そうか、魔導士か」
門番はミリアの説明で納得したようだった。
魔族には優秀な魔導士が多いのだ。門番自身も魔族なので、よく知っているのだろう。
「なぜ閣下との謁見に護衛を連れてきたのだ?」
「私の護衛は牢に入っている商人を実際に捕まえた者たちでもありますので、代官閣下もお話をお聞きになりたいかと思いまして……」
「そういうことならば、了解した。それで客人というのは?」
ミリアの紹介を待たずに、ティミが一歩前に出る。
「我はティミショアラ。
若い方が驚いて声を上げた。
「えっ! 古代竜さまですか? まさか」
「おいっ! 控えろ」
強い口調で年配の方がたしなめる。
貴人、この場合は貴竜だが、偉い人を疑うような口調は失礼にあたる。
「……ティミショアラ子爵閣下、部下が失礼いたしました」
「構わぬ。今は我も人と変わらぬ姿ゆえな。信じられずとも無理はなかろう」
古代竜は伝説の存在だ。若い方が疑うのも無理はない。
「なんなら、この場で本来の姿に戻っても良いぞ?」
「い、いえ! それには及びません」
「そうか? それならばよい」
ティミに本来の姿に戻られては大変なことになる。
だから門番は慌てたのだろう。
年長の門番は、若い方を中へと走らせた。ティミの来訪を報せに行かせたのだろう。
「子爵閣下の寛容さに感謝いたします。そして、そちらの方は?」
門番は俺の方を見る。
「この狼の被り物をかぶっているのはアルラ。我の身内である」
「承知いたしました。すぐに代官閣下へお取次ぎいたしますので、中でお待ちくださいませ」
その後、待たされることなく、すぐに中へと案内してくれた。
門のところに門番はいなくなる。門番業務よりも、ティミの案内を優先したのだろう。
それだけティミに気を使っているのだ。
恐らく、ティミがいなければ、外で待たされたことだろう。
そのまま俺たちは応接室へと通される。
代官が到着してまだ時間が経っていないからか、まだ掃除が行き届いていない。
懸命に掃除したようだが、うっすらと埃が積もっている個所もあった。
「まだ掃除が終わってないのじゃな。埃が凄いのじゃ」
まるで意地悪な小姑のように、ヴィヴィが埃を指ですくう。
「そうだな。代官所の掃除より優先すべきことがあるのだろうな」
古代竜の子爵を迎える部屋の準備としてはふさわしくない。
だが、代官は古代竜の子爵が尋ねてくるとは、予想すらしていなかっただろう。
仕方のないことだ。それを失礼と咎めることはできない。
そんなことを話していると、「ドドドドド」という大き目の足音が聞こえた。
応接室の扉が開かれる。
「お待たせしました。埃っぽいところで申し訳ありません!」
勢いよく登場し、元気よく言ったのは、二十代半ばぐらいの女性だった。
品質の良い金属鎧を身につけ、帯剣している。金色の髪をポニーテールにしていた。
ミリアが戸惑いながら立ち上がる。
「あ、あの……」
「自己紹介がまだだったな。私はベルダ・リンゲン。国王陛下からエルケーの代官に任じられたものだ」
ミリアは即座に片ひざをついて頭を下げる。ヴィヴィもそれに習った。
だが、俺はティミの身内としてきているので、ひざをつくわけにはいかない。
ちなみにリンゲンとは王国の名前。王家の家名でもある。
「私はミリアと申します。狼商会の商会長をしております」
「頭を上げてくれ。その若さで商会長とは、たいしたものだ」
「ありがとうございます」
「で、子爵閣下はどなたかな?」
そういって、ベルダは頭を下げていないティミと俺に目を向けた。